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第三十八話 過去の幻影

胸糞注意です。

「何事もなかったらいいんだけどな」


 学校から自室に戻り私服に着替えた俺は、棚の上に置かれた封書を見ながらそうつぶやいた。

 ただのイタズラとは思うが、最近妙にスタンピードの発生が多いし、何か変なことに巻き込まれつつある気がしてならない。


「さってと、明日の準備しないとな」


 チームのメンバーに明日のクエストについて連絡した俺は、装備の確認を行うことにした。

 入学時に購入した最低限の装備だが、あるとないとでは大違いだしね。

 自分の命を護るものだ。

 それなりにいい値段がした事もありメンテナンスは怠れ(おこたれ)ない。


 一部ズボラな生徒は既に装備にカビが生えたとか言っていたが。


 ピロン♪

 準備をしていると携帯電話から着信を知らせる音がした。


「どれどれっと」


 送信者は寺門さんだった。

 そのキャラに似合わず絵文字オンパレードのメッセージだ。

 あいつも女の子なんだよな、と今更の感想を得る。

 普段が普段なだけにギャップに少し来るものがあった。


「寺門さん、今部活終わったって。クエスト参加できるらしい」

「そうなんだ、よかった。静香は参加できないかもって思ってたよ」


 バスケ部の練習がたまたま休みだったらしく寺門も参加できるらしい。

 運が良かったな。

 これも日頃の行いがいいお陰だな、うん。


 そう言えば始めてのフルメンバーでの出撃だ。

 そう考えると少し気合が入るな。

 明日は七時に昇降口に集合だ。

 少し早めに起きなきゃいけないから今日は早めに寝るかな。

 寝坊したら大事だし。



 ピロン♪

 準備を終えて部屋でくつろいでいると携帯電話から着信を知らせる音がした。


「ん、綾小路さんからか」


 綾小路さんからのメッセージは今から部屋に来てほしいというものだった。

 もう夜の九時を回っている。

 深夜ではないとは言え、男が女の子の部屋を尋ねるにはあまり感心されない時間だろう。


 ピロン♪


 迷っていると綾小路さんから頼むから来て欲しいとメッセージが届く。

 むぅ。

 重ねてお願いされると断るわけにも行かないか。

 何か困っていることがあるのかもしれないし。

 俺もリーダーとしてチームのメンバーから頼られるのは悪い気分じゃない。


「ちょっと綾小路さんの部屋に行ってくるわ」

「分かった」


 そう言ってシス達はテレビの電源を切ると立ち上がる。


「いや、態々(わざわざ)ついてこなくてもいいぞ?」


 今日の連ドラ、三人共結構楽しみにしてたはず。

 それに綾小路さんも彼女達が居ると話しづらいことで呼んでる可能性もあるわけだし。


「ううん、一応ついていくわ」

「せやな、テレビの続きは気になるけどますたーが一番大切やし」

「パパと一緒に過ごす時間は捨てがたいからね」

「言い過ぎだろ」


 ま、綾小路さんもシス達と俺はセットだと思ってるだろ。

 一人で来てとも書いてなかったしな。

 俺は苦笑いをしながら立ち上がり、シス達と共に綾小路さんの部屋へと向かった。



 コンコン


 綾小路さんの部屋の扉を叩く。

 しかし女子寮に来るって少し緊張するな。

 シス達がいるからそこまで違和感なく受け入れられてるけど、ここまで来る間に何度か訝しむ視線を感じた。

 そりゃそうだよな。


 ガチャリ


「神無月君?」

「ああ、待たせたな」

「ううん、こんな時間に呼んでごめんね」

「おう、シス達も居るけどいいよな?」

「うん、むしろ歓迎かな。さ、中に入って」


 綾小路さんに促され俺達は部屋の中へ足を踏み入れた。

 そう言えば綾小路さんの部屋に来るのって初めてかも。

 と言うか、女子の部屋に入ったの事態初めてな気が。


 バタン、カチャリ


 ピンクを基調とした部屋の各所にファンシーなグッズが置かれている。

 部屋の作りは同じなのに全く雰囲気が違う。

 これが女子の部屋かー。

 なんて少し感動していると綾小路さんが声をかけてくる。


「ま、座って座って」


 クッションを渡されその上にそっと座る。

 更にその上にリコが乗ってきた。

 邪魔である。


「うん? どうかした?」

「いや、女子の部屋にはいるのって初めてでさ」

「そっか。でもあんまりじろじろ見られると恥ずかしいかも?」

「ああ、すまん」


 いくら仲間とは言え、不躾だった。

 親しき中にも礼儀ありだ。


「シスちゃん達と一緒に住んでるんだからそんなに珍しいこともないでしょ?」

「んー、シス達はなんというか、家族みたいなもんだからなぁ」

「そっかー、大切にしてるんだね?」

「そりゃな」

「うん、なら分かってくれると思うんだけど……」

「うん?」


 綾小路さんが顔を伏せる。

 何か言おうとして、本当に言うか迷っているようだ。


「何かわからないが遠慮せず言ってくれ、俺達仲間だろ?」

「そう、そうだよね。うん。私達仲間だもんね?」


 顔を上げた綾小路さんに少しホッとしたのも束の間、急に変わった彼女の纏う雰囲気に俺は思わずつばを飲み込んだ。


「え、えっと?」

「なんで、封筒を捨てなかったか、教えてくれる?」


 口元は笑っている。

 しかし目が全く笑っていない。

 そして彼女の握りしめた手は震えていた。


「なんでって……むしろ何で綾小路さんが封筒のこと知ってるんだ?」

「それはそうだよ、だってあの封書を神無月君の下駄箱に入れたの、私だもん」

「やはり君だったんだね」

「ミキちゃんは気づいてたんだ?」

「あそこまで露骨にされて気が付かないはずがないだろう?」


 えー。

 俺全く気が付かなかったんですが。


「そっかー。ならわかるよね?」


 いや、さっぱりわからないんですけど。


「神無月君も両親をダンジョンに殺されたんでしょ」

「なっ!?」


 何故それを綾小路さんが知っているんだ?

 誰にも話したことがないはずなのに。


「私もなんだ。だから、お揃い。仲間だね?」


 眼の前に居る彼女は誰だ。

 見た目は綾小路さんだが、雰囲気が全く違う。

 お揃いって、意味がわからない。

 気持ちが、悪い……。


「ふふ、私ね、両親を殺してくれたダンジョンに感謝してるの」

「なん、で……」


 綾小路さんの顔をした何かは語り続ける。


「そりゃそうだよ、見て、これ」


 そう言って彼女はおもむろに上着をはだけさせ、胸元を露わにする。


 文字にすればとても甘美な響きだが、俺の目に飛び込んだのはそんな艶っぽいものではなかった。


「この傷のせいで水着も着れないんだよ? 悲しいよね」

「それは……」

「引いた? でもこれが私がダンジョンに感謝している理由」


 彼女は、家庭内暴力にさらされていたのだと、胸元の傷がその証拠だと自嘲気に語ったのだった。

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