第二十九話 夕焼けの町並み
「やった! 私達総合五位だって!」
「チーム成績だと一位……」
「やったな!!」
「そうだなぁ」
クエストの斡旋か。
そりゃそうだよな。
チーム成績での賞品なんだからチームに与えられるに決まっている。
恐らく、学校側はメンバーそれぞれが同程度の能力を持っていることを前提にこの賞品を決定したのだろうが。
「神無月君、ありがとね!」
「いやー、ほんと助かるよ」
「これで、新しい道具が買える……」
「う、うん、どういたしまして……」
「うん? もしかしてなんか乗り気じゃない?」
「なんかあったのか?」
とは言えせっかく喜んでいる所に水をかけるわけにも行かないか。
しかし、まだいくら貰えるか決まってないのにそこまで喜ばれてもと思ってしまう。
「いや、クエストの報酬聞いてなかったなと」
「あー、そう言えば。でも結構良いって聞くし期待できるんじゃないかな?」
「予算立てられないのは少し困るかも……」
報酬も聞かずにクエストを受ける奴は冒険者失格だなんて言葉もあるしね。
まぁ、そこは神宮寺先輩への信頼ということで。
「ああ、後皆の能力を教えてほしいんだけど」
「そうだね、じゃないと作戦も立てられないよね?」
「経験者の神無月が居ると安心だな」
「うん……、安心……」
その後能力を聞いていった。
綾小路さんの能力は念動力で覚醒度FのランクⅠ。
物体を動かす能力だな。
ただ、F-Ⅰじゃコップを持ち上げるのが精一杯みたいだが。
ついでに精霊は黄色いバグをデフォルメしたような姿のぺろちゃん。
「こ、これでも練習したんだよ? 最初はティッシュペーパー一枚なんとか持ち上がるかどうかくらいだったんだから!」
「そ、そうか」
寺門さんの能力は快癒でE-Ⅰ。
精霊は白い毛玉の雪乃条。
怪我や病気を癒やす能力のようだ。
かすり傷程度なら一時間程度で完治出来るらしい。
「部活でちょくちょく使ってたから多少は、な」
「お、おぅ」
この二人でこれでは佐倉さんはかなり厳しそうだな。
戦力となるのは俺だけか。
非常に不安だ。
「なに、その目……」
「いや、なんでも」
「失礼な奴……」
ブツブツ言いながらも佐倉さんも能力を教えてくれた。
能力は植物操作で覚醒度はB、そしてランクはⅡだった。
「ちょっとまて」
「何よ……」
「いや、何さりげに覚醒度Bなんだよ、しかもランクⅡって何?」
「園芸部で頑張ってたら気がついたらなってた……」
なんともまぁ。
でも植物操作って何が出来るんだろうか。
「結実を早めたりできる……。それと植物の気持ちが何となく分かる……」
なるほど、それでミキの宇宙語を理解できていたのか。
「あとは、罠作ったり……?」
「罠?」
「そう、こんなの……」
そう言って佐倉さんは俺の足元に草で出来た輪っかを作り出した。
「なるほど、転倒させることが出来ると」
「うん……」
しかし、罠は足をかけると簡単にちぎれてしまった。
「あ……」
「ま、まぁどうにかなるだろ」
それに、一緒にダンジョンに行ってれば直ぐに能力は上がっていくだろうしね。
パワーレベリングってやつだ。
能力さえ上がれば、上がれば……。
俺、支援ポーター。
綾小路さん、支援アタッカー。
寺門さん、支援ヒーラー。
佐倉さん、シーフ(?)。
……。
メインアタッカーが居ない!?
どうすんだよこれ!
「神無月には世話になってばかりだな。ありがとう」
「いや、大丈夫だ、大丈夫」
そう言って俺は自分に言い聞かせるのだった。
「常設展示、結構良かったな」
「うん、錯視って面白いね」
「携帯持ってきてれば写真撮れたんだけどな」
「目が回るかと思った……」
神宮寺先輩に教えてもらった常設展示はとても面白かった。
今まで何で来てなかったのかと思うくらいだ。
また来たい、そう思える内容だった。
何が素晴らしいって無料なことだよね。
俺の他にシス、リコ、ミキの三人が居るからちょっと気軽に出かけることも難しいし。
リコとミキは子供料金だけどさ。
「もうすぐ表彰式だから集まれって」
「もうそんな時間か」
「あっという間に時間過ぎちゃったね」
「へへ、チーム成績一位だからな。楽しみだ」
「個人でも五位……」
「個人とチーム、両方で入賞だもんね」
雑談しながら会場へと向かうともうかなりの生徒がゴールしていた。
制限時間まで残り五分といったところか。
七割程度は居るのかな。
「結構減ったね」
「流石になぁ」
「先輩に聞いたんだけど、例年半分くらいしか残らないらしいよ」
そりゃそうだろうな。
いくらなんでも五十キロメートルは遠すぎる。
良い能力を手に入れた生徒はともかく、移動に向いていない能力しかない生徒も多い。
それでこれだけ残ったのはむしろすごいのではないだろうか。
「へー、それじゃ今年はかなり多いのか」
「うん、特に一年生の脱落者が少ないみたい」
「神無月に触発されたってことなのかね」
勝手にライバル心を持たれても困るのだが。
前の連中みたいに絡んでくる奴がいるし。
「私達もがんばらないとね」
「ああ、神無月、これからも頼むぞ」
「せいぜいがんばりますよ」
「入賞した生徒は本部まで集合して下さい。繰り返します、入賞した生徒は本部まで集合して下さい」
「っと、時間か。んじゃ行くか」
「うんっ」
「ああ」
「うん……」
「本大会始まって以来、初めて一年生が上位入賞を果たしました。また、チーム成績ではなんと一位の獲得という快挙を達成しました。この快挙は偏に、不断の努力の賜物でしょう。また、今回の長距離移動大会は例年よりも遥かに多くの生徒がゴールできたことをが最大の成果だと思います。今後も研鑽を続け、さらなる能力の向上に励んで下さい。それでは皆さん、お疲れ様でした」
えっ、これ現地解散なの?
てっきりバスか何か用意されているんだと思ってたんだけど。
俺達は良いけど、自転車で頑張ってきたやつが蒼白になっているんだが……。
そこまで考えるのも大会の目的ってことなのかね。
「神無月君、帰りもお願いね?」
「帰りは安全運転で頼む」
「ゆっくりでいい……」
「そうだな、ゆっくり帰ろう」
もうあの揺れは俺もゴメン願いたいしね。
夕日に染まる町の上空。
俺達はのんびりと遊覧飛行を楽しみながら帰っていった。
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