表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/110

第三十四話 対価と策略

「神無月は居るか」

「え、はいっ、すぐ呼んできます」


 教室の入口で誰かが俺を呼び出した声が聞こえた。


「お、おい、神無月、生徒会長が呼んでるぞ。お前何かやったの?」

「いや、別に何もしてない。と言うか神宮寺先輩が来たからって何かやったとかひどくない? まぁとりあえず行くけど」

「あ、あぁ……」


 何怯えてるんだか。

 神宮寺先輩は勘違いされやすいけど悪い人じゃないのに。

 ああ、勘違いされてるのか。

 後で誤解といとくかな、普段お世話になってるし。


「お待たせしました」

「大丈夫か?」

「ええ、後は帰るだけでしたから」


 神宮寺先輩が態々(わざわざ)来るなんて、それも放課後に。

 珍しいこともあるもんだな。


「移動教室で近くを通ったのでな、ついでだ」

「なるほど」


 不思議そうな顔でもしていたのだろうか。

 神宮寺先輩は俺が言う前に理由を言ってきた。


「すまないが生徒会室まで来てもらいたい」

「分かりました。カバン取って来ますね」


 俺はカバンを取り、神宮寺先輩と一緒に生徒会室へと向かった。



「何か飲むか? 珈琲と紅茶と緑茶がある。残念ながら茶請けは切らしているがな」

「えー?」

「お菓子無いんか……」


 神宮寺先輩の言葉にシスとリコが不満を漏らす。


「……、君達には特別に僕の秘蔵のお菓子を分けてあげよう」


 なんかすみません……。


「あ、俺が淹れますよ」

「いや、いい。僕はお茶を淹れるのは好きでね」

「そうですか? それでしたら緑茶がいいです」

「わかった」


 生徒会室、始めてきた時は緊張したが、もう慣れたものだ。

 最近はあまり来ていないが、それでも週に一回は来ている気がする。


 客間のソファーに座るとリコが膝に飛び乗ってくる。

 前は隣だったのだが、その位置は現在ミキのものとなっていた。

 リコを撫でながら呼ばれた理由を考える。

 ……、心当たりが多すぎてどれかわからないな。


「お待ちどうさま」

「いえ、ありがとうございます」


 今日は誰も居ないんだな。

 珍しい。


「……」

「……」

「バリバリ」

「モシャモシャ」


 客間にはお茶をすする音だけが静かに流れる。

 ああ、煎餅を齧る(かじる)音なんて聞こえない。

 聞こえないったら聞こえないのだ。


「……」

「……」

「バリバリ」

「モシャモシャ」


 えーっと、何か用事があったんじゃないのかな。

 言い出しづらくてって感じでもないし……。


「……」

「……」

「バリバリ」

「モシャモシャ」


 お茶、なくなったな……。

 とりあえず俺から話を切り出すか。


「あの……」

「ん、お代わりか?」

「いや、そうでなくてですね。何で呼ばれたのかなと」

「ああ、すまんすまん。つい浸ってしまっていた」


 特に理由のない沈黙だったらしい。

 もっと早くに切り出せばよかったかな。


「さて、来てもらった理由だが」

「はい」

「多数保留になっていた案件が大方片付いたのでな。教えておこうと思ったんだ」

「なるほど」

「まず、種の件だが、君は研究所から名誉教授の称号が授与されることになった」

「名誉教授、ですか」

「ああ、これに付属してライブラリへのアクセス権限が付与される。良かったな、最先端の研究成果を見ることが出来るぞ。もちろん守秘義務はあるがな」


 うん、まぁ、知識が増えることは良いことだけど、収入には直結しないよね、これ。


「また、卒業後の進路として研究所職員として君専用の枠を用意してくれるそうだ」

「は、はぁ……」

「どうした、悪くない話だろう?」

「いや、俺、冒険者志望なんですが」


 研究所に就職できると言われても、その、困る。

 悪くはないんだけど。


「なんだと……?」

「え?」

「いや、すまない。種を手元で育てたいと言っていたからてっきり研究職につきたいのだとばかり思っていた」


 えぇ……。


「それでは、これはあまり意味が無いな……」

「いえ、お心遣いありがたく」


 意味ないけど。

 まぁ、種は偶然手に入ったものだから別にいいんだけどな。


「後はアイテムの試供品の提供を受けることが出来るくらいだな……、すまない」

「アイテムはうれしいですよ。助かります」

「後でサイトのアドレスを送付しておくが、そこのサイトで欲しいアイテムを選ぶと後日郵送してくる」

「通販みたいな感じですか?」

概ね(おおむね)そうなるな。通販と違うのはアイテムの感想を書く必要がある事くらいか。ああ、しないとは思うがアイテムの売却は禁止だ」

