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第五十六話 地区予選(選抜個人)

 選抜個人戦の初戦は九人のバトルロワイヤル形式だ。

 約六十のブロックに別れ、その勝者が二回戦以降のトーナメント戦へ参加できる。

 そしてこのトーナメント戦からが本番みたいなものなのだ。


「各学年ぴったし三人ずつか」


 控室の硬い椅子に腰掛け、俺は呟く。


 現地で配られた割当表を見ると、俺はF-3ブロックだった。

 そして、その表には学校名、学年、クラスも全て表記されている。

 ズラッと並ぶAの中に一つだけ混じっているFの文字。


「これはまた……」


 やはり無理にでも辞退しておくべきだったのではと思ってしまう。


「何変な顔してるんだよ」

「まだ気にしてんの? 他校の連中がどうであれ、俺達は気にしないんだからいいじゃん」

「池内、小久保……」


 俺と同じく、選抜個人戦に選ばれた一年生の二人が話しかけてくる。


「分かっちゃいるんだけどさ」

「まったく、変な所でこまかいやっちゃな」

「ほんとな、そんな可愛い子三人も引き連れて平気な顔してるくせに」

「両手に花どころか膝の上にもだしなー」


 そうは言ってもシス達は精霊って言うこともある。

 というか、リコもカウントされてるのか?

 他の諸先輩方もなんかこっち見て苦笑いしてるし。


「ごちゃごちゃ言う奴らは実力で黙らせればいいってことよ」

「佐藤先輩」


 ポニーテールを揺らしながら自信有り気に笑うのは二年生の佐藤先輩だ。

 選抜メンバーの紅一点。

 彼女は俺と同じ後衛で、一緒に神宮寺先輩に畳まれた仲でもある。


 尤も、後衛と言っても身体強化系の能力持ちだから前衛としても動けるので選抜個人メンバーに入っているのだが。


珠子(たまこ)って呼んでいいのよ?」

「遠慮しときます」

「えー? 他の皆は下の名前で呼んでるのに私だけ仲間はずれってひどくない?」


 男と女は違うと思うのだ。

 いくら死線を共にしようが、そこの線ははっきりあると思う。


「うん、それは駄目」

「せやな」

「パパ、浮気は禁止だよ?」


 線が消えかかっても彼女達がラインを引き直してくるしね。

 と言うか誰が浮気だ。


「あらら、ガードが硬いわねー」

「鉄壁やで!」


 絶壁が、違った、リコが俺の膝の上で胸を張る。


 まったく、くだらない掛け合いだ。

 だが、おかげで緊張がほぐれてくる。


「ん、いい顔になったわね」

「……、ありがとうございます」


 伊集院先輩といい、女子の先輩はどうしてこうも気遣いができる人ばかりなのだろうか。

 惚れてしまうやろ!


