第六十四話 一撃
「眠いな」
「眠い」
「寝る」
「「いやまて」」
平沢と山下から制止の声がかかる。
自分達も眠い眠いと言っていたくせに。
でも、眠いものは眠い。
それがたとえ九頭龍戦本戦の開会式であってもだ。
むしろ、開会式だからこそ眠くなるのではなかろうか。
偉い人の長話は、絶対に催眠効果が付いていると思うのだ。
「一応全国中継されてるんだから、頑張ってくれよ」
「くそ、テレビカメラがなければ……」
「いや、なくても頑張ろうよ」
平沢があくびを噛み殺しながら苦笑いを浮かべる。
山下もなんとか我慢しているが相当つらそうだ。
「それでは、これよりトーナメント表を発表します」
だが、その一言で俺達の眠気は吹っ飛んだ。
相手はどこになるのだろうか。
弱いところだと助かるのだが。
まぁ、本戦に出てきてる時点で皆強いんだろうけど。
それでも強豪校は避けたいものだ。
正面のスクリーンにトーナメント表が表示される。
俺達の試合は、第二試合。
相手は天龍高校とだった。
「聞いたことない名前の高校だな」
「山下、流石に出場校くらい調べとこうよ」
ごめん、俺も知らないわ。
他の出場校の情報を調べるのは当たり前なのだろうが、正直そんな余裕なかったし。
一応、ミキが調べてくれてはいたはずだが、それを聞く時間がなかった。
「パパ、今年初出場の高校だよ」
「サンキュ」
こそっとミキが耳打ちしてくる。
そうか、それなら強豪ってわけでもないし、ワンチャンあるかな。
ただ、相手の能力の情報は不明だった。
無名校だし、地区予選の情報は殆ど流れないからなぁ。
「どこが相手でも全力を尽くすだけさ」
「まぁねぇ」
とは言え、気力も体力も消耗しきってるわけだし。
それに相手は三年生だ。
予選のことを考えるとかなり厳しいだろう。
開会式を終えて控室に向かう。
会場の興奮が廊下まで満ちており、少し震えてしまいそうだ。
「ところで、一つお知らせがあるんだ」
「奇遇だな、俺もだ」
「なんだよ、改まって」
控室に入ると二人が切り出してくる。
嫌な予感しかしないが、聞かないわけにも行かないか。
「ランクアップ、したみたいだ」
「俺も」
「まじかよ……」
本来なら言祝ぐべきことだ。
一般的にランクⅢまでは割りと上がりやすいが、それ以上となるとなかなか上がらない。
それが二人揃ってランクアップしたのだ。
普段ならお祝いのパーティーを開いてもいいくらいなのだが。
「覚醒度は……?」
「もちろんGだよ」
「俺もだ」
「デスヨネー」
タイミングが最悪だった。
え、なに、これだけ消耗しきってる状況で?
覚醒度Gのお荷物二人抱えて本戦出場とか。
馬鹿なの?
阿呆なの?
死ぬの?
むしろ俺が死ぬ。
「棄権は、出来ないよなぁ……」
俺は出来るはずのない夢を語る。
余程の事情がない限り棄権は出来ない。
「なんて説明するんだよ」
山下の突っ込みに返す言葉もない。
それが出来たら苦労はしないのだ。
「箝口令、か」
「ま、当然だよね」
山下と平沢が今朝のミーティングを振り返る。
昨日の襲撃については箝口令が敷かれていた。
内容が今までの神の従者の行動とは大きくかけ離れており、社会への影響を考慮した結果らしい。
「悟のシステムウィンドウに隠れながら、ちまちまやるしかないかな?」
「全国放送でか? 恥さらしも良いところだな」
山下が首を横に振りながらため息をつく。
全力をぶつけ合うことを前提にしている九頭龍戦で、消極的な戦法を取るのは批判されるだろうな。
それでも勝てればいいが、それも難しい。
「そうなると当たって砕けるしか無いよね」
「痛いのは勘弁なんだがなぁ」
「ま、やるだけやってみよう」
消耗している状態でどこまでやれるかわからないが、これも経験にはなるだろう。
通路を抜けてスタジアム内に入ると、凄まじいプレッシャーを感じる。
これ、全国中継されてるんだよな。
思わず生唾を飲み込む。
俺達は中央へ進み、対戦相手と挨拶を交わした。
その後、お互いの所属校、学年がそれぞれ説明される。
俺達のチームが一年生と説明された時、スタジアム全体にざわめきが広がった。
一応新聞やニュースには取り上げられていたが、実際に目にするのとは違うということだろう。
注目を集めている分、下手なことは出来ない。
そうなると選べる手は限られてくる。
「試合開始!」
審判の声と同時に不可視化したシステムウィンドウを正面に展開。
先手必勝、全力で相手にぶつける。
「「ぐあ!?」」
「ちっ!」
一人には避けられたが、後衛と中衛の二人を潰せた。
これなら行ける。
「くそっ!」
悪態をつきながら相手前衛が突っ込んでくるが、システムウィンドウで囲い込む。
一人が相手ならなんとかなる。
「勝者、聖骸緑櫻高校!」
まずは一勝。
いや、勝たなくてよかったんだけど、痛いのは嫌だし。
ウワアアアアア!!!
スタジアム全体から歓声が沸き起こる。
よかった、地味な戦い方しなくて。
この勢いでブーイング食らったらちょっと立ち直れないかもしれない。
後四勝で九頭龍の称号を得られる訳だが、まぁ無理だろうな。
今は初戦で俺達の情報を持っていない相手だから奇襲が通じたが、同じ手が何度も通用するとは思えないし。
実質、三対一では、ね。
俺達はそそくさとバックヤードへと戻っていった。
次の試合まであまり時間もない。
その間にできるだけ相手校の情報を頭に叩き込まないと。
勝てるとは思ってはいないが、少しは粘りたいしね。
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