「わかりました。楽しみにしておきます」


 こちらの方が俺には嬉しいな。

 しかも正式に販売された後もお値打価格での購入が可能みたいだし。


「それと、ダンジョンコアについてだが、調査終了の連絡があった」

「何かわかったんですか?」


 そう俺が聞くと神宮寺先輩はニヤリと笑った。


「なにも」

「何も?」

「調査結果は何もわからず、だ」

「なんともまぁ……」


 二週間以上プロが調べても何もわからずとは。

 仕方ないことではあるのだろうけど。


「一週間以内に破壊するか、破壊権を国へ譲渡して欲しいらしい」

「随分と急ですね」

「調査が終了したからな、コアの警備にもコストがかかる」

「なるほど……」


 随分と自分勝手、いや、むしろ破壊権を国は譲渡して欲しいと思っているのか。

 学生の身分ではあんな遠くまでそう気軽に行けない事まで含めて考えていそうだ。


「まぁ君の想像は概ね(そうぞう)正解だと言っておこう」

「他人の頭の中読まないでくださいよ」

「ははは、冗談だ」


 全くこの人は。

 それにしても、破壊権は譲渡せざるを得ないかな……。

 四人分の交通費なんて出せないし。

 仮に出せたとしても一人でレベルⅣダンジョン潜るなんて自殺行為だ。

 ポータルがあると言っても、一番近いポータルは二十五階層だから一人で一階層登らなければならない。


「さて、最後にクエスト斡旋の話だが」


 神宮寺先輩はやはりやり手だ。

 この人には逆らってはいけない。

 本気でそう思わされる。



「え? そんな遠くまで?」

「交通費と宿泊費は学校持ちか」

「長距離と宿泊手当も付く……、急な話だけど悪くない……」


 その日の夜、俺はパーティーメンバーを集めるとクエストの内容を伝えた。


「ふーん。レベルⅣダンジョン内に出来たダンジョンが、コアを破壊された時にどうなるか視察してこい。ね」

「俺達だけじゃなくて研究所の人達も一緒だけどね」

「その護衛も含みなのね。神宮寺先輩、すごいね……」

「どういうことですか? 私にはさっぱり見えないのだが」

「私もよくわからない……」


 寺門さんと佐倉さんには理解できなかったようだ。

 いや、これだけの説明で理解できた綾小路と伊集院先輩がすごいんだろうけど。


「研究所、つまり神事省を巻き込んだってことだよ。名誉教授の名前を出されると断れなかったんだろうけどね」

「なるほど……」


 研究所の人間が来るとなれば当然護衛は俺達だけじゃない。

 正規の冒険者が付いてくるのだ。

 これなら安全というわけだ。


「今回は電車移動で新幹線を使えるから、こっちを朝九時出発になるね」

「近くの駅についたらシステムウィンドウに乗っていこう」

「大丈夫なの?」


 伊集院先輩が心配そうに聞いてくる。

 ダンジョンに潜る前に消耗することに思うところがあるのだろう。


「まぁ二キロメートル無いくらいですから。それくらなら大丈夫ですよ」

「大丈夫ならいいけど」


 ダンジョンコア、か。

 また新しい能力、それもランクⅥの能力が手に入ると思うと少し緊張してしまう。

 次こそ操作系能力だといいな。


「ふぁふっ、すまない、私はもう御暇(おいとま)させてもらうよ。明日も朝練があるからな……」

「あ、もうこんな時間か。私達も帰るね。またね、神無月君」

「ん、お疲れ様、夜に呼び出して悪かったな」

「同じパーティーメンバーだからね。遠慮しないでいいよ」

「そう言ってもらえると助かる」

「ふふ、それじゃおやすみ、リーダー?」

「おぅ……」


 そうだよな、俺がリーダーなんだよな。

 しっかりしないとな。

 何かあった時は俺がガツンと言わないと行けないのだから。


「というわけで、伊集院先輩も帰ってもらっていいですか?」

「もう眠いー、ここに泊まらせてよー。同じ布団でいいからさー」


 ちょっとはだけた胸元にドキッとしてしまい、俺は何も言えなくなってしまう。

 くそう。

 そういうのは卑怯(ひきょう)だぞ!


「はいはい、帰った帰った」

「いやん、シスちゃん冷たいっ」

「お帰りはあちらやでー」

「ボクが部屋まで運んでいってあげようか?」

「ちぇー」


 結局シス達の助けを借りてしまった。

 いや、彼女達の言動は俺に帰結するんだからオッケーか。

 ないな。

 これから頑張ろう、うん。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価、感想等いただけると励みになります。

あと↓のランキングをポチってもらえるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