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第六十話 襲撃

 三百六十度、どこを見渡しても森、森、森。

 振り向けば今降りてきたばかりのバスの姿も消え去っている。


「幻影系の能力か?」


 神宮寺先輩のチームのメンバーである伊藤先輩が眉をひそめる。


「いや、違うな。このリアルな感触、幻影では無いだろう」


 同じく宮崎先輩が、システムウィンドウ内にある植物を触り、その考えを否定した。


「間違いなくこれは現実だ」

「そうなると考えられるのは二つだな」

「「転移か結界」」


 二人の声が揃い、ビシっとどこかを指差した。

 声は合っているのに差した方向はバラバラだった。


「「くくくっ」」


 そして笑い出す。


 仲いいのな。

 いやいや、この状況下で冗談を飛ばすとは。

 年上(ゆえ)の余裕というやつなのだろうか。


「な、なんで……、どうして……」


 と、考えたが、パニックに陥って(おちいって)いる水島先生をみて考え直す。

 単純にくぐってきた修羅場の差なのだろう。

 神宮寺先輩とチームを組むくらいだ。

 生半可な経験はしていないということだ。


「さて、どちらにせよ俺達は元の場所に戻る必要があるわけだが」


 周囲を見渡していた神宮寺先輩がこちらに向き直る。

 今気がついたが、さり気なく火を操作し灯を作ってくれていた。

 いつの間に……。


「その前に襲ってきた奴らをどうにかする必要がありそうだな」


 その口元には凄惨な笑みが浮かんでいた。


「どうにかって、どうするんですか……?」

「お、俺達も戦うってことですよね?」


 平沢と山下が恐る恐ると言った様子で神宮寺先輩に質問を投げかける。


「自らの命は、自らで繋ぐものだ。選ばれた者として、その力を見せてみろ」


 その言葉に二人の目の色が変わる。

 そうだ、俺達は高校の、そして地域の代表として選ばれたのだ。


「お前達は俺が鍛えた。俺は俺の鍛えたお前達を信じている」


 神宮寺先輩の炎が俺達に燃え移る。

 そんな気がした。


「大丈夫か?」

「「大丈夫です!!」」


 先程まで怯えていた平沢と山下の手は、もう震えてはいない。

 拳は握りしめられ、覚悟を表しているようだった。


 改めて俺達は隊列を整える。

 襲撃者達は姿は見えないものの、殺気をひしひしと感じる。

 隙きあれば即座に襲ってくるだろう。


「……、さてどうするかな」


 神宮寺先輩がそう言いながら空を見上げた。

 それと同時にポツポツと雨が降り出す。


「まったく、タイミングの悪い。いや、これも連中の狙いか」


 炎操作系の能力を主体としている神宮寺先輩には不利な天候だ。

 元より周囲が木々に覆われ、その実力を発揮しづらい状況にあると言うのに。


「だけど、これはむしろ僥倖(ぎょうこう)だったかもしれませんよ」


 不快そうに空を見上げる神宮寺先輩に俺は声をかける。


「その心は?」

「ミキの能力を最大限に発揮できる環境ですから」


 植物に囲まれた状況で、さらに雨が降っている。

 彼女の真価はこういう状況でこそ発揮されるはずだ。


「パパ、任せてよ」


 そう言うとミキは目をつぶる。


 ザワリ


 森がどよめく。


「見つけた」


 ミキの目が黄色に輝く。

 そして彼女は手を振り上げ、一直線におろした。


「「「「ぎゃあああああ!?」」」」


 森のなかに悲鳴がこだまする。


「ごめん、パパ。思ったよりやる」

「逃げられたか?」

「八割くらい」


 完全に彼女が優位なフィールドだと言うのに、二割しか削れなかったのか。

 想像以上に相手の実力が高いようだ。


「ぐべっ」


 考え込んでいると白い装束に全身を包んだ人物が蔦に全身を巻き取られた状態で目の前に落ちてくる。


「こいつらは……」

「神の従者ね」


 いつの間にか復活していた水島先生が俺の横でそう呟く。

 何か言いたげにこちらを睨んできたが、全く心当たりがない。

 勝手に恨まないでほしいものだ。


「またこいつらか」


 神宮寺先輩が軽くため息をつく。

 そのため息に反応したのか、白装束の人物は横たわったまま顔をあげる。

 そして白い頭巾の隙間から血走った目をギョロリとこちらに向けて叫び出す。


「神無月! 神無月はどれだ!!」


 え? 俺?


「黙れ」


 神宮寺先輩が下手人の顎を揺らすように蹴飛ばすと白装束の人物は沈黙した。


「標的は神無月君ってことなのね」

「いえ、そう考えるのは軽率でしょう」


 水島先生の言葉に神宮寺先輩が待ったをかける。


「それを装って別の目的があるのかもしれません」

「別の目的って?」

「そうですね……、まぁ本人に聞いたほうが良いでしょう」


 出来ますよね?

 そう言って神宮寺先輩は水島先生へと視線を投げかける。


「……、わかったわよ。やれば良いんでしょ?」


 少しトラウマになってるんだけどね。

 と呟きながら水島先生は白装束の人物の頭に手をかざした。


「ぐぎゃっ!? がががががっ!?!?!?!?」

「な!?」


 水島先生の手が光ったと思うと、白装束の人物は急に苦しみだし、目を覆いたくなる惨状を作り出したかと思うと反応がなくなった。


「死んでる……」


 呆然と水島先生が呟く。

 いや、あの、尋問とかするつもりだったんじゃなかったんですか?

 口を封じてどうする。


「……、呪いでもかけられていたのかしら」

「ありえますね」


 なるほど。

 情報が漏れる前にというわけか。

 てっきり水島先生がやらかしたのかと思ってしまった。


「思いっきり肉体が損壊させられていますから、蘇生も厳しいですね」

「よくまぁこんな手の込んだ事を」


 スプラッターな光景を前に、神宮寺先輩と水島先生は淡々と感想を述べる。

 神宮寺先輩はともかく、水島先生はなんか意外だ。

 男の俺ですらかなり辛いのに。


 そう思っていると周囲の景色が揺らぐ。


「迎撃戦用意!!」


 それと同時に意識を切り替えた神宮寺先輩がすぐさま指示を飛ばす。

 尤も、システムウィンドウで全方位を囲っているので早々やられることはないと思うのだが。


 ゆらぎが収まる。


「……、結界で決定だな」


 宮崎先輩が眼尻を釣り上げる。

 しかし、結界って。

 木々のせいで視界が悪くて分かりづらいが、少なくとも数百メートル四方は張ってあるように思える。

 そんな大規模結界を、それも途中で切り替えることなんて可能なのだろうか。


「一体何人生贄に捧げたんだ……」


 伊藤先輩が吐き捨てるように呟く。


 そうか、人の命を生贄にすれば出来なくはないのか。

 だが、生贄に捧げられた人間の魂はすり潰され、輪廻に戻れなくなると聞く。

 そこまでしてまで叶えたい望みがあるというのだろうか。

 それとも狂信が全てを狂わしてしまっているのだろうか。


 どこまでも続く砂漠を前に、俺は叫びたくなる思いを必死に抑えるのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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