表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/110

第四十九話 模擬戦

「全員揃ってますか?」


 水島先生は中庭まで来ると振り返ってそう言った。

 途中一度も後ろを振り返ることなく、まっすぐ歩いて行く姿を見て行き遅れている理由が何となく分かる。


 これが友人相手なら途中で姿をくらましているところだ。

 そして到着してから誰も付いて来ていない事に気が付き、オロオロする姿を見たい。

 そんな被虐心が頭をもたげたがなんとか押さえつけた。


 既に数人消えているが、まぁ初日だし気がつくのは無理だよな。


「あの、中庭に来てどうするんですか?」

「今日は皆さんに実戦訓練をしてもらいます」


 綾小路の質問には答えず、水島先生はルール説明を始めた。


 能力を使用した実戦演習を行うことで授業の内容をより理解しやすいようにしたいという思惑だろう。

 まぁ事前準備が全くされていないから普通に授業をするのが難しかったのかもしれないが。


「とはいえ、怪我をされても困りますから」


 今回は二チームに別れ陣地を作り、陣地内に設置した的を能力を使用してタッチもしくは破壊すればOKとしましょう。

 と水島先生は続けた。


「えっと……」

「それは……」


 クラスメイト達に困惑が広がる。


「何かわからないことがありますか?」


 クラスメイト達が何故困惑しているか、水島先生は理解できていない。

 本人はわかりやすく説明したつもりなのだろうが、大本から間違っているのだ。


 彼女は知らないのだろう。

 能力値が低い、あるいは戦闘に向いていない能力しか無い者を集めたのがFクラスだということを。


 しかたない、助け舟を出すか。


「あのー」

「神無月君? どうしました?」

「水島先生、俺と模擬戦してもらえませんか?」


 俺の言葉に水島先生の眼尻がピクリと動く。

 そしてクラスメイトには先程までとは違う色合いのざわめきが広がった。


 とにかくこの場は適当に繋いであとで説明するしかない。

 ここで下手に説明すると顰蹙(ひんしゅく)買いそうだし。


「えっと、私はこれでも神事省のエージェントやっていたんですけどね?」

「ええ、存じております。そのエージェント相手にどの程度自分の力が通じるのか、試してみたいんですよ」


 なんとか俺の思いが通じるように目に力を込めて水島先生を見る。


「はは、そうですか。私もなめられたものですね。良いでしょう。教育、してあげますよ」


 ストレス解消してやる。

 彼女の呟きは直ぐ側に居た俺にだけ聞こえた。

 俺の思いは通じないどころか火に油を注いだ結果となったようだった。

 というか、仮にも教師の言うセリフじゃないよなぁ。


「お手柔らかにお願いします」

「ええ、現実を教えてあげますよ」


 そう言って水島先生は嬉しそうに笑った。

 いや、うん、本気で来られたら俺も本気を出さざるをえないのだけど。

 大丈夫か。

 相手は元エリートのエージェントだしな。


「他の皆は渡り廊下から見学していて下さいね」


 水島先生のその言葉にクラスメイト達は渡り廊下へと移動を始める。


「綾小路さん、全員が渡り廊下についたら声を上げてもらっていいですか?」

「あ、はい。わかりました」

「それを合図で模擬戦を開始します」


 水島先生は小さな手をポキポキと鳴らし、戦意を高めていく。

 あ、これガチだ。


 俺の取れる攻撃手段は基本的にシステムウィンドウでぶん殴るだけ。

 リコの能力は模擬戦で使用できる類のものじゃないし、先日の検査の際に教えてもらったミキの能力も戦闘には向いていない。

 というか、システムウィンドウで殴るのも本来の使い方じゃないしな。


 対して水島先生は。

 ん?

 あれ?

 水島先生の能力って調査系の能力と精神干渉系の能力って聞いたことあるけど両方共戦闘向きじゃない。

 ということは他にまだ能力を持っているということか?

