第六十三話 記憶
「無事でしたか!?」
「ええ、なんとか」
誰か、知らない大人達が駆け寄ってくる。
神宮寺先輩達が対応をしてくれるようで、なにか話をしている。
「平井さんが意識不明です。至急救護班を」
「わかりました。すぐに担架を持ってきます」
水島先生が平井さんの拘束を解きながら指示を飛ばす。
「連中は?」
「先程まで追撃されていましたがなんとか切り離せたようです」
ああ、漸く安全な場所にたどり着いたのか……。
システムウィンドウを完全に解除し、地面に座り込む。
やっと、やっと終わりか。
そのまま仰向けに倒れ込み空を眺める。
気が付けば空は少し白み始めていた。
「少し、寝る……」
「うん、お疲れ様」
シスの声を聞きながら、俺は意識を落とした。
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「お父さん、お母さん、もう行っちゃうの?」
これは……、俺か……?
「すまんな、悟」
「今のお仕事が終わったらいっぱい休みもらうから」
それに父さんと母さん?
「やだよ、行かないでよ……」
「ごめんなさいね。どうしても今の研究を早く終わらせなければならないの」
「皆のためなんだ。我慢してくれ」
「その皆には、僕は入っていないの?」
ああ、懐かしいな。
両親にはよく我儘を言って困らせたものだ。
「もちろん入っているさ」
「後一週間で終わる予定なの。悟はいい子だから我慢できるわよね?」
「悟、お前も神無月家の人間だろう? 分かってくれ」
「……、わかった……」
両親が俺の頭を撫でる。
当時はわからなかったが、本当に俺のことを愛してくれていた。
そのことが今ならよく分かる。
「そうだ、次のお休みには皆でスペーサーワールドに行きましょう?」
「ほんと!? やったあ!」
「ふふ、だからいい子にしておいてね?」
スペーサーワールド?
まってくれ。
行っちゃ駄目だ。
この約束をした次の日だったはずだ。
研究所の事故で、父さんと母さんは!!
「うん! 僕、いい子にしてる!!」
「ああ、頑張ってくれよ」
そう言って両親は家の扉を開き、出ていった。
だめだ、止めろよ!
何で聞き分けいいんだよ!!
「お父さんの嘘つき! お母さんの嘘つき!!」
俺が泣き叫びながら扉を叩いている。
扉の向こうには昨日家を出ていって、今週末には皆で遊びに行く予定だったはずの、両親の体の一部が置いてあった。
「お父さんとお母さんは、皆のために頑張ったんだよ」
「うるさい! うるさい!! お前も嘘つきだ! みんな、みんな嘘つきだ!!」
周囲の大人に当たり散らしながら泣き叫んでいる。
最初はたくさんいた大人たちも、一人、また一人と居なくなる。
「みんな、みんな嘘つきなんだ……」
「ごめんね……」
俺以外誰も居なくなったはずの部屋に、一人の女声の声が響く。
そして俺を後ろからそっと優しく抱きしめてくれた。
「私が、代わりに守るから……」
「本当に……?」
約束する、私が絶対悟を守るから。
そう言って、彼女は俺を……。
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「……る! さ……る!」
「ん……?」
「悟!」
「う、うん……?」
ゆっくりと意識が覚醒してくる。
頭に暖かく、柔らかい感触。
これは……?
「あ、起きた? 大丈夫? うなされてたみたいだったけど」
「あ、ああ。なんとか……」
目を開くとシスが俺の顔を心配そうに覗き込んでいた。
「よかった」
そう言って彼女は朗らかに笑い俺の頭を軽く撫でた。
ああ、疲れ果てて寝落ちしてたんだっけか。
膝枕とか、少し恥ずかしい。
それを隠すようにシスを気遣ってみる。
「すまん、足しびれてないか?」
「ううん、大丈夫」
頭がまだ少しぼーっとするが、かなりましになった。
俺は起き上がると周囲を確認する。
昨日はよくわからなかったが、どうやらスタジアムの中に不時着していたみたいだな。
「神宮寺先輩達は報告とかしてるみたい」
「そうか」
何か、夢を見ていた気がするが思い出せないな。
大切なことだった気がしたのだけど。
まぁ、思い出せないものは仕方がないか。
「今、何時だ?」
「七時を回ったところだよ」
二時間位寝ていたのかな。
ふと毛布が体にかけられていることに気がつく。
「ベッドまで運ぼうかと思ったんだけど、起こしちゃいけないと思って」
「いや、ありがとう」
今日から九頭龍戦本戦だ。
本当なら昨日のうちに到着して居るはずだったのだが。
というか、やるの?
……、やるだろうな。
襲われたのは俺達だけだろうし。
神への奉納という名目がある以上、そう簡単に中止や延期は出来ないだろう。
体調は万全どころか最低だ。
だが、やらざるを得ない。
全国に醜態を晒すことになるのかと思うと憂鬱だ。
「とりあえずシャワー浴びてきたら?」
「そう、だな」
俺は起き上がるとスタジアムから出て、割り当てられているはずのホテルへと向かった。
「そういえばリコとミキは?」
「ん、二人共ご飯食べてくるって。さっきまで居たんだよ?」
「そっか」
気まずそうにシスは言う。
大丈夫だって、別に気にしてはない。
いつまで寝てるかわからない俺に付き添って朝食を食いっぱぐれる必要もないしね。
……、でもこいつはずっと付き合ってくれてたんだよな。
「ありがとな」
正面から言うのは少し照れくさく、彼女とは反対の方を向いてそう呟く。
聞こえないくらい小さな声で。
「うん? なにが?」
「……、なんでもない」
しかし彼女は拾ってくる。
皆まで言わすな。
恥ずかしいだろうが。
シスは、俺の声は絶対聞き逃さないんだよな。
たまにはスルーしてくれても良いだろうに。
「えー、何よ、気になるじゃない」
そう言って俺の腕を取るシスからは、何故か少しだけ懐かしい匂いがした気がした。
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