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第六十六話 束の間の休息?

「朝、か……」


 目を開くとカーテンの隙間から溢れた朝日が目に入る。

 少し頭が痛い、寝すぎたみたいだ。


「おはよ、よく寝てたね?」

「んー」


 シスがタイミングよく珈琲を持ってくる。

 いつものことだが、よく俺の起きるタイミングが分かるものだ。

 前に一度聞いたときには『ずっと見てるからね』と少し怖いことを言われたのでそれ以上聞けなかったんだよな。


「はい、砂糖とミルク多めね」

「さんきゅ」


 マグカップを受取り、口をつける。

 適度に熱い珈琲が心地良い。


「十二時間以上寝てたか」

「仕方ないよ、一昨日は殆ど寝てないし。とりあえず顔洗ってきたら? 洗面所は入り口向かって左だよ」

「そうするわ」


 ちらりと視線を隣のベットに向けると、リコとミキが気持ちよさそうに寝ていた。

 この平穏を、守りたいものだ。

 そう思えた。



「わーお……」


 鏡を見ると寝癖がひどい事になっていた。


 途中で起きて風呂に入った時にちゃんと乾かさずに寝てしまったからなぁ。


 頭まで水をかぶって無理やり寝癖を直す。


「はい、タオル」

「ありがと」


 いつの間にか後ろに居たシスから乾いたタオルを受取り拭う。

 漸く意識がはっきりとしてきた。


「選抜個人の三回戦は第一試合みたい」

「そっか、相手は?」

「九条第一高校だって」

「うへぇ」


 九条第一って言えば、去年の団体戦優勝校じゃないか。

 選抜個人も九頭龍を一人出していたはず。


 こりゃ無理かな。

 まだ消耗も回復してないし。

 体調が万全なら万に一つくらいの可能性はあったかもしれないが。


「絶対勝とうね!」

「お、おぅ」


 両手をギュッと握り上目遣いでそう言われると無理とも言い辛い。

 まぁ、やれるだけやってみるか。

 この程度でやる気が出るとは、我ながらちょろいな。


「リコ、ミキ、もう朝だよ」

「あとごじかん……」

「ん……」


 五時間も寝てたら試合が開始されてしまう。


 今日の午前中は、神宮寺先輩達のチームの試合を応援団に混ざって応援する予定となっている。

 応援もそうだが、メインは神宮寺先輩達の戦い方を見て学習することだ。

 凄すぎて参考にならないかもしれないが。



 遅めの朝食を取り、ロビーへと向かう。

 遅くなってしまったからか、ホテルの人が別途バスを用意してくれた。

 ホテルと会場を繋ぐ専用のシャトルバスは基本的に定時運行なのだが、特別対応ということだ。


 なかなか気の利くホテルだ。

 そんなことを思いながらバスへ乗り込む。

 少し遅刻してしまったかもしれない。

 まぁ、本戦参加者は応援が義務付けられている訳ではないのだけれど。


「窓際取り放題やなっ!」

「危ないから席に座れよ」


 リコがバスの中を歩き回る。

 気持ちはわからないでもないが、急ブレーキとかで怪我しても知らんぞ。


 ゆっくりとバスは細い山道を上っていく。


 それにしても随分と大回りするんだな。

 スタジアム方面とは逆方向に向かっているように思える。

 と、言うか、事実そうだな。

 うん、現実逃避はやめよう。


「シス、戦闘準備」

「え?」


 いつも察しが良いのに、今回はわからなかったようだ。

 彼女も疲れているのだろう。

 ちょいちょいと手招きして耳打ちをする。


「やん、他人が見てる……」


 やんじゃねーよ。

 他人って俺達以外に乗客は居ないし運転手は恐らく敵だ。

 と言うか、分かっててやってるよね?