 俺の能力は筒抜け、対して水島先生の能力を俺は知らない。

 これはかなり不利な勝負になるのではないだろうか。


「到着しましたー!」


 水島先生の能力について考えていると、綾小路から声がかかる。

 模擬戦開始の合図だ。


「はあああああ!!!」

「へ?」


 裂帛の気迫とともに黒い弾丸、いや、水島先生が俺の胸元に飛び込んでくる。


「はぁっ!!」

「なっ!」


 低い位置から躊躇う(ためらう)ことなく、みぞおちに向けて打ち上げられた掌底を躱せた(かわせた)のは奇跡に近い。

 奇跡の代償として支払ったものは体勢だ。

 体は流れ、左足が宙に浮く。


「死ねやおらあああああ!!!」


 俺の首元へ振り下ろされる死神の鎌、もとい、水島先生の足。

 教師が生徒に向けて言うセリフとは思えない内容、そして気迫。


「させない!」


 そこへシスのインターセプト。

 システムウィンドウがかろうじて俺の首と水島先生の足の間に割り込む事に成功する。


「邪魔だ小娘えええええ!!」

「システムウィンドウを踏み台にしたっ!?」


 水島先生はシステムウィンドウを蹴り上げると空に舞い、今度はかかと落としで俺の頭を狙ってきた。


「あかんって!!」


 だが、運良く(・・・)俺の足元が滑り、頭の位置がずれたことで死の一撃は俺の頬をかすめ、地面を砕くだけとなる。


 ちょっとまて、死の一撃ってなんだ?

 中庭に敷き詰められていた石板が砕かれてるんですけど!

 というか今一気に消耗したけど即死回避発動してなかったか!?


「ちょこまかとっ!! いい加減諦めなさい!!」

「いいや、諦めるのは君だよ」


 ここまで黙っていたミキが初めて口を開く。

 そしてそれと同時に中庭を囲う木から彼女を拘束せんと一斉に枝が伸びる。


 グシャッ


 そして彼女の居た場所に枝が殺到、埋め尽くす。


「やったか!?」

「悟駄目! それ生存フラグ!!」


 しまった!

 思わず言ってしまった!


 背筋に悪寒が走る。


「後ろか!?」


 慌てて振り向くもそこには何もない。


「残念、下だよ」


 周囲から色が消え、世界は白と黒に塗りつぶされる。

 全ての動きがゆっくりとなり、体は動かない。

 目線だけを下に向けると水島先生が微笑んでいた。


 サヨウナラ。


 白と黒の世界で、死神(水島先生)の口元がそう動いた様に見えた。


 ダメだ、殺られる。


 ギンッ!


「チッ!」


 舌打ちとともに水島先生が大きく距離を取る。


 ザンッ ザンッ ザンッ


 一瞬前まで彼女が居た場所に見えない何かが突き刺さる。


「何で当たらないのよ!!」


 シスが叫ぶ。

 なるほど、システムウィンドウを不可視状態にして操っているのか。

 しかし見えない攻撃をあっさりと躱す(かわす)なんて、水島先生は化物か?


「シス、代わって」


 シスの攻撃が当たらないと見ると今度はミキが攻撃を始める。

 空間を埋め尽くす様に枝が伸びるが、黒い影を捉えることは敵わない。


「どうなっているんだ」


 ミキが呆然と呟く。


「狙いが甘い! 連携が取れていない! 戦略もない! そんなのに当たるわけがないでしょ!」


 いや、見えない攻撃や空間全体攻撃が当たらないとかありえないだろ。


「シッ!」


 カンッ!


 喋りながら石を投擲(とうてき)してくるし。

 しかも狙いが正確すぎる。


 全周防御してなかったら即不意打ちを食らいそうだ。


 俺達の攻撃は当たらない。

 水島先生の攻撃は通らない。



 そんな一進一退の攻防を続けること二十分。

 中庭は廃墟と化したのだった。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価、感想等いただけると励みになります。

あと↓のランキングをポチってもらえるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