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第六話 ホールインワン

「伊集院先輩! 伊集院先輩! しっかりして下さい!!」

「……」

「くっ……」


 くそ、どうしてこうなってしまったんだ。

 ほんの三十分前までのんびり食事をしていたと言うのに!


▼▼▼

▼▼


 三十分前。


「さてと、腹ごしらえも済んだし、とりあえず次のフロアを調査したら今日は撤収するか」

「だな。いい加減疲れてきた」

「そうね。今日は八時から見たいテレビあるから早めに切り上げてくれると嬉しいわ」


 そう言って伊集院先輩はブロンドの長い髪を後ろに束ねた。

 その際に揺れた胸に目を取られたのは仕方のないことだと思う。

 だが彼女の精霊の蛇が胸元から顔を出して俺を威嚇してきた。

 違うと言うに。


「それじゃ片付けするので少し待っててください」

「ああ。頼む。その間の警戒は俺達がやっておくから」


 片づけと行っても格納するだけだから大した手間はないんだよね。

 洗い物は台所で一つずつ出せば問題ないし。

 ある意味かなり便利な能力だよなぁ。


「はい、終わりました。いつでもいけます」

「早いな……」

「ほんと、その能力便利よね」

「戦闘力は皆無ですけどね」

「いやいや、十分お釣りが来るっしょ」


 リラックスした雰囲気で俺達は次のフロアへと歩みを進めた。

 この時、もっと警戒していればと悔やんでしまう。


「ん? ルームか?」

「へー、ホールの次にすぐルームがあるって珍しいな」

「モンスターハウスじゃないわよね?」

「神無月、モンスターは居るか?」


 霜月先輩に聞かれて俺はマップを確認する。

 見事に一匹も居ない。

 このフロアに来るまではどのルームにも反応はあったのだが。


「いえ、近くには一匹も居ませんね」

「一匹も? 珍しいこともあるものだな」

「そういうこともあるでしょ、それより早く行きましょうよ」

「そうだな」


 モンスターが居ないことを確認し、俺達はルームの中央へと進んだ。

 そして、落ちた。


「うわああああああ!?!?!?!?」

「のあああああああ!?!??!」

「きゃあああああああ!?!?!?!?」

「っ!?!?!?!?!?!」


 どこまでも続く急な坂を転がり落ち続け、どれくらい経っただろうか。


「おい! 神無月! しっかりしろ! 目を覚ませ!!」

「う……、いててて……、うん……? 霜月先輩……?」

「よかった、目が覚めたか」

「え、あ、はい。ここは……」

「わからん。かなり下層まで落ちたみたいだが」

「ちょっと待ってください。確認します」


 マップを確認すると、血の気が引く音が聞こえた。


「……」

「どうした?」

「ここ……、二十階層です……」

「なん、だと……?」

「最下層ってことかよ……」


 通常、レベルⅠダンジョンの最下層は二十階層。

 そしてそれが意味することは。


「ボスフロア、か……」


 幸いマップの表示範囲内にはモンスターはいない。

 しかし、上のフロアへ戻るための階段も表示範囲内にはなかった。


「決死の逃避行って訳だ」

「笑えないわね」


 今回の探索は上層の軽度の探索のみを前提にしていた。

 下層、それもボス討伐なんて想定していない。

 装備や消耗品ももちろん、そもそも人数が全く足りないのだ。

 授業ではボスの討伐は最低でも八人必要と習った。

 それも全員がランクⅢ以上が前提だ。

 今のメンバーは俺以外はランクⅣだが、三人しか居ない。

 俺を入れても四人だ。

 まず討伐は不可能だろう。


「とは言え、行かねばなるまい」


 俺達はマップを頼りに慎重に歩みを進めていった。



「ここしか無いのか?」

「はい……」


 それから十分後、俺達は絶望に支配される。

 マップの隅に上のフロアに向かう階段が表示された。

 しかし、その前のホールにモンスターの反応があったのだ。

 ここまで一つも反応がなかったのに、だ。

 ほぼ間違いなくボスだろう。


「悪辣すぎるぞ……」

「このダンジョンの脅威度を測り間違えてたわね……」

「くそがっ……」


 まさか三階層から最下層まで直通の罠があり、しかも最下層にある階段の前がボスルームとか。

 おそらく今までになかったパターンだろう。

 仮に罠にかからず最下層までたどり着けたとしても大きな被害が出ることは想像に難くない。


「行くしか、無いだろう……」

「ボスは無視して一気に階段に駆け込もうぜ」

「それが良いわね」

「わかりました」


 霜月先輩を先頭に、左右を猫屋敷先輩と伊集院先輩が固める陣形で突破することになった。

 戦闘力のない俺は三人に守られる形で中央配置だ。

 こういう時、戦闘力がないと言うのは悔しい。

 しかし仕方がない。

 今わがままを言って彼らを困らせる訳にはいかないのだから。


「よし、いくぞ!」

「おう!」

「ええ!」

「はいっ!」



 巨大な緑の体、腰回りに布を一枚まとった豚面のそれ。

 ボスは巨大なオークだった。

 その巨体にふさわしい棍棒を持ち、階段の前に立ち塞がっていた。

 奴は鈍重そうな見た目に反し、俺達の突撃に機敏に反応したように思う。

 しかし俺達はオークの横をすり抜けることに成功した。


 その時、オークがニヤリと笑ったのは気のせいではないだろう。


「ぐあ!?」

「なっ!?」

「きゃあっ!?」

「うわっ!?」


 階段まであと少し、そんな所に罠が仕掛けられているなんて。

 誰が予測できるだろうか。

 俺達は全員勢いのまま転んでしまったのだった。


「BUMOOOOOOO!!!」

「がふっ!!」

「伊集院先輩!!」


 いつの間にか近くに来ていたオークに伊集院先輩が蹴り飛ばされ、壁に激突する。


「くっ、猫屋敷! 左から攻めろ! 神無月は伊集院の元へ!」

「任せろ!!」

「はい!」


▼▼▼

▼▼


そして時系列は冒頭へと飛ぶ。


「くっ……」


 必死に呼びかけるも反応が無い……。

 装備を血に染めてピクリとも動かない伊集院先輩を抱え、俺は呆然と立ちすくんだ。


「落ち着け神無月! 伊集院を連れってどうにか撤退するんだ!!」

「で、でも!」

「早く行けよ!! 俺達だけなら時間稼ぎくらい出来るんだよ!」

「っ……」

「すぐに追いつく。だから早く行ってくれ」

「わかり、ました。 先に行っています。ご武運を!」


 学校に戻りさえすれば、今ならまだ蘇生が間に合うはずだ。

 早く階段を……、登らない……、と……。

お読みいただきありがとうございます。

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