第六十五話 悪足掻き
「っ!!」
「はああああ!!!」
本戦第二回戦。
初手の奇襲は当然の如く躱された。
もちろん、そのあたりは俺も分かっていたので二の矢、三の矢を放つ。
ドムッ ドムッ ドムッ
フィールドを森に替え、視界を遮った後に爆弾のシャワーを浴びせる。
「こなくそっ!!」
「回復するよ、下がって」
奇襲で一人も潰せなかったのは痛い。
こっちはまともに戦力となるのが俺一人なのに相手はきっちり三人だもんな。
多少ダメージを与えた所で直ぐに回復されてしまう。
「ブースト!」
「ていやっ!!」
時折平沢と山下も攻撃を入れるが、覚醒度Gでは繰り出しも遅く、見てから躱されてしまう有様だった。
それでも見ごたえのある試合にはなっているのだろう。
能力が発動する度、観客席からは歓声が上がる。
「がっ!?」
「平沢!? ぐえっ」
一瞬の隙きを突かれ、平沢と山下が吹き飛ばされる。
ミキが樹木を操作して受け止めるも、失神しているようだった。
「くそっ」
これで三対一。
足手まといが居なくなった分、楽になったと言えばそうなのだが、それ以上に消耗が激しい。
元よりカツカツだったのだ。
ガサガサ
相手チームの前衛が己の獲物を構えたまま、俺の前に姿を現す。
すぐさま襲ってこないところを見ると、罠を警戒しているようにも見えるが。
少し様子が違う。
「降参してもらえないか? これ以上は無理だろう?」
なるほど、戦闘意思の確認だったか。
悔しいが、これ以上の戦闘続行は困難だった。
いや、負けないだけなら出来なくもないが、それはこの大会の趣旨に反する。
だが。
「くっ!!」
「ちっ」
システムウィンドウを振り回すが躱される。
せめて受け止めてくれたらやりようがあるものを。
なんだろうね。
別にそこまで勝ちたいとは思っていなかったはずなのに。
相手から降参を打診されると反発してしまう。
「はああああああ!!!」
「くそっ、体力尽きかけてるように見えたのはブラフか!!」
今ここで降参すれば痛い目にあわずに、楽に済むのはわかっているのに。
「ミキ!!」
樹木の槍が相手の前衛を狙う。
ゴウッ
しかし、風の刃がそれを許してくれない。
「ぐっ!?」
どこからともなく飛来した衝撃波に頭を揺さぶられ、膝をつく。
その隙を見逃してくれる相手ではなかった。
突如盛り上がった地面に俺は空へと放り出される。
なんとかシステムウィンドウを展開し、墜落は避けれたが、そこへさらに追撃を受けた。
「くそっ」
自分で使っている分にはあまりわからなかったが、見えない攻撃がこれほど厄介だとは。
紙一重で躱したつもりが、掠めていたらしく俺の額に薄っすらと傷を作り、溢れ出た血が視界を紅く染めた。
「そこまで!!」
審判が相手校の勝利を告げる。
まだやれる、そう思ってしまうが実際はもう限界だった。
まぁ、相手は前年度の準優勝校だ。
ここまで善戦すれば十分だろう。
……、悔しいけど。
後ろ髪を引かれる思いを抱えながら俺は戦場を後にした。
俺達の夏は、終わったのだ。
終わってしまったのだ。
もう二度と来ない、高校一年の夏は。
「いや、まだ選抜個人戦が残っとるやろ」
そうだった!
出たくなさすぎて、記憶から無意識のうちに消去してたわ。
「出なきゃ駄目かな……」
もう本気で疲れてヘロヘロなんだよね。
肉体的にも精神的にも消耗しきっている。
まともに寝てないし、この体調で午後からの選抜個人戦に出るとか、無理があると思うんだ。
「パパ、説明が出来ないから」
「だよね……」
仕方ない、午後の選抜個人戦までは後三時間くらいあるし、それまでの間だけでも昼寝して体力の回復に努めよう……。
「今度はボクが膝枕をしてあげるよ」
「何言ってるのよ、私がするに決まってるでしょ」
「なーなー、うちの番は?」
結局一睡もできず、選抜個人戦へと出場するはめになるのだった。
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無敵の盾とはよく言ったものだ。
大体の相手はシステムウィンドウで封殺できる。
攻撃は最大の防御ならぬ、防御は最大の攻撃なのだ。
「システムウィンドウオープン」
試合開始と同時にシステムウィンドウを展開、全周防御を固める。
その後は一方的に攻撃するだけだ。
「ふんっ! はっ!」
もちろん、システムウィンドウを踏み台にしてくる奴も居たが。
だが、その手は水島先生や神宮寺先輩に散々やられている。
「なっ!?」
相手が俺のシステムウィンドウを足場にするというのなら、体重が乗る瞬間を見極めてその足場を消してやればいい。
水島先生達はそれでも一瞬で重心を移動させ、体勢を崩すことはないがあのクラスの化物はそうそういない。
「ぐあっ!!」
そして体勢が崩れた所に追撃してやればさくっとヤレる。
スタンドから歓声が上がる。
普段ならテンションが上がってくるのだろうが、今はそれよりも早く寝たかった。
もう一試合終われば今日は終わりなんだ。
布団が猛烈に恋しい。
「勝者、聖骸緑櫻高校一年、神無月君!!」
本日二回目のコールを聞く。
審判の声に、俺は拳を空に突き上げた。
一応俺なりの観客へのサービスのつもりだ。
あ、もう、ダメ、ほんと意識飛ぶ……。
「悟、あと少しだから」
「パパ、せめて退場口までは自力で歩こう」
「そっから先はうちらで運ぶから、そこまでがんばってや」
うう、なんてスパルタなんだ……。
重い足を引きずりながら、俺はシス達の引っ張る方へと歩みを進めた。
「はい、お疲れ様」
「もういいか?」
「うん、大丈夫だよ」
そうか、それじゃあとは任せた……。
俺はシスとミキに両脇を抱えられるようにベッドへと運ばれていったのだった。
なお、リコは俺の背中にくっついていた。
重いよ。
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