第五十八話 文武両道
累計二千位に入ってました。
すごいね。
「それでは各自配られたら開始してください」
七月上旬、九頭龍戦で頭がいっぱいだった俺はあるイベントのことをすっかり忘れていた。
授業で時々言われてはいたのだが、それどころではなかったのだ。
カリカリカリカリ……。
教室内にはひたすら何かを書き込み続ける音が響く。
期末テストが始まったのだ。
中盤まではなんとか問題を解けたものの、後半部分は少し怪しい。
なんせ授業をまともに聞いていなかったのだ。
Aクラスになるためには、冒険者になるためには能力値が高いだけでは駄目ということは、ここ最近で理解できている。
脳筋ではダンジョンですぐに死んでしまうからだ。
文武両道が当たり前に求められる、それが冒険者というわけだ。
「そこまで。ペンを置いてテストを裏返して後ろから回収して下さい」
水島先生の無慈悲な言葉が教壇から飛ぶ。
くっ、なんとか最後まで解ききったが、見直しをしている時間がなかった。
ちらっと周りを見るとシスはペンをもったまま机に突っ伏しているし、ミキは遠い目をしていた。
リコ? 寝てたよ。
「お疲れ様ー」
「どうだった?」
「うーん、まぁまぁかな」
周囲からはお互いの手応えを確認し合う声が聞こえてくる。
「神無月君は? ……、結構ひどい感じみたいだね?」
綾小路が俺達の様子を見て苦笑いを浮かべる。
いつもなら自信満々に胸を張るであろうシス達が沈んでいるのだ。
聞かなくてもわかろうというものだろう。
「今日の科目は暗記系じゃなかったからなんとかなったけど……」
「明日は英語とかだもんね」
今日の科目はまだ良い。
数学Ⅰと数学A、理科、それにダンジョン学と暗記系科目じゃなかったからな。
しかし、明日は古文、現代文、化学、英語と暗記系メインだ。
「それに今日も放課後は訓練があるんだよ……」
「あー」
大変だね?
と綾小路は俺達を労ってくれるが、俺は頭を抱えてしまう。
あの訓練の後に勉強というのはかなりしんどい。
神宮寺先輩に言ってテスト期間中だけは訓練を免除してもらうように交渉しよう。
どれほど効果があるか疑問だが、せめて一夜漬けで乗り切るのだ。
「なるほど、つまり暗記を効率よく行えれば良いんだな?」
「え? まぁそうなるんですかね?」
放課後、訓練前に生徒会室を訪れ、神宮寺先輩に訓練を免除してくれるよう頼んだのだが。
何故か彼独自の暗記術を俺達に教えてくれる事となった。
そういえば神宮寺先輩、成績も上位なんだよな。
その暗記術を習得すればこれからの学校生活、優位に進めれそうだ。
夜、照明に照らされた模擬戦場には、能力が発する音と俺達の叫び声がこだまする。
「スイヘイリーベー!」
神宮寺先輩の怒号と共に爆炎が俺達に迫る。
「ボクノフネ!!」
なんとかシステムウィンドウでそれを防ぐと、山下が衝撃波を反撃とばかりに打ち返す。
だが、見えないはずの衝撃波を神宮寺先輩はあっさり躱してしまう。
「ナナマガリ!」
神宮寺先輩は躱した勢いそのままに、かかと落としを俺達の頭上へと落としてくる。
だが、俺達と先輩との間には不可視化したシステムウィンドウを予め配置している。
これで防いでもう一回反撃だ。
「リップスクラーク!!」
だが、システムウィンドウは消滅。
神宮寺先輩のかかと落としが俺達のチームの中央へ落下し、石礫を撒き散らす。
俺達は全員吹き飛ばされ、壁へと貼り付けられた。
「リップスじゃない、シップスだ」
「……、わかってますよ」
マヌケな掛け声には理由がある。
最近研究所で開発されたアイテム、それを俺達は身につけていたのだ。
このアイテムは、特定のワードに対して特定のワードを返さないと装備者の能力を一時的に阻害するという効果がある。
一体何のために作られたのか、理解できない。
まぁ、研究者や開発者というのはそういうものなのだろうが。
ともかく、このアイテムの試験も兼ねて、俺達は神宮寺先輩に教育を施されていたのだった。
強烈な刺激は記憶力を上昇させる。
さとる、おぼえた。
その後、勉強会もどきは朝まで続いた。
いや、たしかに一夜漬けとは言ったよ?
