第七十話 護衛? いいえ、牽制です。
「伝達漏れがあったようだな」
「驚きましたよ」
護送車の車内で俺の正面に座る神宮寺先輩達と表彰式を振り返る。
窓に沿って設置されている長椅子が少し硬いが文句は言うまい。
「まさか俺が選ばれるなんて思ってませんでしたし」
準々決勝まで進出した選手の他に、本戦出場選手の中から一名、九頭龍が選ばれる。
選定基準は公開されていないが、将来性のある者に与えられるともっぱらの噂だった。
「一年生で本戦出場、それも三回戦進出だ。十分に玉如足る資格はあるだろう」
「あー、まぁそうかもしれませんが」
神宮寺先輩が首から下げているメダル。
そしてそのメダルに記されている『青龍』の文字。
優勝の証だ。
それが二枚。
俺は、この人を超えることが出来るのだろうか。
そんな考えが脳裏をよぎる。
俺も確実に実力を伸ばしてきたつもりだが、力をつければつけるほど、その高みの遠さが理解できる。
近づいた分だけ遠くなる。
そんな気持ちにさせられていた。
「それにしても神無月、強くなったな」
貴方がそれをいいますか。
神宮寺先輩に認められるのは素直に嬉しい。
だが、自分の力不足を自覚している分、恥ずかしさも覚える。
「いえ、まだまだですよ」
「ふっ、そうか。俺も研鑽しなければすぐに追い抜かれてしまいそうだ」
「はい?」
いやいや、ありえないですから。
俺、人外の領域に足踏み込んでませんからね?
「ん? さては自分の実力に気がついていないな?」
「そうは言ってもですね……」
訓練では毎回フルボッコ。
九頭龍戦では実力でもぎ取った九頭龍と、お情けの九頭龍。
これでは実力も何も無いと思うのだ。
「やれやれ、存外鈍いな」
神宮寺先輩はため息をつきながら続けた。
「神無月、その考えは改めないと――いつか仲間を殺すぞ」
鋭い視線とともにその言葉は俺を貫き、頭にこびりついてしばらく剥がれなかった。
「もう少し緊張とかそういうの無いのかしら」
神宮寺先輩と話していると水島先生が苦言を呈する。
「あー、まぁ、色々ありすぎて今更って感じですし」
ちらりと左右を見る。
俺の両肩に頭を乗せて、シスとミキが船を漕いでいた。
リコは俺の膝の上で爆睡中だ。
エアコンの効いた車内とは言え、少し暑い。
「はぁ、可愛げないわねぇ」
これだけ神経が太いから切り抜けられたのかしら。
そう言いながら水島先生は神宮寺先輩の隣に腰を下ろした。
「後一時間位で到着するから、もう少しだけ我慢してね」
「はい、分かってますよ」
水島先生の立場もあるし、大人しくしとかないとな。
九頭龍戦があったから事情聴取は後回しにされていたが、終わったのなら関係ない。
表彰式終了後すぐさまの呼び出しだった。
「まぁ、九頭龍相手に手荒な真似はしないと思うから」
「あはは……」
これ、受章してなかったらどうなってたんだろう。
いや、相手は公的機関だし無茶はしないと思うのだけど。
俺達大会参加メンバー。
つまり神の従者に襲われた面々を乗せて護送車は夜の高速道路をひた走る。
今回は護衛の車両が前後についているから安心だ。
まぁ俺達の護衛と言うより、下手に襲撃があると周りに被害が及ぶからそれを防ぐための牽制と言う意味合いが強いのだろうが。
それでも気を緩めれるのはありがたい。
張りっぱなしだと、その内切れてしまうしな。
その日は夜も遅いということで神事省が用意してくれたホテルに泊まり、翌日からの事情聴取に備えることになった。
俺に割り当てられたホテルの部屋にはベッドが四つ。
さすがは神事省と言ったところか。
俺達への理解がしっかりされているらしい。
「なんでこんなにベッドあるねん」
「ほんとね」
「何を考えているんだか」
少なくともうちの精霊たちよりかは。
▼▼▼
▼▼
▼
「神無月様はこちらへどうぞ」
翌朝、ホテルから護送車で神事省へ移動した俺達は、それぞれ別の部屋へと案内される。
証言がお互いに影響されないようにするための配慮だろう。
「こちらにてしばらくお待ちください」
職員が一礼し、離席する。
テーブルに目をやると少しお高そうな茶菓子がたくさん並んでいた。
これ、食べていいんだよね?
尤も、だめと言われても既にリコが頬張っているのだが。
「ひょれ、おいひいで!」
口に物を入れたまま喋らないの。
ああ、クッキーが溢れてる。
「ちょっとリコ、洗濯するの私なんだからね!? もうちょっと行儀よく食べてよ!」
「シスも食べてみ! ほれ、あーん」
「んぐっ、あ、美味しい」
「せやろ?」
まぁ、幸せそうにしてるし良いか。
シスもそれ以上言わないみたいだし。
「どっこいしょっと」
彼女達を尻目に、俺はソファーに腰を下ろす。
それと同時にリコが膝の上に飛び乗ってくる。
バランスを崩しそうになったがなんとかキャッチに成功。
このやり取りも慣れたものだ。
それにしてもまだ疲れが抜けない。
ソファーに腰掛けたまま寝てしまいそうだ。
「パパ」
リコの頭に顎を乗せて目をつぶっているとミキに袖をひかれる。
「わかってるよ」
「そう。あまりいい趣味じゃないよね」
「まぁ見られて困るもんじゃないし」
入り口と反対側にある壁の向こうに人の気配を感じる。
そして壁の一部、模様に見せかけているがマジックミラーっていうんだっけ?
ともかくそこから視線がこちらに向かっていることがわかる。
「害意も感じないしな」
「そう、パパが良いなら良いんだけど」
ガチャリ
ミキと喋っていると静かに扉が開く。
「あー、あまりあからさまにされても困るんだけどな?」
「平井先生?」
何故ここに?
と思っていると平井先生は続ける。
「俺が事情聴取した方が良いだろうって上の判断でな。俺も関係者なんだが良いのかねぇ?」
「はぁ」
そんなこと言われても知らんがなとしか言えない。
しかし、これでは少し不安になってしまうな。
別の意味で。
「ま、形だけだから気を楽に……、なんて言わなくても大丈夫そうだな」
「あはは……」
苦笑いする平井先生の視線の先には口いっぱいにお菓子を頬張ったシスの姿があったのだった。




