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第四話 クラス

「一のF、一のFっと」


 シスにフライングボディーアタックをくらい、右足首捻挫の憂き目にあった俺は次の日から松葉杖を頼りに通学する羽目になっていた。

 これがクエスト絡みの怪我なら治癒系の能力者に治してもらえるのにな。

 まぁ、Fクラスに振られた俺にはあまり関係がないけど。


「悟、大丈夫?」

「あー、大丈夫、大丈夫だから」


 シスは責任を感じているらしく甲斐甲斐しく世話をしてくれる。

 ……、精霊ってこんなんだったっけ?

 今まで聞いていたイメージとぜんぜん違うんだけど。

 まぁいいや。


「それよりも荷物大丈夫か?」

「うん、これくらいならへっちゃら。お弁当もちゃんと二つ用意してきたからねっ!」

「お、おぅ、ありがとう」

「どういたしまして!」


 せい、れい……?


「でもトイレまではついてこなくていいから」

「えぇ……、遠慮しなくていいのに……」


 遠慮じゃねえよ!

 俺が嫌なんだよ!!

 誰が好き好んで美少女にトイレの世話してもらうんだよ!?

 そんな特殊性癖俺にはないわ!

 相手が精霊とわかっていても、だ!


「お風呂は良いのに……」

「おい、誤解を招く発言をするな」


 たしかに風呂は手伝ってもらってるよ?

 だって一人じゃ入れないし。

 だが、シスにはちゃんと服を着てもらい、俺はタオルで隠してるからな。


「悟、かわいいよね」

「ナニガデスカ……」


 ちゃんと隠せてるよね……?

 っと、あれか。


 校舎の一番奥に一のFクラスの標識を見つけた。

 昇降口から一番遠いのもやはりFクラスだからだろうかとちょっと穿った(うがった)見方をしてしまう。

 まぁ、渡り廊下からはそこまで遠くないし、そういう意図はないのだろうけれど。


 そんなことを考えているうちに教室の入口に着く。


「おはよー」

「おはようございまーっす!」


 扉を開けて挨拶を投げる。

 こういうのは一番最初が大事だよな。


「おはよ。相変わらず仲いいね」


 そこには予想外に見知った顔(雨柳)がいた。

 と言うか、俺の前の席かよ。

 どういう席順なんだ。


「そりゃ相棒だからな」


 こいつの能力は良かったはずなんだけどな、と思いながら適当に返事を返す。

 余程能力値が低かったか精霊がポンコツだったのだろうか。


「ふーん?」


 ニヤニヤしながらこちらを見やってくる雨柳に少しの苛立ちを覚えながら自分の席につく。

 しかしFクラスか……。

 能力値的にはAクラスでもおかしくないのに。

 やはり能力そのものがあれだからかなぁ。

 でも能力が良くても雨柳みたいにFクラスに配属されたやつも居るし。

 要はバランスなのだろう。


「寮の設備が意外に充実しててよかったよな」

「そうだな、ちゃんとしたキッチンまであるのは驚いた」

「神無月はまだ学食食ってないよな?」

「そうだけど」


 昨日は午前中に負傷して病院送りだったからな。

 昼飯は寮に帰る途中でパンを食べて終わりだったし。


「期待していいぜ!」

「ほお」

「食券制なんだけどさ、四種類も定食のメニューがあるし、それが毎日変わるんだぜ」

「ほー」


 四種類はすごいな。

 迷って決められなくなってしまいそうだ。

 楽しみだ、といいたいところなんだけどなぁ……。


「今日は一緒に行こうぜ!」

「あー、すまん。弁当があるんだ」

「え? 弁当? お前案外マメなんだな」

「いや、俺と言うか……」


 これ、言っても良いのか?

 なんかすんげー判断に迷うんですけど。


「私が作ったのです!」


 本人が言っちゃったよ。


 シスが自信満々に胸を叩く。

 そしてそれを見て雨柳はにわかには信じられないと固まっていた。


「……、マジ?」

「いぇーっす!」


 胸を張って自信満々に答えるシスと湧き上がる疑念に覆われる雨柳。

 傍から見たら笑える光景だろう。

 当事者の俺は頬を引きつらせるしか無い。


「なぁ、神無月、それ、本当に精霊だよな?」

「たぶん?」


 俺だって疑問だよ。

 朝起きたら朝飯のいい匂いがするし。

 弁当はできてるし。

 シャツにはアイロンがかけられていた。


「私の分とお揃いなの!」

「精霊って飯食うんだ……」

「らしい」


 俺も初めて知ったよ。

 精霊がものを食べているシーンなんて今朝始めて見たし。

 それにしてもいつの間に弁当箱から何から揃えたのだろうか。


「食べなくても問題ないけど、一緒にご飯っていいじゃない?」

「まぁ、そうだな」


 わからなくはないんだが、なんだかなぁ。


「ふ~ん……。ガルちゃんも飯食べるか?」

「ガウ?」


 雨柳が自らの精霊に聞くも話が伝わっていないというか。

 食べるということ自体よく分かっていないのかもしれない。


「まぁいいや。んじゃ俺は他の連中と食べに行ってくるかな」

「すまんな」

「良いってことよ。お~い、今日の学食何食う?」


 他の連中に声をかけながら雨柳は俺の側から離れていった。



「あ、神無月君、だよね?」

「ん? 君は確か」


 入学式で一緒に廊下を全力ダッシュした子か。


「昨日ぶり! 同じクラスだったんだね。運命感じちゃうねー」


 そういうこと軽く言わない。

 本気にしちゃうよ?


