第四十四話 面談
「暑い……」
水島さんに案内され客室に通された俺は漸く一息つけるとソファーに腰をおろした。
それと同時にリコが俺の膝に飛び乗り、俺の左右に座ったシスとミキが俺の腕を取って抱きしめる。
まだ六月とはいえ、それなりに暑くなってきている。
経費削減のためかエアコンはかかっていなかった。
三人にべったりくっつかれると暑くて仕方がないのだが。
「なぁ、少し離れてくれないか」
いい加減本気で暑くなってきたので離れるように頼んで見る。
しかし、シスは我関せずといった表情をしながらスマホを取り出していじるだけ。
と、思っていたのだが。
「『ずっと俺の側にいるんじゃないのかよ!!』」
「!?」
なっ、なっ、なっ。
「い、いつの間に!?」
「ふふ、ずっと側にいていいんでしょ?」
いつの間に録音してたんだ?
そんなことしてる余裕なんてなかったはずなのに。
「シス、後でうちにもそのデータ送ってな」
「あ、ボクにも頼む」
「りょーかいー」
そして拡散される音声データ。
や、マジで勘弁してもらいたいんですけど!?
「これ着メロにしよっかな」
「ああ、それはいい考えだ」
「うちもうちもー!」
公開処刑!?
水島さんが生暖かい目でこちらを見てきてるんですけど!
「仲、いいのね」
「当たり前じゃないですか」
「一蓮托生っちゅーか」
「そうだね、パパが死んだら追いかける程度の覚悟はあるかな」
先生、彼女達の愛が重いです。
「そ、そう」
水島さんが頬を引きつらせながらかろうじて笑顔を保っているのがわかる。
「ここまでアレなら問題ないのかしら……」
水島さんがそう呟く。
アレってなんですかアレって。
と言うか問題ないって何?
「それで、俺、まだ呼び出された理由を聞いてないんですけど。能力や精霊の封印ではないんですよね?」
「そう警戒しないで、と言っても無理よね」
当たり前だ。
つい今しがた襲われたばかりなんだぞ?
「でもほんとうに大丈夫よ。今日来てもらったのは精密検査と面談が目的なの」
「悟、大丈夫よ。万が一があっても私達が悟を守るから!」
シスが腕に力を込める。
揺れた髪の毛が頬に当たりくすぐったい。
思わず顔を反対側に傾けるが、今度はミキの髪の毛に触れてしまう。
「おや、パパ、膝枕をご所望かい?」
「違うから」
「そうか、残念だ。ボクの成長を知ってほしかったんだけどね?」
ミキも腕に力を込めてくる。
抱きしめられた腕からは彼女が大きく成長していることが伝わってくる。
膝枕をされたら恐らく挟まってしまうだろう。
「うちも成長したんやで! ほれ!」
そう言ってリコが二つに増えた尻尾を俺の眼前でブンブン揺らす。
「おー、そうだなー、成長してる成長してる」
「なんやねん……」
リコがしょぼくれるが、そうは言ってもな。
「驚かせよう思うて隠しとったのになぁ」
感情が爆発した時に隠しきれなくなってしまったらしい。
隠す必要があるのかどうかもわからないが。
それに尻尾が二本に増えたのは成長と言っていいのだろうか。
体は全く成長してないし。
あれか、栄養が全部尻尾に吸い取られているのか。
「ますたー、なんや不謹慎な事考えとらん?」
「キノセイダ」
「そないか。……、ますたーやったら、その、特別にうちの尻尾触ってもええんやからな……?」
頬を染めてリコがそんなことを言ってきた。
うーん、まぁこのもふもふ尻尾や狐耳は一度モフりたいとは思うけど。
「わ、リコ大胆だね」
「うん、さすがのボクもそこまでは言えないかな」
リコの言葉にシスとミキも顔を朱に染める。
え、なに、そんな内容なの?
「えっと、どういう意味なんだ?」
「うちの口から言わせるん……?」
瞳を少し潤ませて上目遣いでリコが聞いてくる。
思わずドキッとしてしまう。
「え、いや、その」
「悟、変態だね」
「パパ、そういう趣味があるんだ」
そういう趣味って何?
ただ尻尾を撫でるだけじゃないの!?
「でもパパが望むならボクも……」
「うん、悟のためなら……」
二人が覚悟を決めるかのようにそう言ってくる。
いや、そんな覚悟いりませんから。
「えっと、イチャつきはそれくらいにして話を進めたいんだけど……」
いちゃついてるわけでは無いんですけど?
傍からだとそう見えるだろうけどさ!
「あ、私たちは気にせず話ししてくれて良いですよ」
シス?
水島さん困ってるからね?
「いつまで経っても帰れないし、早く話を進めよう」
「ぶー」
シスが不満の声を上げるが黙殺する。
「それで面談と精密検査でしたっけ?」
「やっと話が前に……、いえ。はい、そうです」
「随分と急ですね」
「それはね」
俺が先日リコの能力を使用し、アカシックレコードの改変を行った事が理由だと水島さんは説明した。
「どちらかと言えば面談の方が主目的ね」
どういった理由で何を改変したのか。
それを水島さんたちは知りたいらしい。
しかし言っても良いものなのだろうか。
「個人のプライバシーが関わってくるのですが」
「プライバシーは極力尊重しますが、これは公的なものですので……」
どちらにしろ拒否権はないと、そう水島さんは言った。
まぁ仕方がないんだろうけど、ちょっと考えてしまう。
「既に無くなったことやし、問題ないんとちゃう?」
「まぁ、そうなのかな」
そうだよな、もう俺達の記憶の中にしか存在しない過去だもんな。
「分かりました」
俺は綾小路さんが過去、両親から家庭内暴力を受けていたこと。
スタンピードで両親を失ったことで暴力から開放されたこと。
そしてそれが原因でダンジョンを神聖視するグループに所属し、様々な問題を引き起こしていたらしいことを伝えた。
「彼女とその背後のグループの連絡方法とかはわからないですね」
「そうですか……」
水島さんが口元に手を当てて考える素振りをする。
既になかったことになっている以上、綾小路さんから情報を手繰ることは出来ない。
「しかし、ここ最近妙に頻発していたスタンピードは彼らが引き起こしていたものだと裏付けが取れて良かったです」
「いえ、過去が変わっていますからわからないですよ?」
過去を変える前だったら間違いなく人為的だったろうが、今の世界では偶然発生した可能性があるのではないか。
そう俺は水島さんに問いかける。
「いえ、一部の例外を除くと過去の改変はそれが歴史の転換期でもない限り、歴史の流れに矯正されるので細かい部分は変わっても大きな流れは変わりません」
今回のように小さい改変ではそこまで変わらないでしょう。
そう水島さんは続けた。
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