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第五十五話 地区予選(団体)

「くっ、悟!」


 平沢の武器、小太刀二刀では勢いの乗ったメイスの一撃を防ぐ事はできない。

 なんとか受け流すものの、メイスの纏う(まとう)炎になめられた平沢が援護を求める。


 しかし俺は俺で山下のフォローで手一杯だ。

 今山下のフォローから手を抜くとそのまま討ち取られかねない。


「ミキ! フォローに入れ!」

「パパ、ダメだ! いくら生やしても燃やされる!」


 二回戦目。

 俺達は三年生のチームと当たっていた。

 それも優勝候補の一角である清浄高校の、だ。


 彼らは巧みな連携を駆使し、俺達を分断、追い詰めてくる。

 能力値も俺達を大きく上回っているらしく、一回戦の様な油断もない。


「侵食は!?」

「やってるけど向こうのが上手! 一つ潰してる間に次のがっ」


 それも複数の能力保持者だ。

 守りに徹している分には耐えられるが、それでは判定負けを貰ってしまう。

 味方の支援をしながらでは、ほとんど攻撃には回れない。

 時折攻撃を入れれば多少通るものの、すぐに回復されてしまう。


 姿の見えない敵の後衛が回復させているのだろう。

 まずはそこを潰さないとこのままではジリ貧だ。


(たける)! 三十秒だけ耐えてくれ!」

「三十秒!?」


 平沢が絶望的な声を出す。

 しかし俺は返事をせず、山下のフォローに全力を注ぐ。

 大丈夫だ、平沢ならきっと凌ぎ(しのぎ)きってくれるはずだ。


達夫(たつお)!」

「分かってる!!」


 山下が全方位に波動を飛ばす。

 敵中衛の後方にゆらぎが生じる。


 見えた!


「うおおおおおお!!!」


 ゆらぎに向かってシステムウィンドウを飛ばす。


 左右を挟むように不可視化を解除したシステムウィンドウを一枚ずつ。

 そして中央には不可視化したものを叩き込む。


「ごふっ」


 何もなかったはずのそこに、敵の後衛の姿が現れた。

 そして彼はそのまま仰向けに倒れ込む。


「やったぞ!!」


 これで二対三だ。

 形勢が傾く。


「くそがっ!」

「っと」


 敵の中衛が悪態をつきながら周囲の瓦礫をこちらに飛ばしてくる。


「後ろからや!」

「させないよ!」


 ガキンッ


 だが、シスの操作するシステムウィンドウが、俺達の後背から飛んできていた瓦礫も含め全ての弾丸を弾き落とす。


「もらった!」

「ぐっ」


 山下の波動が敵中衛の肩を掠める。

 敵の体勢が崩れたところにミキが操作する樹木の一撃が決まった。


「ごふっ」

「よし!」


 三対一。

 これで平沢のフォローに入れる。

 そう思い、平沢達が戦っていた方をみると、ちょうど平沢が空を舞っているところだった。


「健!?」

「ミキ!!」

「わかってる!!」


 樹木のクッションが平沢を受け止め、平沢と敵前衛との間にシステムウィンドウが割り込んだ。


 平沢の容態は気になるところだが今はそれどころではない。

 審判が止めに入ってこないってことは致命傷ってことはないはずだが。

 直ぐに起き上がってこないところを見ると、恐らく気絶はしているだろう。


 これで二対一か。

 まだ数の上では俺達が有利だ。

 平沢の稼いだ黄金の三十秒、無駄にはしない。


 敵前衛が距離を取り、俺達と改めて対峙する。

 これで降参してくれれば楽なのだが。


 相手の顔を見る限りその可能性はなさそうだ。

 目には闘志が未だ輝き、口元は嬉しそうに笑っている。


 炎を纏う(まとう)重そうなメイスを軽々と振り上げる。


「行くぞ!」


 掛け声と同時に、敵前衛が俺達に向かって突き進んでくる。

 だが、遅い。


 神宮寺先輩のように出足がわからない訳でもなく、水島先生のように残像を残すほどでもない。

 これなら、止められる。


 正面にシステムウィンドウを展開し迎え撃つ。

 回り込みに備え山下が力を溜め込む、慣れ親しんだいつものパターンだ。


 ドゴンッ!


 敵前衛がシステムウィンドウに衝突し、火炎が巻き起こる。

 敵前衛と目が合い――そして、彼はそのまま地面へと倒れ込んだのだった。


「……」


 終わった、のか?


 心臓の音が煩いほど高鳴る。

 先程までの戦闘音がピタリと止み、戦場に静寂が満ちる。


「勝者、勝者聖骸緑櫻高校せいがいりょくおうこうこう!」


 一瞬の間を置いて、喚声(かんせい)が上がる。

 相手校の応援団からは悲鳴が、俺達の応援団からは歓喜の声の大合唱だ。


 耳がキーンとなるほどの喚声を背中に受けながら俺達は平沢の元へと向かう。

 無事だといいのだが。



「やあ」


 樹木のベットに横たわり、息も絶え絶え、制服はあちこちが焦げている。

 平沢は痛みを堪えるような、だが嬉しそうな顔で俺達に手を振った。


「無事、みたいだな」

「この姿を見てそれを言うか?」

「それだけ言えれば上等だ」


 俺が差し伸べた手を平沢が取って立ち上がる。


「「「勝ったぞ!!」」」


 俺達三人は応援団に向けて拳を振り上げ、勝利を宣言する。

 それと同時に歓喜の声が爆発、絶叫が会場を支配した。

 真横でシス達が拍手をしているがその音が聞こえないくらいだ。


 俺は平沢に肩を貸し、鳴り止まないエールを背に受けながら戦場を後にしたのだった。


 平沢を救護室に運び、治療をしてもらっている間に次の対戦相手を確認する。

 後二回勝てば本戦への切符が手に入る。

 トーナメント表をみると、次の試合も三年生相手の様だ。

 まぁ三回戦だし当たり前といえば当たり前か。


 それにしても、運がいいのか悪いのか。

 まさか二回戦目で強豪にぶち当たるとは。

 それでも神宮寺先輩のチームとは当たらない組み合わせになってるだけまだマシかな。



 その後、俺達は順調に三回戦、準決勝、決勝と駒を進め、本戦への切符を手に入れたのだった。

 正直二回戦目がダントツで苦しく、それ以降は余裕だった。

 流石は優勝候補の一角と言われるだけあったということだろう。

 なお、神宮寺先輩のチームも当然のごとく決勝進出を決めていた。

 流石である。

 各地区三チームしか本戦への出場権が無いのに、その内二チームがうちの高校からとは。



 翌朝、寮のロビーに置かれていた新聞を何の気なしに手に取った俺の目に飛び込んできたのは『ジャイアントキリング』の文字だった。


 曰く、優勝候補の一角、新進気鋭の一年生に敗北。

 曰く、一年生が本戦へと駒を進めるのは大会始まって以来の快挙。

 曰く、最強の矛と無敵の盾の衝突。


 いや、うん。

 これ、地方新聞とは言え、来週からどんな顔して学校に行けばいいのか困るよね。

 今日は選抜個人戦があると言うのに、少し平静を欠いてしまいそうだ。

 羞恥をごまかすように新聞を折りたたむと立ち上がり、背伸びをするのだった。

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