第六十七話 学ラン
スタジアムに着き、応援団の指定席を探す。
参加校専用のスペースが用意されているから助かるな。
専用スペース以外は満員で座れそうにないし。
「あ、神無月君、こっちこっち!」
綾小路達が最前列の特等席を取ってくれていた。
「お、おぅ?」
最前列に並ぶ、チーム聖撃のメンバー達の姿に戸惑いながら彼女達の方に向かう。
彼女達の隣を見ると、山下達もそこに並んでいた。
「参加者だからって一番前の席を譲ってもらえたんだ」
「ラッキーだったぜ」
平沢と山下の手にはメガホンが握られていた。
これで応援するってことなのかな。
「私達はそのお零れ……」
「これも神無月のお陰だな!」
寺門が嬉しそうにメガホンで俺の肩を叩く。
俺達の試合の時は応援席をじっくり見る余裕なかったから気が付かなかったが、皆メガホンを持っていた。
「遅かったねー」
メガホンを渡してくる綾小路の言葉にスタジアムの中央を見る。
そこには係の人が凹んだ地面を埋めたり片付けをしている姿があるだけだった。
これはまさか。
「神宮寺先輩の試合、間に合わなかったか?」
少し不安に思いながら綾小路に聞く。
襲撃さえされなければ間に合っていたはずなのだが、かなり時間をロスしている。
一応録画もされていると思うが、生で見るのとは違う。
「ううん、次の試合だよ」
「そっか、よかった」
神宮寺先輩の試合は絶対見たかったからな。
それなら一安心だ。
「ふぅ」
席につくと思わず息を吐く。
なんかものすごく遠回りになってしまったな。
「あれ? なんか疲れてる?」
「んー、ちょっとなー」
無意味に不安を煽るのもどうかと思い、昨日の疲れが抜けてないんだと綾小路を誤魔化す。
「ところでさ」
さっきからずっと疑問に思っていたことを俺は口にする。
「何で皆学ランなんだ?」
そう、綾小路達女子生徒は何故か学ランを着込んでいたのだった。
学ラン、鉢巻、そして襷掛け。
それぞれの胸部装甲が襷で強調され、少し目のやり場に困る。
「水島先生が用意してた……」
「コスプレっていうのかな?」
「伝統的な応援団のファッションらしいぞ」
綾小路達が事情を説明するが、それ水島先生の趣味だろ。
いやチアの格好されても、それはそれで困るけどさ。
それにしても、水着とはまた違った魅力があるな。
こう、なんとも言えないものが滾ってくる。
「あ、シスちゃん達のもあるから着替えてきたら?」
「え、ほんと?」
「更衣室あっちだけど、わかる?」
「案内してほしいかも」
そんなことを考えていると綾小路達に手を引かれ、シス達は何処かへ消えていった。
「おい、誰が本命なんだよ?」
「は?」
綾小路達の姿を見送ると、山下が俺に近づいて小さめの声で問いかけてきた。
「それは僕も気になるかな」
平沢までもがそれに追随してくる。
「本命ってなんだよ」
「そりゃ決まってるだろ? これよ、これ」
小指を立てる山下に、頷く平沢。
ああ、そういうことか。
「別に、綾小路達はただのチームメイトだぞ?」
「嘘だろ? 正直になれよ」
「僕達も九頭龍戦の間だけとは言え、チームメイトじゃないか。仲間に隠し事は良くないと思うんだけど?」
隠し事も何も事実なんだけどな。
彼女達に対する、特別な思いは無い。
無いよね?
たぶん無いはず。
今まで意識してなかったのに、言われると急に気になりだしてくる。
皆美人だし、仲もいいし。
あー、くそ、顔が赤くなりそうだ。
「あ、それかもしかして二年の先輩か?」
「ああ、生徒会の? なるほどね」
「なるほどね。じゃねーよ。伊集院先輩もただのチームメイトだって」
でも美人だし優しいんだよな。
彼女とかにするならああいう人が理想なのだろうか。
「「で、誰なんだ?」」
「違うっちゅーに……」
これからどんな顔して彼女達と顔を合わせれば良いんだ。
顔合わせた瞬間、顔から火を吹きそうなんですが。
「あ、まさか精霊が、とか?」
「いやいや、それはないでしょ。と言うか流石に失礼だって」
「っと、悪い悪い、親しき仲にも礼儀ありだよな。悪かったって、そう怒んなよ」
「山下が言い過ぎるから……」
まだ続くかと思ったら山下が焦った表情で急に謝って来て拍子が抜ける。
全くなんだって言うんだ。
「は? 別に怒ってないし」
まぁ、これで止まってくれるならいいんだけどさ。
「そうか……?」
「そうだよ。っと、悪い、ちょっとトイレ行ってくるわ」
「あ、ああ」
うん、別に怒ってはいない。
なぜか少しムカついただけで。
先程の戦闘の余韻がまだ残ってるのかね。
「どうやっ!?」
「パパ、ボクはどうかな?」
「私もっ!」
「おー、似合ってる似合ってる」
「せやろー?」
トイレから戻ってきたら学ラン姿で腕を組む三人のコスプレーヤー、もといシス達が俺を出迎えた。
「これも貰ったんやで!」
胸を張るリコがドンッという音と同時に背後を指差す。
「えーっと?」
リコの後ろには彼女より大きい太鼓が鎮座していた。
そして尻尾でバチを器用に掴み叩いている。
「上手いやろ?」
「せ、せやなー」
何で苛ついていたんだろうな。
ささくれだっていた心が和やかになっていくことを感じる。
「あ、もうすぐ試合開始みたいだよ」
綾小路がそう言ってフィールドを指差す。
ちょうど神宮寺先輩達が入場してくるところだった。
漸くか。
頑張って早く戻ってきたかいがあったというものだ。
「この角度で生で見るって新鮮だな」
「そうだね、いつもは対峙してるのにね」
山下と平沢が感慨深げに腕を組む。
「そう、だな」
俺はそう呟くとフィールドを注視するのだった。




