第六十一話 迎撃
「パパ……」
ミキが申し訳なさそうに視線を下げる。
「ああ、大丈夫だ。流石にこれでは、ね。シス」
植物が全くない砂漠では、リコの能力は封じられてしまう。
ミキの頭を軽く撫でると俺はシスに声をかけた。
「うん」
彼女は俺の呼びかけに応え、システムウィンドウにマップを表示させる。
立体空間ではないのなら、マップが十全にその機能を発揮し敵の居場所は丸見えとなるはずだ。
「ん?」
だが、マップの表示が少し変だ。
普通モンスターは赤、人は青で表示されるはずなのに、何故か紫のマーカーがマップ上に表示されていた。
「うーん? 山下、とりあえず十時の方向、百メートル付近に打ち込んでみてくれ」
「わかった。リック、あの辺りに一発ぶち込め」
俺が場所を指示し、山下が精霊に命令して衝撃波を打ち込む。
衝撃波が通過する瞬間だけシステムウィンドウをずらして隙間を作る。
ドムッ
少し盛り上がった砂地に衝撃波が着弾する。
「ぐぎゃっ!?」
それと同時に悲鳴が上がり、砂の中から白装束の人物が現れた。
山下の衝撃波だけでは仕留めきれないようで、ふらつきながらも立ち上がりこちらを睨めつけてくる。
しかし、運悪く足元が崩れ、彼は砂の丘から転げ落ちていった。
とりあえず紫のマーカーは敵でいいのかな。
「宮崎先輩、二時から四時方向、八十メートル付近に三人います」
「任せとけ。玄武、わかったな?」
宮崎先輩が精霊を顕現させ、命令する。
……、玄武?
俺にはスッポンにしか見えないのだが。
まぁ他人のネーミングセンスに口出せるほど俺もセンスがいいわけじゃないし黙っておこう。
ただ、態々顕現させる必要はあったのかと思ってしまうが。
命令とともに周囲の砂が持ち上がり、蛇の形を取る。
そしてその顎門が指定したポイントをえぐり取った。
その光景に俺は戦慄を覚える。
流石にやりすぎなのでは。
そう思ってしまったのだ。
「神無月、覚悟を決めろ。ここが分水嶺だぞ」
「っ!」
普段は優しい宮崎先輩の、見たこと無いほど鋭い眼差しが俺を貫く。
「厳しいことを言ってすまないな」
そのセリフとともに青茶色に染まった砂は、雨に打たれ崩れていった。
命に貴賎は無いと言うが、それでも選ばなければいけない事はある。
仲間の命と敵の命、どちらかしか救えないのであれば仲間の命を選ぶのは当然だ。
両方救えないのは自分の力が足りないから。
自分の力不足を棚上げにして、どうして他人を責められようか。
だが、俺は……。
いや、今はそれどころではない。
後悔なら後でする。
今は全力を尽くすしか無いんだ。
「いえ、俺が悪いです」
少し消耗しているのかもしれない。
能力を全力で使用し続けて、既に三十分が過ぎている。
それも訓練とは違い、本気の、命の取り合いで、だ。
俺は宮崎先輩に謝罪すると、気を取り直して敵の位置を報告していった。
「周辺に敵は居ないようです」
そのまま掃討を続けること一時間。
既に三十人以上仕留めていた。
漸く打ち止めなのか、今まで潰しても潰しても湧いてきていた敵影がぱたりとその出現を止める。
少し安心かな。
やっと気を抜ける。
「ふむ……、まずいな」
だが、俺の思いとは裏腹に神宮寺先輩は眉をひそめる。
結界を維持している術者が未だ見つかっていない。
そう言って彼は拳を握りしめたのだった。
システムウィンドウを叩く雨粒はその勢いを増している。
隙間から水が染み込んできて、皆の体力を徐々にだが奪って行く。
神宮寺先輩は自分の持つ圧倒的な火力を殺され、ほとんど何も出来ないでいた。
こちらは最大戦力を封じられた状態での持久戦、それもいつ救援が来るかもわからない状態で、だ。
俺達が力尽きるのが先か、救援が来るのが先か、賭けになってしまう。
「……、結界の起点を潰す」
守っているだけではジリ貧だ。
そう判断したのだろう。
神宮寺先輩は少し瞑目した後、そう宣言するのだった。
「くそ、これもダミーか」
「……、次行きましょう」
四つ目の水晶も外れだった。
山下が悪態を付くが誰も止めない。
皆同じ気持ちなのだ。
じわりじわりと削られていることを感じる。
移動と防御をシステムウィンドウに頼っているため、負荷が俺に集中していた。
敵からの妨害は散発的だが、その一撃一撃が致命の威力を持っているため防御を疎かには出来ない。
足元は濡れた砂で、徒歩での移動は全員の体力を消耗させるのでそれも出来ない。
それに無理して徒歩での移動を強行した場合、地面からの強襲を受ける可能性もあった。
ここまでくれば流石に理解できる。
敵は防御と移動の要となっている俺を潰すつもりだ。
嫌な手を使ってくる。
だが、認めざるをえない。
効果的だと。
「結界の起点となれる場所には限りがある。候補は後二箇所だ」
「分かりました」
気合で返事を返し、次の候補地へと向かう。
あと少し、あと少しだ。
結界さえ解除できれば後はどうにでもなる。
しんどいが、後二箇所だけだ。
耐え切らないとな。
「こいつだ」
「今度こそ、ですね?」
「ああ、ご苦労だった」
神宮寺先輩が労いの声を俺に掛けながら青白く光る水晶に手を伸ばす。
パキン
水晶が砕けると同時に周囲の風景が歪み、俺達は元いた場所に戻ってきていた。
神の従者に囲まれた、バスの入り口の前に。
お読みいただきありがとうございます。
ブックマーク、評価、感想等いただけると励みになります。
あと↓のランキングをポチってもらえるとうれしいです。




