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第三十六話 気配

 六月に入り梅雨も近づいたある日。

 学校も終わり帰ろうと下駄箱に手を伸ばした俺は、一通の封書が入っていることに気がついた。

 差出人の書かれていない封書。

 少しの期待と共にいつぞやの記憶が蘇る。

 どうせろくでもないことなのだろうな。


「なにそれ?」

「さぁ」

「捨てるんだよね?」


 シスは頬を膨らませてジト目で俺を睨んでくる。

 リコとミキは我関せずと言った様子だが、リコの耳はピンと立ちこちらを向いているしミキもこころなしかそわそわしていた。


「何故捨てることが前提なんだ」

「それならボクが預かっとくよ」


 にこやかに手を伸ばしてくるミキの魔の手から封書を守りながら俺は言う。


「これ、たぶんそういうんじゃないから」

「せやけどベタベタやん?」


 そうだね、シチュエーションだけを見ればベタベタだね。

 だけどなぁ……。


「仕方ないな、ほれ」


 俺は封書の裏面を見せてやる。

 封は可愛気の欠片もないセロハンテープでされていた。


「こりゃちゃうね」

「うん、ならいいや」

「ボクはむしろに気になるかな」


 ミキの言うとおり、逆に気になる。

 普通セロハンテープで、しかもいかにも適当に止めましたっていう風に止めるだろうか。

 それに、直接話すか電話なりラインなりすればいいのに態々(わざわざ)手紙を、それも下駄箱にときている。


「……、捨てるか」

「いや、駄目でしょ。ちゃんと読まないと」

「うん、パパがちゃんと読むべきだと思う」

「せやなー」


 トリプルアクセルもかくやと思われる見事な手のひら返しだ。

 シスとリコは既に興味を失ったのか下駄箱から靴を取り出していた。


「でも、黒い封筒だなんていかにもすぎるよね」

「そうだな」


 唯一ミキだけが口元に手をやり疑問を口にしていた。

 俺は封書をカバンに放り込み靴を履き替え、そそくさと昇降口を後にしたのだった。



 自室に戻り、部屋着に着替えて一息つく。

 今日は宿題が多めに出てたから頑張らないとな。

 っと、その前にあのよくわからん封書を開いておくか。


 ベッドに座りカバンから封書を取り出す。



 拝啓、神無月様。

 突然手お手紙を差し上げます失礼をお許し下さい。


 貴方は今の環境に満足していますか?

 世界は本来の姿を取り戻すべきだと思いませんか?

 人は神が与えたもうた運命に逆らうべきではないとは感じませんか?


 我々は貴方が同志となることを望みます。

 もし我々の手を取っていただけるのでしたら、放課後までに誰にも見つからない様、この手紙の入っていた封筒を教室のゴミ箱にお捨て下さい。



「なんだこりゃ」


 封書の中身を確認すると、そのようなことが書いてあった。

 というか、お前誰だよ。

 雨柳あたりのイタズラかな。

 それにしてもセンスがないな、もう少しひねれば笑えたかもしれないのにな。


「ふむ、安心してくれ。パパの身は必ず僕が守るから」

「そのセリフのお陰でむしろ不安になったわ」

「私達も居るしね」


 え、なに、そんなにヤバそうな気配してるの?


「パパは気にせず青春を謳歌(おうか)してくれ」

「うん、悟には指一本触れさせないよ!」

「せやな! うちらにまかしときっ!」


 ああ、なんだ。

 からかってただけか、心配して損した。

 シスやリコはともかく、ミキまで俺をからかってくるとは。

 少し新鮮な感じがするな。


「はいはい、期待してるよ」

「なんや、適当な返事やなー」

「むぅ、もうちょっと本気で答えてよ」

「はは、それでこそパパだね。うん」


 まとわりつく彼女達を引き剥がすと、俺はテーブルを出した。

 冬になればおこた様に代わる万能テーブルである。


「ほら、宿題やるぞ」

「ええー。また勉強するの?」

「うちテレビみたいんやけど」

「パパに教えてもらえるんだから良いじゃないか」


 シスとリコが不満を口にするも、ミキは勉強が好きなようで嬉しそうにカーペットの上にクッションを置く。

 俺の正面、それが彼女の定位置だ。


「昨日も勉強、今日も勉強、明日も勉強。ずっと勉強ばかりで嫌になっちゃう」

「なー、うち勉強する必要あるん?」

「知識は人生を豊かにするって言うし、シスはパパと一緒に居るのが嫌なのかい?」

「私精霊だもん。って言うか、ミキ、その言い方は卑怯じゃない?」


 そう言いながらシスも席に着く。

 そしてリコも渋々ながら座るのだった。


「次のテストに向けて頑張らないと」

「まだ範囲すら分かっとらんのにもうやるん?」

「期末テストはまだ一ヶ月以上先だよ?」

「こういうのは日々の積み重ねだよ。テスト前に急に頑張っても前回の通りの結果になってしまうだろう」


 そう言ってミキはシャーペンを持つ手に力を入れる。


 ミキに上位を取られると俺の順位が下るのだが。

 しかしそんなことは言えないしなぁ。

 俺も頑張ってミキ以上の点数を取るしか無いか。

 勉強は苦手ではないが好きというわけでもないんだけど。


「それじゃこういうのはどうだい? 一番上の順位になった子がパパになんでも一つお願いできるというのは」

「それいい!」

「のったで!」


 そう言うとシス達は猛然と教科書を読み始めた。

 いや、ちょっとまって、それ俺に何のメリットもないじゃん。

 というか、俺了承してないんですが?


「なんでもお願いって何を頼むつもりなんだ?」

「ちょっと悟、黙ってて」

「ますたー、集中乱れるから」

「えぇ……」

「はは、効果覿面(てきめん)だね。さ、ボクも頑張らないと」


 仕方ない、俺が彼女達より良い点数を取ればいいわけだし。

 仮に負けたとしてもそれくらいのご褒美はあってもいいだろう。


 俺は小さくため息をつくと教科書を開いたのだった。

気が付けばジャンル別日間一位、総合日間六位になってました。

これも皆様のお陰でございます。

これからもよろしくお願いします(´∀`)b


お読みいただきありがとうございます。

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