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第三十二話 中間テスト

 ゴールデンウィークの記憶も少し遠くなりつつある頃、多くの学生のとって転機、あるいは悲劇の引き金となるイベントが発生を間近に迎えていた。

 教壇では如月先生がいつものごとく無表情で事務連絡を告げる。


「皆知っていると思うが、来週から中間考査の準備期間となる。部活動は原則中止となるので各自勉強に励むように」


 中間テストである。

 そう、中間テスト。

 これまで学習してきた内容が身についているか確認するための、テスト。

 基本的に日々の積み重ねが物を言う、将来を決める、大切なものだ。


「なお、成績優秀者には生徒会からバイトの斡旋が行われる。がんばれよ」


 中間テストの結果は即日発表だから気になる者は職員室の前の掲示板を見るように。

 如月先生はそう言ってホームルームを終了させた。


 生徒会の斡旋するバイトはその殆どがクエストと呼ばれるダンジョン関係のものだ。

 単純にバイトとしても割がよく、その上経験も積めるとあって競争も激しい。

 通常Fクラスの人間には斡旋されることはない。

 しかし賞品となっている場合は別だ、優秀な成績を納めればその成績に応じてクエストが斡旋される。


「来週からテストかぁ」

「まぁまぁ、テスト明けたらクエストもあるし」

「それを楽しみに頑張りますか。ああ、バスケしたいなぁ」


 尤も、既にクエストの斡旋が決まっている俺達のパーティーにはあまり関係がなかったが。


「今度こそ、今度こそ……」

「ああ、絶対にクエストの権利をもぎ取るぞ」

「そうだ、今日から勉強合宿しないか?」

「いいな。やるぞ!」


 雨柳(あまやなぎ)達の様な連中は目が血走っていた。

 救済措置とはいえ、中々にハードルが高いよな。

 まぁ能力の低い生徒をダンジョンに送り込んでも無駄に被害が増えるだけだから当たり前といえば当たり前か。


「雨柳君達なんかすごい張り切ってるね」

「ちょっと怖い……」

「勉強合宿か、私達もやるか?」

「流石にそこまではやらないかなぁ」

「そうだな、いつもどおりで良いんじゃないか?」


 割りと真面目に普段から勉強してるし、俺達には必要ないと思うんだよね。

 それに女子の部屋に泊まりとかちょっと勘弁してもらいたいし。


「学生さんは大変だねー」

「そうだね、まぁそれが仕事だ」

「うち、精霊でよかったわー」

「しばらく遊びに行けないけどな」

「「「そんなっ!?」」」


 いや、一応ね?

 それにこの時期に遊び呆けてたら顰蹙(ひんしゅく)買いそうだし。

 絡まれるのは懲り懲り(こりごり)なんだ。


「後三日分しか魚ないで!?」

「山菜も野草も後五日分くらいしか無いから中間テスト終わるまで持たないわよ?」

「ボクも一週間以上四人分の食料出し続けるのは厳しいかな」

「……、神無月君、ちゃんとシスちゃん達遊びに連れて行ってあげてる?」

「ミキ、いつでも私の所に来て良いんだからね……?」


 やめてっ!

 そんな目で見ないでっ!?

 俺だって彼女達が遊び=食糧確保って思ってるなんて知らなかったんだよ!


 振り返ってみると、服や日常雑貨の買い物も必要最低限しか買ってないし、映画や遊園地なんかも行ったことがなかった。

 だって仕方がないじゃないか。

 急に増えた居候達の生活費が重くてとてもお金がかかるところには行けないんだ。

 ただ、だからといって何もしなくていいってわけじゃないんだよなぁ。


「あー、中間テスト終わったら遊びに行こうか。 どこか行きたい所あるか?」

「錯視博物館面白かったなぁ……」

「そうだね、あれはよかった。また行きたいよ」

「うん、帰りに山菜も取れるし」

「近くに川があったから魚も取れるかもね」

「猪とか取っちゃ駄目なんか?」

「神無月君、来週末空いてるよね? 暇だよね? 予定あっても空けてくれるよね?」

「ハイ……」

 

 綾小路さんの有無を言わせぬ迫力に、俺には首肯を返す以外の選択肢はなかった。


「それじゃ細かい話は後でラインで連絡するけど、遊園地に行くってことで」

「え、遊園地っていいの?」

「行ってみたくはあったけど」

「お金、大丈夫なんか……?」


 幼女に財布の中身を心配される俺。

 情けなさすぎる。


「まぁ、大丈夫だろ。もうすぐクエストもあるし」


 まだ二週間先だけど。

 神宮寺先輩、早く種の代金下さい……。


「来週末は無料開放してるから……」

「え? そうなの?」

「うん、乗り物も三回分のチケットが貰えるみたい」

「おお、それはありがたいな」


 よかった、これで首がつながった。


「綾小路さん、助かるよ」

「ううん、気にしないで。シスちゃん達のためだし」

「すまん」

「あはは、神無月君はもうちょっとシスちゃん達に気を使ってあげたほうが良いと思うな」

「ああ、努力する」


 彼女達の厚意に甘えすぎている。

 綾小路さんから指摘されて初めて気がつくとは、反省しないとな。


「うん、がんばって!」

「神無月は部活に入ってなかったよな? よかったらバスケ部に入らないか?」

「それと遊びがなんか関係あるのか?」

「皆でバスケが出来る!」

「寺門ぉ……」

「ん? なんだ?」

「いや、いい、……、考えとくよ」


 いや、一度考えたけどリコが小さすぎて無理なんだわ。

 って話、前にしたよね?


「ああ! まってるぞ!」



「いよっしゃああああ!!!」

「きたきたきたああああああ!」

「頑張ったかいがあったぜ!」


 中間テストの成績発表の日。

 武田達は職員室の前の廊下で雄叫びを上げていた。

 どうやら無事、好成績を残せたらしい。


 俺達もかなりいい成績だったので再びバイトを斡旋してもらえることとなった。

 いや、まだ長距離移動大会のクエスト終わってないんですが。

 どんだけ働けば良いのだろうか。

 バイト代はありがたいんだけど、青春が仕事だけで埋め尽くされるのは勘弁してもらいたい。


「やっと終わったねー」

「長かった……」

「部活の再開が楽しみだ」


 口々にテストの終了を祝う中、死んだ魚の眼の様な目をした三人がいた。


「頭痛いぃ……」

「なんでうちまで……」

「はは、ボクは三十三位か……、酷いね。これじゃパパとママに顔向けできないよ……」


 何故か彼女達までテスト受けさせられてたんだよね。

 たぶん学校側はサービスのつもりだったのだろうが、本人達からはブーイングが上がっていた。

 そしてミキは柄にもなく落ち込んでいる。

 テスト受けるつもりがなく、全く勉強してなかったもんな。

 それでも上位に入っている辺りはすごい。


「まぁ次があるさ」

「パパ……、ごめん、パパの顔に泥を塗ってしまったよ……」

「いや、そこまで落ち込まなくても。三十三位なら十分だと思うぞ?」


 一年生二百四十人中三十三位だからな。

 上位十五パーセントに入っているのに彼女は不満らしい。


「パパとママに負けたならともかく他の人に負けるのは駄目だよ。今日からちゃんと勉強するね」

「あ、ああ。頑張れよ?」

「うん。パパの期待に応えられるように頑張るよ。大丈夫、次は絶対一位になるから!」


 そこまで言って無い。

 と言うか、ミキが一位になると他の人の順位が皆一つ下がるのだが。

 まぁいいか。

お読みいただきありがとうございます。

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