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第七話 シスの三分クッキング

「嘘だろ、おい……」


 そんなことがあって良いのかよ……。

 伊集院先輩を抱きかかえたまま、俺は途方にくれてしまう。


 上層へと登る階段。

 そこに先程までオークが持っていたはずの棍棒がはめ込まれていたのだった。


「ぐわっ!」

「霜月!? この野郎!! がふっ!」


 背後で霜月先輩と猫屋敷先輩の倒れる音がした。


「そんな、馬鹿な……」


 恐る恐る振り返ると、オークがニヤニヤとこちらを見ながら歩いてくるのが見えた。

 獲物が逃げれないことがわかっているのだろう。

 既に狩りは終わったと言わんばかりに、堂々と、ゆっくりと。


「もう、駄目なのか……」


 思えば入学式の日、偶然拾った命だった。

 それを、こんな所で……。

 今度こそ、死ぬのか……。


「死なせないよ」

「え?」

「悟の、そして私の力。しっかり見ててよね!」


 シスは俺とオークの間に立つと不敵な笑みを俺に向けた後、オークを睨みつけた。


「シス……? 何を……?」


 まさか、俺を逃がそうと、囮になろうと考えているのだろうか。

 だが、逃げるわけには……。


 そう思っていると彼女はオークに向けて手を掲げる。


「システムウィンドウ、オープン!」


 彼女の言葉に応じ、システムウィンドウが開く。

 闇を払うように青白く輝く聖なる石版。

 そしてその輝きに照らされる彼女の横顔は、気高く、尊く。

 この世に降臨した天使の様だった。


「GURURU……? BUMOOOOOO!!!」


 一瞬オークはたじろいだものの、咆哮を上げるとシスに向かってその腕を振り下ろした。


 ドムッ!


 鈍い音がホールに響く。


「GYAAAAAAAAA!!!!」


 と、同時にオークの叫び声が響き渡った。


「え……?」

「ふふ、痛いでしょ? 悟を驚かした分、しっかり痛い目にあってもらうよ!!」

「GRYUUUAAAAAA!!!」


 空中をシステムウィンドウが飛び回り、オークに衝突する。

 その度にオークはバットで殴り飛ばされるかのように錐揉み回転し吹き飛ばされる。


「ほらほら! まだまだこんなもんじゃないよ!!」

「お、おぃ……」

「これは悟を驚かした分! これは悟を驚かした分! これも悟を驚かした分!」


 シスはシステムウィンドウでオークを滅多打ちにしていった。


 もうやめて! オークのHPはもうゼロよ!!

 システムウィンドウが唸りを上げて空中に輝線を描く。

 その度にオークから血が、肉が、(はらわた)が飛び散りオークは悲鳴を上げた。


――十分後。


「ふふ、反省した?」

「……」


 ほとんど反応の無くなったオークを前にシスは仁王立ちをしていた。

 上気し、恍惚とした表情を浮かべるシス。


 誰だよ、気高いだとか尊いとか言った奴は。

 瘴気だとか狂気って言葉がふさわしいだろ、これ。


「でも許してあーげないっ!」


 彼女の言葉と同時に、闇の訪れを告げるかのように禍々しく輝くシステムウィンドウは、オークの首元に死の線を描く。

 そしてオークの頭は体と離れ離れとなった。


「ふぅ、これで終わりかな」


 血を払うようにシステムウィンドウを軽く振り回した後、彼女は一息つく。

 その姿はまさに魔王、この世に降臨した悪夢だった。


「……」

「あ、悟、おまたせ!」

「お、おぅ……」


 ちょっと怖すぎるんですけど!?

 え、何この子、あれか? あれなのか!?

 病んデレって奴なの!?

 ちょっと待って、ヤバクナイ!?


「ダンジョンボスは倒したから、後はコア破壊するだけだね」

「え、ああ、そうなる、のか?」

「そうそう、早く戻らないと明日のお弁当作る時間なくなっちゃうから急ごっ。コア破壊したらすぐに地上に戻れるしね!」

「あっ! 先輩達は!?」

「大丈夫だよ、先輩達はちゃんと格納してるから」

「格納って」


 え、先輩達ストレージの中に格納されてるの?