「あ、私は綾小路 穂乃果(あやのこうじ ほのか)だよ。よろしくね」

「ああ、よろしく頼むな」

「こっちは私の精霊のぺろちゃん。ぺろちゃん、挨拶して」

「……」


 綾小路さんの精霊はバクをデフォルメしたような姿だった。

 リアル系な姿の雨柳の精霊と全く違う、とても個性的とでも言えばいいのだろうか。

 うん、可愛くないわけではないし良いのかな。

 所謂(いわゆる)キモカワ系と言うやつだ。

 無愛想だけど。


「えっと、これが俺の精霊でシスっていうんだ」

「こんにちわ……」


 シスは俺の影に少し隠れながら挨拶をした。

 こいつ人見知りするようなやつじゃない気がしたんだけどなぁ。

 なんて考えていると綾小路さんはシスへも愛想よく挨拶をする。


「やっぱり精霊だったんだ? よろしくね」


 おや、以外に薄いリアクション。

 精霊に挨拶するってのも珍しいな。

 あまりそう言う区別だとかはしない人なのかな。


「うん。あ、そだ。さっきちらっと聞いてたんだけど、神無月君達もお弁当なんだよね?」

「そうだけど」


 残念ながらと言うべきか、喜ばしいことにと言うべきか。

 美少女の手作り弁当ではあるけど、相手は精霊だしな。


「それだったら一緒に食べない?」

「え、いいの?」


 これはもしかしてあれか。

 俺にも春が来たってやつか?


「うん、仲のいい友達増やしたかったんだー」


 ……、友達、うん、友達。

 そりゃそうだよな。

 出会ったばかりですぐなんて、そんな都合のいい話があるわけがない。


「ああ、それじゃ一緒に。シスもいいよな?」

「……、別にいいんじゃない?」


 明らかに低いテンションで、しかもそっぽを向いて答えるシス。

 初対面の相手にそういうのはどうかと思うんだけど。


「あはは、なんか嫌われちゃったかな?」

「いや、そんなことは。おい、シス!」


 少し強めに言うとシスは渋々ながらも顔を正面に向けてくれた。

 他の精霊はもっと大人しくいう事聞いてくれてるのにと少しだけ思ってしまった。


「はいはい、仲良くしましょうねーっと」

「うん、よろしくね」


 しかし、シスも少しは他の人と仲良くしてほしいんだけどな。

 いつもこの調子では疲れてしまう。


「ほら、ホームルーム始めるぞ。席につけー」


 教師の号令で皆が席に着く。


「綾小路、今日は君が日直として号令をしてくれ」

「はい、わかりました。起立、気をつけ、礼」

「お願いします」


「さて、一年 Fクラスの諸君。私がこのクラスを担当する如月 冥夜(きさらぎ めいや)だ。短い者には今学期のみの付き合いになるかもしれないがな」


 鋭い視線がクラス全体を見渡した。

 そうなんだよな。

 能力値とかランクが上がれば上のクラスに行ける可能性があるんだ。

 使えるようになる能力次第ではあるがまだ可能性はゼロじゃない。

 頑張ろう。


「とは言え、FクラスからBクラス以上に上がれた生徒は極少数、例外的な数しか居ない。恐らく長い付き合いになるだろう。よろしく頼む」


 マジデスカ。

 え、それ、夢も希望もなくないですか。

 たちまちブーイングが上がる。


「あー、知っての通り、高校からは各自の能力を用いてモンスターを討伐する授業がある。しかし、だ」


 そう言って如月先生は一拍を開ける。


「諸君ら各自の能力には差がある。だから上位クラスには高難易度のモンスターを。下位クラスには低難易度のモンスターを討伐してもらうことになる。これがどういうことかわかるか? 雨柳、言ってみろ」

「は、はい。 えっと、俺達は弱いモンスターを倒すってことですよね?」

「それだけか?」

「そう思いますけど……」


 雨柳の回答に如月先生は少しため息を吐きながら目をつぶる。

 鋭い人間はこの時点で気がつくだろうからな。

 まぁ分からないでもないが教師としてその態度はいかがなものか。


「まぁ半分正解と言っておこう。その通り弱いモンスターだけを倒すわけだ。上位クラスが強いモンスターを倒し、より多くの経験を積んでいる間もな」

「それじゃ!」

「そういうことだ。上位クラスとの差はどんどん開いていくことになる」

「そんな……」


 尤も、一年の前半はダンジョンへ潜る授業はないからあまり差は出ないがな。

 と如月先生は続けた。


「まぁ、一応救済処置はある。各自の努力次第でどうにかなる可能性もないわけではない」


 如月先生はニヤリと笑いながらクラスを見渡す。


「その救済処置って何なんですか?」

「多数ありすぎて答えられないな。それを見つけるのも各自の努力ということにしておこう。さて、ホームルームは終わりだ。今日は一日オリエンテーションとなっている。自己紹介は好きにしろ。各自自由に行動するように。綾小路、号令を頼む」

「はい……。起立、気をつけ、礼」

「ありがとうございました……」


 救済措置、ね。

 このオリエンテーションの時間を使って探してみるとしますか。

お読みいただきありがとうございます。

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