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第六十九話 九頭龍

「っ!?」


 試合開始と同時にシステムウィンドウを展開しようとしたが、直感に従い先に首を反らす。


 ヒュンッ


 さっきまで俺の顔があった場所を何かが通過したようだ。

 恐らく敵の攻撃だろう。


 頬に鋭い痛みが走る。

 躱したつもりだったが掠めていたようだ。


 なんとか不意打ちを防いだものの、なんという繰り出しの速さだ。

 俺も能力の発動速度には自信があったが、相手はそれを上回っている。

 もちろん、消耗していることも一因だろうが、それを含めても十分すぎる。


「ちっ」


 相手は舌打ちをすると同時に、水の龍を出現させこちらに突っ込ませてきた。


「させないよ!」


 シスがシステムウィンドウを操作し、水龍の一撃を受け流す。

 その一撃はフィールドをえぐり取り多数の影を作り出した。


 なるほど、こっちが本命ってわけか。


 にやりとこちらを見やると、相手は自らの影に沈んでいく。


「逃がすか! ミキ!」


 ミキに攻撃を指示すると同時に俺はシステムウィンドウを展開。

 だが、ミキの操作する樹木の槍が相手を貫く前に影に潜り込まれてしまった。


 くそ、持久戦になるとまずい。

 速攻で決着をつけないと消耗で俺の負けだ。


「っ!」


 再び殺気を感じ、直感に従って横に飛び退く。

 見ると虚空に水の刃が出現、俺の胴体があった位置を貫いていた。


 どうなっているんだ。

 影から刃が出てくるというのなら理解できる。

 しかし今のは影のないところからの一撃だったぞ。


「新しく得た能力ってことか……?」


 神経を張り詰め、相手の出方をみる。

 影に潜り込まれた以上、出てくるまで俺には打つ手がない。


 くそ、試合開始直後だと言うのに既に目眩がしてきている。

 早く、早く敵を見つけ出さないと……。


「しかし、どうすれば……」

「ふふん。私に任してっ!」


 シス?

 どうするつもりだ?


「システムウィンドウオープン!」


 シスの声に合わせて俺達の周囲に最大数のシステムウィンドウが展開される。

 別に声に出さなくても展開できるのに、態々声に出してるってことは相当テンションが上っている証拠だ。

 嫌な予感しかしない。


「見ててよねっ! バックライトフラーッシュ!!」


 シスの掛け声と同時にシステムウィンドウが煌々と輝く。


 うわっ、まぶしっ!

 だが目を閉じるわけにもいかない。

 薄目にして周囲を確認すると輝くシステムウィンドウが飛び回り、影を打ち消していっていた。


 しかし、それってのありなのか?


「ぐあっ!?」


 俺の後ろから声が聞こえ、対戦相手が地面から打ち出されるように上空へと飛び出す。

 そして墜落。

 地面と熱烈な抱擁を交わした。


 ……、ありだったらしい。


 直ぐに立ち上がろうとするが、その姿は満身創痍だ。


 よし、これなら!

 と、気を取り直してそう思った所で俺の視界が歪む。


 敵の攻撃ではない。

 消耗している所に全力で能力を使用したせいで力尽きたのだ。


 そして今度は俺が地面と抱擁を交わす羽目になり――


「勝者……校!」


 ――審判が相手の勝利を宣言する声を、遠ざかる意識の中聞いたのだった。


▼▼▼

▼▼


「「「「……」」」」


 気まずい雰囲気が看護室内に満ちる。


 あれから直ぐに意識は取り戻したのだが、気まず過ぎて誰も言葉を発せないでいた。

 当たり前である。


 これで勝っていればベストエイト、九頭龍の称号が得られていたのだ。

 それでもまともに戦った上での敗北であればよかった。

 しかし、敗因は自滅である。

 過去、このような敗因で負けた出場者は居なかっただろう。

 情けなさすぎる。


「失礼します」


 ノックの音がして誰かが入ってくる音がする。


 シャッ


「大丈夫か?」

「約束通り見舞いに来たぜ。ほれ、ジュース」


 おお、救世主よ。

 今の俺には君が天使に見える。


「っと、投げんなよ。サンキュ」


 山下が投げてよこした缶を受け取り礼を返す。


「それにしても、しまらない決着だったな」

「前代未聞らしいぜ?」


 二人がからかい混じりに笑ってくれたおかげで気まずかった空気が霧散する。


「うっせー。無事生還したことを喜んでくれよな」

「まぁねぇ」

「俺だと確実に死んでたと思うわ」


 うん、俺も危なかったしね。

 やはり上には上が居るものだ。


「お邪魔します」

「失礼します……」

「入るよ」


 続いて綾小路達も見舞いに訪れてくれた。

 しかし、これで俺の夏も終わりだな。

 長かったような、短かったような。

 少し切ない気持ちにさせられてしまう。


 尤も、明日は神宮寺先輩達の試合があるのでまだ帰ったりはしないのだが。

 気を取り直して応援しないとな。


 俺は山下から貰った冷たいお汁粉を眺めながら目を閉じた。


 ……、お汁粉ってジュースなのか?


▼▼▼

▼▼


 当然のごとく神宮寺先輩は団体、選抜個人両方で優勝を飾った。

 驚異的な戦闘力で相手を圧倒。

 準決勝、決勝と鎧袖一触だった。


 表彰式では堂々と神事大臣からメダルを受取り、こちらに振り向くとそのメダルを高々と掲げる。

 煌々と蒼白く輝くメダルに『青龍』の文字。

 神宮寺先輩の俺を見るその目は、お前も早くここに来いと言っているようだった。


「神無月君、なんでここにいるんですか、早く前に出て下さい」

「はい?」


 俺も来年こそはと思いながらその目を見つめ返していると、急に声をかけられる。

 見ると、かなり焦っているらしい大会委員の人が居た。


「前にって、表彰台にってことですか?」

「そうですよ、連絡行ってるでしょう?」


 え?

 どういうことだ?

 俺、ベストエイト入りしてないんですけど?

 と言うか連絡って何?


「ああ、もう、早く行って下さい!」

「え、え、はい」


 訳のわからないまま受賞者達の並ぶ列へと連れられて行く。

 その間にも授賞は進み、最後の一人の名前が呼ばれた。


「神無月 悟君。貴殿の奮戦を認め、ここに九頭龍・玉如(ぎょくにょ)の称号を授与します」

「へ、あ、はい、ありがとうございます?」


 苦笑いを浮かべる大臣からピンクシルバーのメダルを受け取る。

 そして振り向くと、頭に手をやる神宮寺先輩、そして苦笑いを浮かべる仲間達の拍手が俺を向かえてくれた。

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