 システムウィンドウって、たしか生き物は格納できないんじゃなかったのだろうか?


「死んでたから」

「なっ!?」

「あ、大丈夫、鮮度そのままだから地上に戻って能力者がいる所で出してあげればちゃんと蘇生できるよ」


 そう言ってニッコリ笑うシスに俺はドン引きだった。

 鮮度って人に使う様な言葉だったっけ?

 俺は若干自分の常識が信用できなくなってきたのだった。


 本音では『いや待て』と言いたい。

 が、そうは言えないヘタレな俺であった。

 いや、誰だってそうだよな?


「こっちこっちー」

「おぅ……」


 機嫌よくダンジョンコアの元へ俺を案内するシスの背中は、とても遠く感じた。

 これ、今日から寝室分けたほうが良いんじゃないだろうか……。

 そんな部屋無いけど。


▼▼▼

▼▼


「だからそこどけって言ってるのよこの女狐!!」

「いやじゃ。うちここがええもん」


 ……。

 どうしてこうなった。

 いや、わかってる。

 わかってるよ。

 コアを破壊したからね。

 新しい能力、新しい精霊が手に入ったんだよね。

 うん。

 でもさ……、なんでまた人型なんだよ!?


「ますたーも嫌やないやろ?」

「え、おう、まぁ」

「なっ!? 悟の浮気者!!」


 膝の上に座られて上目遣いにんなこと言われて否定なんぞ出来るか!!

 つーか浮気ってなんだ浮気って!!

 言えんけど!!


「くっくっく……」

「ふぁっ」


 くっ、首を揺らすなよ。

 狐耳がちょうど鼻の辺りにきてくしゃみが出そうになるじゃないか。

 尻尾が手にあたってくすぐったいし。

 それと腰を揺らさないでくれ……。


「ちょっと! 悟が迷惑そうにしてるじゃない! いい加減降りなさい!!」

「ふんっ、ますたー。今日は一緒の布団で寝てもええ?」

「はぁ!?」


 リコのセリフにシスのボルテージがピークに到達する。

 く、このままでは再び魔王が現世に降り立ってしまう。


「だってうち、布団無いし? まさか床に直接寝ろとはいわんやろ?」

「ぐぬぬぬ……」

「あー、シス、落ち着け、な?。リコも煽るな」


 腸の様に舞い、首の様に落ちないように気をつけながらシスの怒りを沈める。


「うう、わかったわよ……」

「はーい」


 シスとリコは相性悪いのかな。

 二人共俺の精霊なんだからどうにか仲良くしてもらわないと困るのだが……。


「明日から忙しくなるからな、今日は早く寝るぞ」

「はーい」

「リコ、あんたは私と同じ布団だからね!」

「なにゆえっ!?」


 リコ、やめるんだ。

 魔王が降臨してしまう。

 だが、いつだって制止の声は間に合わない。


「同じマスターの精霊同士、な・か・よ・く、しなきゃね?」

「横暴や! うちはますたーの布団がっ!」

「うっさい!!」

「ぐえっ」


 リコが大人しくなったことを確認し、シスも布団に潜り込んだ。


 はぁ、今日は本当に疲れたな。

 地上に帰還してから会長にすぐに連絡し回復系上位能力者を複数手配してもらって、引き渡した後はずっと事情聴取。

 それが終わると今度は手に入れた能力の確認やら何やらで気がついたら日をまたぐ時間になっていた。

 今日のところはとりあえず帰してもらえたが、明日も一日拘束されそうだし。


 それにしても、何か忘れている気がするのは気のせいだろうか。

 割りと重要なことだったと思うのだが。

 ああ、もうダメだ、眠い……、おや……、すみ・……。



「食い扶持が更に増えたってことだよな……?」


 翌朝、財布の中身を見て俺は自体の悪化に蒼白となるのだった。

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