でもさ、ガチでやるか普通。
テストの最中、寝落ちしそうで大変だった。
尤も、テスト後の能力検査は半分寝ていたが。
しかし神宮寺先輩のお陰で俺は無事(?)、期末テストを乗り切る事に成功。
乗り切るどころか中間テストに続き、再び上位に入り込むことが出来た。
尤も、中間テストに比べたら若干順位は低下したが。
ほとんど勉強せずにこれだけできれば十分だよな。
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「ふーん、なかなかやるのね」
期末テスト終了後、教室では水島先生が答案を皆に返却していた。
成績の悪い順で返却しているらしく、クラスメート達は呼ばれる順番で一喜一憂していた。
そして一番最後に俺の名前が呼ばれた。
水島先生がテストの答案を差し出しながら俺をジロジロと眺めてくる。
「なんですか?」
「まぁねぇ」
曰く、あれだけの訓練をしながらだから、テストは酷いことになると予想いていたらしい。
「でも、おめでとう。これなら来学期からはAクラスでほぼ確定ね」
「本当ですか?」
「能力そのものはちょっとあれだけど、能力値も高いし成績もいいしね」
Aクラス。
これで冒険者になれる可能性がぐっと上がる。
頑張ったかいがあったというものだ。
「他にも上のクラスに上がる子が結構いそうよ」
そう朗らかに言うと、水島先生は俺のすぐ前に答案を返却されていた綾小路達の方を見た。
「ま、彼女達はDクラスだろうけどね」
そりゃそうか。
FクラスからAクラスにいきなり上がるなんて通常ありえない。
前にちらっと聞いた話では、普通は各学期で一つクラスが上下する程度らしい。
それを考えると綾小路達も十分すごいんだよな。
これで査定上がるかしら。
そんなことを言いながら足取りを軽くして水島先生は教室を出ていった。
「むぅ……、負けた……」
悔しそうに佐倉が呟きながら俺の席へと向かってくる。
綾小路と寺門も一緒だ。
「今回結構頑張ったんだけどなー」
「神無月、神宮寺先輩に勉強を見て貰っていたんだろう? 私も次からお願いしたいのだが」
「寺門、やめておけ……」
佐倉も綾小路も首を縦に振らないの。
本気で死ぬぞ。
「鈴香、絶対にやめておいたほうが良いよ……」
「え? 何、そんなに大変だったのか?」
シスが虚ろな目をしながら彼女達の無謀を制止する。
「せやな……」
「ママ、絶対だめ」
シスに続いてリコとミキも止めに入る。
同じ目に遭う仲間を増やさないためにも頑張ってくれ。
「そう……?」
「そこまで言うならやめとこうかな……?」
佐倉達は訝しみながらも納得してくれた。
納得してもらえてよかった、あんな目に合うのは俺達だけで十分だからね。
「話は変わるけど、明後日からの九頭龍戦の準備は大丈夫?」
「ああ、連携もかなりいい感じに出来るようになってる。やれることはやったって感じかな」
綾小路の言葉に意識を切り替える。
彼女達も応援に来てくれるし、かっこ悪いところは見せられないからな。
「応援団は明日の夜に出発なんだっけ?」
「うん。頑張って応援するからね!」
綾小路達は深夜バスでの会場入りだ。
俺達は飛行機だから少し申し訳ない気がする。
まぁ予算の都合上、仕方がないのだが。
「ありがと。頑張るよ」
そう言って俺は彼女達と別れ、出発前の最後のミーテキングのため、模擬戦場へと向かった。
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