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第七十二話 英雄の帰還

「専用機まで用意されるとは、思っていませんでしたよ。良かったんですか?」

「なに、迷惑料みたいなものだ。それに俺が用意したわけじゃない」


 平井先生に何で専用機まで用意してくれたか聞いてみるも、よくわからない回答。

 いや、理解りたくないと言ったほうが正しいだろうか。


「迷惑料、ですか」

「あー、ま、すぐに分かる」


 たかが高校生に専用機を用意するだけの迷惑、か。

 雫石さんの関連ならわかるけど、言葉を濁していることからこの迷惑料は先払いなのではないかと訝しむ。


「はぁ」


 まぁ、疑った所でもう賽は投げられたというか飛行機は飛び立ってしまっているのだが。


 九頭龍戦の三日後、漸く(ようやく)開放された俺達は、神事省の所有する飛行機で一路、地元を目指していた。

 大型機に比べると若干揺れが気になるものの、知り合いしか居ないというのはいいものだ。

 多少騒いでも問題ないしね。

 何よりシス達が皆窓際の席に座れたのは良かったと思う。


「っと、そろそろだな」

「はい」


 一時間ちょっとの空の旅も終わりが近づく。

 席についてシートベルトを締め、これまでのことを振り返る。


 入学してから四ヶ月。

 たった四ヶ月なんだよな。


 クエスト、神の従者、九頭龍戦、神の従者、神の従者……。

 なんか連中と妙に絡んでる気がするが気のせいだろうか。


 まぁ、九頭龍戦も終わったし。

 これから俺の夏休みが始まるんだよな。


 夏祭りや花火大会、生徒会主催の林間学校も控えている。

 これまでクエストや九頭龍戦の訓練でまともに遊べていなかったし、思いっきり遊びたい。

 チームのメンバーとも遊ぶ約束してるしね。

 ああ、楽しみだな。



 空港に降り立ち荷物を受け取り、到着ロビーを抜ける。

 なるほど。

 警備の連中は一体何をしていたんだと思っていたが、彼らは彼らでしっかり仕事をしてくれていたんだなと今になってわかる。

 失ってみて初めて分かるものと言うものもあるのだなぁ……。


 輝くフラッシュ。

 向けられるマイク。

 俺の平穏な生活は土足で踏みにじられた。


「神宮寺さん! こちらに視線をお願いします!!」

「神無月さん! 今回の九頭龍戦は素晴らしい成果でしたね! 何かコメントをお願いします!!」


 出口に詰めかけていた報道陣。

 最初は誰か有名人でも来るのかと思っていたが、その有名人とは俺達のことだったようだ。


 え、これどう対応すればいいの?

 助けて平井先生!


「あー、もうしかたないな。すみません、後ほど場を設けますので一度引き上げていただけないでしょうか」

「すみません! 先生はちょっと下がってもらっていいですか!?」

「平沢さん! 山下さん! 一年生でありながら本戦へと出場した感想を!!」

「メダルを見せて下さい!! あ、かじってもらっていいですか!?」


 平井先生の制止も虚しく、彼らの勢いは止まらない。

 完全に行く手を塞ぎ、俺達に質問を投げかけてくる。


「えっ、そのっ」

「あ、あのっ」


 神宮寺先輩達はさすがの貫禄というか、動じていないが平沢達は目を白黒させて混乱していた。

 その混乱している姿も遠慮なくフラッシュで照らされる。


「神無月、埒が明かない。システムウィンドウで周りを囲ってくれ」

「……、仕方ないですね」


 能力の濫用は褒められたことではないがこれでは仕方がない。

 変に報道されなければいいんだけど……。


「失礼しますね」


 一応一言声をかけてからシステムウィンドウを展開。


 ちょっと待ってください!

 一言だけでも!

 と言った声が聞こえてくるが


 マスコミの群れをかき分けて俺達はタクシー乗り場へと向かった。


「迷惑ってこのことですか」

「惜しいな、この事『も』だ」


 『も』って、まだ何かあるのか?

 ちょっと想像できない。


「さっきも言ったが、記者会見の場を設ける必要がある。協力してくれよ?」

「分かりました……」


 漸く一休みできると思ったらこれとは。

 他人事の時は有名税だよなとか思っていたが、いざ当事者になるときついものがある。

 まぁ、すぐに収まるだろうけど。


「周囲の目を今まで以上に意識するようにな。それから不必要な外出はしばらく控えたほうがいいだろう」

「外出もですか?」

「ああ。今まであまり感じていなかっただろうが、学校の内部は部外者がおいそれと入れないようになっているからな」


 平井先生曰く、学校周辺には対人の結界が張られているそうだ。

 結界と言っても侵入者があるとアラームが上がる程度のものだが、それで警備員がすぐに駆けつけるというわけだ。

 また、寮には認識阻害の結界まで張られており、盗撮も防いでるのだとか。


「一応、冒険者の卵が居るわけだからな。それなりの防護はされているんだよ」


 モンスターの襲撃へは流石に防護していないがな。

 そう言って平井先生は笑う。


 いや、笑えないです。

 俺、それで死にかけたんですよ?


「この騒動、どれくらいで収まりますかね?」

「どうだろうな。なんせ一年生が本戦へ出場したのも、九頭龍に選ばれたのも前代未聞だ」


 しばらくは騒がしいだろう。

 そう平井先生は続けた。


「一応水島先生もフォローしてくれるはずだ。担任だしな」

「水島先生ですか」


 悪いけどあまりあてにはしないほうが良さそうだ。

 普段のポンコツっぷりを見てると、ちょっとね。


 まぁ、せいぜい一週間程度のことだろう。

 世の中そんなに暇じゃない。

 たかが高校生相手だ。

 すぐに興味は薄れるに違いない。


 タクシーの後ろをついてくる謎のバイク集団から目を背け、これからのスケジュールに意識を回すのだった。

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