「ごふっ」


 だが俺の両脇に肘が突き刺さり、正面からは後頭部が俺の胸を打ち付ける。

 俺に青春の二文字はないらしい。


「あはは、仲いいわね。さてと、そろそろ時間じゃない?」

「ですね」


 俺達は立ち上がると控室を後にした。



「勝者、神無月 悟!」


 木々が生い茂る中、俺は審判が上げる勝利の宣言を耳にした。


 試合開始と同時にシステムウィンドウを展開、防御を固めた後フィールドチェンジする。

 俺の必勝パターンだ。

 もちろん、相手次第では通用しないこともあるのだが、今回の対戦相手達は相性が良かったのだ。


 試合開始三秒で六人を(つた)で拘束。

 二人には避けられてしまったが、すぐさまシステムウィンドウで囲んでの封殺だった。


 完封である。


「そんなバカな……」

「ありえない……」


 そんな声も聞こえてくるが、結果は(くつがえ)らない。


 まぁ、戦い方が地味なのはちょっとあれだけどね。

 でも、勝てばいいのだ。

 敗者に発言権はない。


「ますたー、いやな顔しとるな」

「ん、そうか?」


 うん、ちょっと性格の悪いこと思ってたかも。

 なんせ試合開始直前に『Fクラスのゴミが、ゴミ精霊を連れて何しに来たんだ』なんて言葉を吐きかけられて、少しイライラしていたのだ。


「ま、気持ちはわかるけどね」

「でもパパにはそんな顔ふさわしくないよ」


 むぅ。

 反省しよう。


「気をつけるわ」


 そう言って俺は控室へと向かった。



「まだ誰も帰ってきてないな」


 そりゃそうか。

 ほんの五分前に試合は始まったばかりだ。

 例年早くても三十分、長いと数時間にわたる攻防が繰り広げられるらしいからな。


 しかし、手持ち無沙汰になってしまったな。

 こんなに早く終わると思ってなかったし。


 控室に備え付けのテレビをつけてみるが、特に面白い番組もない。


「ふぁふっ……」


 昨日は興奮してなかなか寝付けなかったし、今朝は今朝で早く起きたし。

 あっさり勝利を掴み取ったことも相まって緊張が抜け、急に眠気が襲ってくる。


「まだ時間あるし、寝てれば?」

「んー、そうするか」


 座ったまま寝てれば寝過ごすこともあるまい。


 俺はシスの言葉に従い、少しうたた寝することに決めたのだった。



「で、爆睡してたと」

「はい……」


 控室に戻ってから一時間後。

 俺は佐藤先輩に白い目で見られていた。


「はぁ……、今朝は緊張でガチガチだったのに。ちょっと気を緩めすぎじゃない?」


 返す言葉もありません。

 いやでも眠気はかなり取れたし、体調万全で二回戦に挑めるんじゃないかな。


「とりあえず気合い入れ直して。初戦の最後のブロックがそろそろ終わりそうだから」

「あ、はい」


 今年は例年より早く初戦が終わるようだ。

 実力が互角の生徒がいる組み合わせがなかったってことかな。


「悟はFブロックだったよね?」

「そうですね」


 佐藤先輩に言われて、俺はトーナメント表を思い出しながら答える。


「神宮寺先輩と当たることはなさそうなんでよかったです」

「あら、決勝で当たるでしょ?」

「いや、決勝まで残れると思えないですし」


 強豪校には神宮寺先輩クラスの人間がそれなりにいるだろう。

 彼らを相手に五連勝する?

 それこそ無茶な相談だ。


「ふーん?」

「なんですか?」

「ううん」


 意味ありげに佐藤先輩を首を振った。

 そして、フラグって知ってる?とのたもうたのだった。


――八時間後、決勝戦。


「はぁっ、はぁっ、くっ!」


 死角から俺の首元にめがけて振り下ろされるかかと落としを寸前に回避する。

 お返しとシステムウィンドウを飛ばすが、先程まで居た場所には既に影一つ無い。


 戦場には灰になった木々が散乱し、砲撃でも受けたのかと思うような巨大な穴があちらこちらに出来ていた。


 試合が開始されて二時間、未だ俺と神宮寺先輩の決着はついていなかった。


「次だ!」


 限界まで巨大化したシステムウィンドウを、地面と水平に寝かせて振り回す。

 そして空中へは、ミキにパイナップルをばら撒かせ逃げ場をなくす。


「ちっ!」


 神宮寺先輩の舌打ちが聞こえる。

 それと同時に彼の周辺にあったパイナップルが、弾き飛ばされるかのように俺の方へ戻ってきた。

 だが、それは予想の範囲内だ。

 弾き返された手榴弾には信管が入っていないのだ。


 神宮寺先輩相手に直接狙っても当たるはずがないのだから。

 まず間違いなく打ち返してくるし。


 彼の周辺を避けるように手榴弾は散開し、爆炎を撒き散らす。

 システムウィンドウを回避するために空中へ逃げた神宮寺先輩に爆炎が迫る。


「ふん!」


 しかし神宮寺先輩は自ら火炎を発すると爆炎を押し返した。

 嘘だろ、おい。

 ほんと化物だよ。

 何度も討ち取ったと思う瞬間があったが、ことごとくその幻想を潰してくる。


「がっ!?」


 だが、運悪く(・・・)炸裂の遅れた手榴弾からの爆炎が彼の背中に直撃し、地面へと叩き落とす。

 これでどうだ!?


「なかなか、やる」


 くっ、これでも駄目なのかよ。

 神宮寺先輩の背中が輝いたかと思うと、彼は何事もなかったかのように立ち上がる。


「回復能力高すぎでしょう……」


 そうなのだ。

 いくらダメージを与えても即座に回復してくる。

 ゾンビもかくやと言ったところだ。


 俺を倒したければ一撃で決めろ。


 試合開始直前に言われた言葉の意味が、最初はわからなかったが今ならよく分かる。


 この人チートだ!


「まったく、とんだ化物だな」


 神宮寺先輩がそう呟くが、そっくりそのままお返ししたい。

 あなたに比べれば俺なんてヒヨっ子もいいところですよ。


「だが、まだ負けるわけには行かないのでな」


 早々簡単に越えられる壁と思われても困る。

 そう言って神宮寺先輩は炎の巨人を作り出した。


 ……、くたばれファンタジー。


 そう思うと同時に、俺の周囲は朱に染まった。



 月曜日の朝刊の一面には『聖骸緑櫻高校 選抜個人戦でワンツーフィニッシュ!』の文字が輝いていた。

 ……、どうでもいいわ。

お読みいただきありがとうございます。

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