「もう、ノリが悪いんだから」

「いや、それどころじゃ」


 プシュー


 そこまで言った所でブレーキの音が俺の言葉を遮った。

 間に合わなかったか。


 ビタンッ


 窓ガラスに茶色い何かが付着する。


 はは、もう勘弁してくれよ……。

 というか会場の警備は一体何やっていたんだ。

 そんな思いが頭をかすめるが、まずは現状を切り抜けてからだろう。


「か、かきゃきゃ、きゃんらづきぃ……」


 運命の再開を心待ちにしていたのだろう。

 雫石さんの震える声が外から響く。


 そこまで熱烈に俺のことを追いかけなくても良いんじゃないかな。

 もう俺、涙が出ちゃいそう。


「天井ぶち抜く、全員近くに寄って」


 とにかく逃げなければ。

 会場まで逃げ切れば後は警備の連中がどうにかしてくれるだろう。

 というか、そのために雇われているはずなのにこの体たらく。

 少しは働いてもらいたい。


 午後には選抜個人戦の三回戦目が控えている。

 そのためにも消耗を抑える必要があった。


「よし、行くぞ」


 俺は全方位をシステムウィンドウで覆ってから、バスの天井をシステムウィンドウでぶち抜く。

 そして空へと飛び立つ。


 が、途中で止められてしまった。

 よく見ると薄茶色の膜が上空に張り巡らされている。


 この膜に止められたというのか?


「嘘だろ……」


 面で捉えられたとは言え、そう簡単に止められるものではないのに。

 見た目以上の強度があるということだろうか。


「ど、どきょへいこうというのかねぇ」

「何言ってんのかわかんねーよ……」


 雫石さんの声がどこからか聞こえてくる。

 何を言っているかは分からないが、俺達を逃さないという意味合いということはわかる。


 ああ、もう、面倒くさい。

 あまりやりたくなかったが、ストレージにこの汚物を格納してしまおう。

 後でシスに文句言われそうだが背に腹は代えられない。


「……、あれ?」


 しかし格納できなかった。

 おいおい……、まさかこれ生き物なのか?


「む、むだらよぉ……」


 再び雫石さんの声が響く。

 その声は、膜から聞こえてきた様に思えた。

 いや、間違いない。

 膜から聞こえてきている。

 つまり、この膜は……。


「っとに、最悪だ……」

「きみさえ、のうりょくさえれにはいれわ、す、すべでも、もとに……」


 何を考えているんだこいつは。

 いっそ哀れではあるが。


 しかし、千日手だな。

 いや、消耗のことを考えると俺が不利か。


 地面を見ると、茶色いスライムに人の顔が付いている物体が、こちらに向かってゆっくりと触手を伸ばしてくるところだった。

 まずいな。

 あれに捕まると振り切れる気がしない。

 そのままシステムウィンドウの隙間から侵入されてしまいそうだ。


 ゴウッ


「なっ!?」

「ぐぎゃっ!?」


 俺が悩んでいると轟音とともに膜を貫いた火炎が俺達を包み込む。

 おいおい、新手かよ。

 システムウィンドウで完全に囲ってなかったら怪我じゃ済まなかったぞ。


 見ると、森に似合わないスーツ姿の男の群れがそこにあった。


「騎兵隊到着ってな」


 平井さん……。


「待たしたな、もう安心してくれ」


 救出対象ごと敵を攻撃するような相手に何を安心するんですかね。

 寝言は寝て言え。


 とは言え助かったといえば助かったのかな。

 俺の能力だと相性が悪すぎて突破できる手が思いつかなかったしな。

 平井さんも俺が全周防御してるのを見てから攻撃してきたんだろうし。


「撃て撃て! 何もさせるな!」


 猛烈な炎が俺達ごと茶色いスライムを炙っていく。

 上空を覆っていた膜は消滅し、青空が戻る。


「ぐぎゃがぎゃぎゃ!?」


 水分が抜かれてか、スライムは徐々に小さくなり、そして炭となった。


 とりあえずの安全が確認できたので俺は平井さん達の側に降りる。


「助かりました、ありがとうございました」

「良いってことよ」


 嫌味も通じやしねぇ。

 もういいや。


「哀れなもんだな……」


 そう言って平井さんがタバコに火をつけた。

 元同僚だったっけ?

 何か思うところがあるのだろう。


 後始末は任せて会場に向かえという平井さんの言葉に従って俺達は会場へと向かうことにした。

 ……、自力で。

 もうため息しか出ないな。

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