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第五十九話 本戦へ

 期末テストも遠く過ぎ去り、待ちに待った夏休みが来る。

 だが、俺達の試練はこれからだ。

 明日から九頭龍戦本戦が始まる。


「緊張するな……」


 そう言ってチームメイトの平沢が首を振った。

 夏休み初日の夕方。

 俺達は空港で本戦行きの飛行機の時間を待っていた。


「そうだな……」


 いつになく真面目な顔をした山下が飛行機のチケットをギュッと握る。

 出発時刻まで、まだ一時間以上ある。

 しかし既に荷物は全て預け、チェックインを済ませてあった。


 保安検査場でミキが引っかかるトラブルはあったものの、なんとかやり過ごし、今は搭乗口の前の椅子で英気を養っているところだ。


「保険とか入らなくて良いのかな」


 山下がそんなことを言い出す。

 余程不安なのだろう。

 なんせ俺達三人は誰も飛行機に乗ったことがないのだから。


「大丈夫でしょ、飛行機が落ちる確率って交通事故よりずっと低いみたいだし」

「シスちゃんは肝が座ってるなぁ。シスちゃんも飛行機乗ったこと無いんでしょ?」

「最悪、悟だけは守れるし」


 山下は苦笑いしながらシスに話しかける。

 が、軽くスルーされていた。

 少し可哀想である。


 まぁ、精霊なんて多かれ少なかれそんなものらしいけどね。

 自分のマスター以外にあまり興味が無いというか。

 でも、伊集院先輩とかとは結構話してるんだけどな。

 やっぱあれか、下心とか見抜いてるのかね。


「ずいぶん早くから来てたみたいだな」

「神宮寺先輩」


 時計を見ると思いの外時間が経っており、離陸の時間まで後二十分と言うところだった。


「昨日はしっかり寝れましたか?」

「迷子にならないようにな」


 神宮寺先輩のチームメンバーが続いて現れる。


「何で私が引率……」

「そういうな、これも仕事だ」


 そして最後に水島先生と……、誰だっけ?

 あ、思い出した。


「平井さん、でしたよね?」

「平井先生と呼べ。一応な?」

「はは、では平井先生。平井先生も引率ですか?」

「まぁそんなところだ」


 平井先生は指で頬をかきながら首肯を返した。

 実際のところは監視と言ったところかな。


 まったく、俺は何もするつもりはないというのに。

 神事省というのは暇なのかね。

 それとも何か別の理由でもあるのだろうか。


「只今より、羽田行、六百七十六便の搭乗手続きを開始いたします。三十番より後ろの番号をお持ちの方からご案内いたします」


 俺の思考は搭乗案内の放送に遮られる。

 たしか俺の席は五十四のDだったな。


 通路側の席というのが残念だ。

 運良く窓際の席となったのが水島先生というのが少し納得行かないが仕方があるまい。


 それにしても俺は荷物関係に悩まされなくて済んで良いな。

 こういうとき、システムウィンドウのありがたみを感じる。


 そんなことを思いながら席につき、シートベルトを締める。

 座っても膝の上に重みを感じないのは久しぶりだ。

 初めての飛行機ということもあってとても新鮮に感じる。


 まぁリコは隣で文句を垂れていたが。

 たまには良いよな。


 俺達の不安と期待を載せて、飛行機は空へと飛び立った。



 途中気流が不安定だったたらしく、かなり揺れたものの俺達は無事、羽田空港に到着し学校が手配してくれていたマイクロバスへと乗り継ぐ。

 俺達は、一番後ろの座席を譲ってもらえた。

 おかげでシス達の機嫌も上々だ。


 バスは高速道路に入り、一路本戦会場へと順調に進んでいった。


「右手をご覧ください、海でございます。左手をご覧ください、山、そして森でございます」


 バスの前の座席では水島先生がノリノリでマイクパフォーマンスをしている。

 なんでも昔はバスガイドになりたかったとか。

 今になって夢が叶ったとか言っていたが。

 これ、叶ったって言って良いのか?


 しかしよく飽きないものだ。

 もう一時間近くバスガイドもどきをしているというのに未だハイテンションのままだ。

 というか、右手も左手も夜景しか見えないんですが。


「そして、正面にはトラック……、トラック!?」


 水島先生の叫び声に反応し俺はシステムウィンドウをバスの正面に展開。

 トラックに対し斜めにすることで衝撃を受け流し、(すんで)の所で衝突を回避する。


「きゃあああああ!?」

「わああああ!?!?!?」


 続いてバスが急ブレーキをかけ、車内には悲鳴が響く。

 衝撃はなかったものの、急ブレーキと急ハンドルにより車内は大きく揺さぶられた。


「く、事故か!?」

「怪我人はいないか?」


 いち早く立ち直った平井さんと神宮寺先輩が状況を把握するために立ち上がる。

 平井さんは外へ、神宮寺先輩は車内のメンバーの安否確認に動き出す。


「ぐあっ!?」


 車外に飛び出した平井さんの叫び声が聞こえてくる。


「くっ、敵襲! 各自防戦をっ」


 その言葉をの直後に閃光、そして爆音が響き渡る。


「平井さん!?」


 水島先生が叫ぶ。

 俺は咄嗟(とっさ)にバスの全周をシステムウィンドウで囲い、簡易の防御陣地を組み立てる。

 しかし、システムウィンドウの枚数が足りずバスの屋根までは覆うことができなかった。


 ドンッ


 バスの屋根に何かが着地するような音が聞こえる。

 くそ、やはりか。

 恐らく襲撃者はこちらのことを熟知している。

 そして計画を立てて襲ってきたのだろう。


 殺気を感じて咄嗟に席を離れる。


 ドスン


 その直後、俺が座っていた席に鉄の杭が打ち込まれた。

 冷や汗が頬を伝う。


 こちらの動きが見えないようにシステムウィンドウは不可視化していない。

 だと言うのにこちらの動きは筒抜けの様だ。


「一度外に出るぞ!」


 神宮寺先輩の号令で全員が行動を開始する。


「ま、待ちなさい! どこに行くつもりなの!?」

「このままでは身動が取れないまま一方的にやられます」

「で、でも……」


 水島先生はエリートではあったものの、こういう事態には遭遇した経験が少ないのだろう。

 いや、当たり前といえば当たり前で、早急に判断を下した神宮寺先輩が異常といえる。


「平井先生のことも気になる。外に出て迎撃しましょう」

「わ、分かったわ……」


 手痛い時間のロスだ。

 一瞬の判断が生死を分けるというのに、既に五秒以上経過している。


「神無月、窓のみシステムウィンドウを残して、他はバスの入り口周辺回して防御を固めろ」

「分かりました」


 俺は神宮寺先輩の指示に従い、システムウィンドウを操作する。


「シス、半分頼む」

「わかったわ」


 さすがに十二枚ものシステムウィンドウを一人で操作するのは骨が折れる。

 シスに任せれば、消耗は変わらないもののその負担は半分で済む。


 バスの入口の安全を確保し、神宮寺先輩に伝える。

 そして神宮寺先輩を先頭に、俺達は戦闘態勢のままバスを降りる。


「どうなっている……?」


 神宮寺先輩が疑問の声を上げた。

 それもそのはず。

 俺達は高速道路を走っていたはずなのに、周囲には暗い森が広がっていたのだった。

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