第五十二話 連携
「リコ、ちょっと進みすぎ。もう少し下がって」
ミキが少し焦りながら指示を飛ばす。
その声に反応して前に出すぎていたリコが足を止めた。
リコは少し興奮気味だが、声が耳に入る程度には冷静ではいるようだ。
「右に逃げてる! 左側から追い込んで!」
「わかった」
シスが相手の動向を把握し、リコとミキに伝えると二人は間隔を保ちつつ目的地へ誘い込むように円を描きながら移動を始めた。
「いいぞ、その調子だ」
繰り返す度に少しずつだが連携が上手くなってきてる。
最初は相手にすり抜けられたり互いにぶつかったりしていたが、今では実用レベルに到達しつつあった。
「いまやっ!」
リコの掛け声と同時に水飛沫が舞った。
そして罠に嵌った標的をミキが次々と討ち取っていく。
絶命したことを確認すると、シスがストレージに回収していった。
俺達も随分と上手くなったものだ。
当初の様に運に頼ったやり方ではなく、着実に実力を身に着けていることが実感できる。
「今日は大漁やな!」
リコが尻尾を嬉しそうに揺らす。
尻尾が揺れる度に水面に小さな波ができる。
最初は尻尾が濡れないように頑張っていたが、途中で諦めていた。
「ああ、これでしばらく海には来なくて済みそうだ」
今日の夜は九頭竜戦のメンバーや生徒会の面々と材料を持ち寄ってバーベキューをする予定になっていた。
そのため空いた時間を利用して俺達は海に食材を調達しに来ていたのだった。
もちろん経費節減のためである。
これから大会までは訓練漬けになる。
今日はそれまでの間、まともな休みが取れる最後の休日だ。
大会に向けて英気を養うため、毎年行っている恒例行事らしい。
そこでAクラスのメンバーとも顔合わせ予定だ。
Bクラスのやつに絡まれたことを考えると、嫌な奴かもしれない。
少し憂鬱だ。
「とは言え、もう決まったことだしなぁ」
「まだ言ってるの?」
いつの間にか俺の横に来ていたシスが首を傾げる。
「パパ、往生際が悪くないかい?」
そう言いながらミキも海から上がってこちらに向かってくる。
スカートをギリギリまで上げているせいで色々と危ない。
「そうは言ってもな」
「伊集院先輩達もAクラスやん」
「あれ、そうだっけ」
そうか、そう考えると少し気が楽になる。
それに今日は生徒会の人達もいるし、悪いことにはならないだろう。
「それじゃ行きますか」
大量の新鮮な魚を手土産に、俺達は足早に会場へと向かった。
▼▼▼
▼▼
▼
会場の中央ではバーベキューコンロから炎が上がっていた。
その前には神宮寺先輩がタオルを頭に巻き、団扇で風を送り込んでいる。
なんだろう、予想外に似合いすぎて声をかけづらい。
会場についた俺は手持ち無沙汰に周りを眺める。
そうすると、俺の方に向かってくるイケメンの姿が目に入った。
「はじめまして。今回一年チームのリーダーを拝命した平沢 健です」
「はじめまして。神無月 悟です」
「ああ、やっぱり」
イケメン、もとい平沢はシス達に視線を流した後、納得したように頷く。
なにがやっぱりなんだ。
「神無月君、一度君と話をしてみたいと思っていたんですよ」
「俺と?」
イケメンが俺に何の話があるというのだろうか。
俺にはないぞ。
「はは、そう警戒しないでくださいよ」
平沢が困ったように髪をかきあげる。
薄茶色の髪の毛が炎に照らされて煌めいた。
イケメンというのは何をやっても絵になる。
しかもAクラスだろ。
天は二物を与えずっていうのは嘘だよな、本当に。
「別にそういうわけではないですよ」
ええ、警戒しているんじゃないんです。
この目に宿るは嫉妬の炎よ。
「それにしても羨ましいですね」
「え?」
イケメン、高身長で細マッチョ。
その上Aクラスに配属されるような能力持ちが羨ましい?
俺に羨ましがられるようなものなんて無いと思うのだが。
フツメンで中肉中背。
そしてFクラス。
平沢のスペックと比べたら月とスッポンだ。
「僕も神宮寺先輩に指導をしてもらいたかったんだけどね」
忙しいからと断られてしまったよ。
そう言って平沢は苦笑いを浮かべる。
忙しい?
出来る限り毎日、俺に指導をしてくれるって言ってたのに?
「それに水島先生の指導も受けているでしょ?」
「まぁ担任だしな」
ダンジョン学の担当ということもあって戦闘理論等も詳しく教えてくれる。
放課後、神宮寺先輩の指導が始まるまでじっくり、ねっとり、ねちねちと。
逃げようと思っても先回りされてしまい不可能だった。
「なんだ、嫌なのかい?」
「そりゃたまには遊びたいし」
「贅沢だな、僕達は指導を受けたくても受けられないというのに」
隣の芝は青いということなのかな。
そう言って平沢はため息を吐いた。
「ともあれ、これからよろしくお願いするよ」
「ああ、同じチーム同士、仲良くやろう」
そう言って俺達は握手を交わした。
「なんだ、もう来ていたのか」
神宮寺先輩がこちらに気が付き声をかけてくる。
しかしその手は団扇を扇ぎ続けていた。
俺達は神宮寺先輩の元へ行き、その団扇捌きを見守る。
「なんや、神宮寺せんぱいが火の番しとるん?」
俺達の疑問をリコが代わって口にする。
「ああ、俺はこういうのも好きでな」
炭の加減は他人には任せられない。
そう神宮寺先輩はのたもうた。
鍋奉行ならぬ炭奉行ということらしい。
「もう少しで火が落ち着く。そうすれば準備は万端だ」
視線を炭に向けたままニヤリと笑う神宮寺先輩、その頬を一筋の汗が流れた。
「あー、俺達も何かすることありますか?」
「ん、そうだな。まぁ今日はお前達はお客様だ。他のメンバーもそろそろ来るだろうから交友を深めておいてくれ」
手を出されたくないんですね。
わかりました。
「他のAクラスの奴らは?」
「もうすぐ来ると思うけど。あ、おーい!」
校舎の影から集団が姿を現す。
その集団に向かって平沢が手を振った。
「おまたせ」
「会場は本当にここであってるんだよな?」
彼らは口々に疑問を口にし、次いでセットされているバーベキューコンロと神宮寺先輩を見て眉をひそめた。
「うん、僕も半信半疑だったんだけどね」
だろうな、俺も少し驚いたし。
「模擬戦場でバーベキューとか、チャレンジャーだよね」
平沢の常識的なセリフに全員が首を縦に振る。
元々は校庭等で行っていたらしいが、神宮寺先輩が入学して以降は模擬戦場で行うことになったらしい。
なんでも常在戦場の心得とかが理由らしいけど。
ダンジョン内でやるとかじゃなくて良かったと言うべきか。
煙が逃げる所無いしね。
その後諸先輩方も合流し、バーベキューは大いに盛り上がった。
不安だったチームメイト達もなかなか良い奴らでよかった。
大会までに連携が取れる様に、明日から毎日放課後は連携の訓練だ。
彼らとならやっていけるだろう。
そうだ、せっかくだから水島先生と神宮寺先輩の指導にも誘ってあげよう。
指導を受けた後、その内容を反映した連携訓練を行えば完璧のはずだ。
なんたって仲間だからなっ!
くっくっくっ。
俺は一人笑いをこぼすのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ブックマーク、評価、感想等いただけると励みになります。
あと↓のランキングをポチってもらえるとうれしいです。




