第三話 その能力は
能力確認の会場には、これまた神宮寺先生が居た。
これもう意味がわかんねぇな。
「ん? ああ、先の二人とは姉妹でね。三つ子なんだ」
机に向かい直し書類に何か書き込みながら神宮寺先生は俺の心を読んだかのように言ってくる。
きっと頻繁に言われてるんだろう。
「そうだったんですか」
三つ子で三人共が神事科の教師ってかなり珍しいのではないだろうか。
全員同じ顔で見分けがつかないし、せめて髪型くらい変えればいいのに。
きっとわざとなんだろうけど。
「さて、能力の確認と行こうか」
椅子を回してこちらに向かい直すと神宮寺先生はペンを胸ポケットに挿して微笑んだ。
「はい、よろしくお願いします」
少し、いやかなり緊張する。
この結果次第で俺の人生が決まると言っても過言ではないのだ。
「うん、よろしくお願いされました。じゃ、確認するから能力を使うように精霊に指示出して」
「はい。えっと、能力使ってくれ」
俺は後ろに付いて来ている精霊に指示を出した。
「ぷいっ」
うん?
なんかそっぽを向かれてしまったぞ。
「んー? 上手く伝わってないのかな。もう一回指示出してみて」
「は、はい。能力を能力使ってくれ」
「べー」
今度はあかんべーされてしまった。
「おやおや……」
「お、おい、頼むよ、能力を使ってくれよ」
焦りながら俺は精霊に向かって懇願する。
能力は精霊を経由しないと使えないんだったよな。
彼女が言うことを聞いてくれないとかなり困る。
精霊を上手く使いこなすのも能力者の力の内だし、これでは無能扱いされてしまいかねない。
「はぁっ……」
三度目で漸く俺をジロジロ見た後ため息まじりながらも協力してくれた。
よかった……。
そして俺の目の前に半透明の板が出現する。
「これが俺の能力みたいです」
「ちょっとまってね、念写するから……」
そう言って神宮寺先生が額に指を当ててウンウン唸る。
そうしていると彼女の胸元から、ハムスターが紙を持って出てきた。
「はい、ありがと」
ハムスターは紙を神宮寺先生に渡すとまた服の中へ潜り込んでいく。
少し羨ましい。
「うん? なんだこれ……?」
紙を見ながら神宮寺先生が困惑の表情を浮かべる。
そんなに変な能力だったのだろうか。
俺の胸を不安がよぎった。
「えっと、何でしょうね?」
「う~ん……、能力名はシステムウィンドウみたいだね」
「システムウィンドウ?」
パソコンとかのあれのことか?
でも能力でシステムウィンドウってなんだろう。
ちょっと想像できない。
「んっと、現時点の能力だと非生命体を特殊な空間へ格納することが出来るみたい。格納されたモノの時間は経過しないっぽいね。それに周囲の地図を表示させて人とモンスターの位置がわかるようになるみたいだね」
格納と周囲のマッピング機能か。
あ、意識すると各能力を実行可能っぽい?
能力は精霊に命じて使うって前にテレビで冒険者が言っていたと思ったけど、勘違いだったかな。
「……。とりあえず下着を返してもらえるかな?」
「すみません!!!」
危ない、無意識のうちに先生の下着を格納してしまっていた。
いやー、ホント無意識って怖いわぁ。
それにしても黒か、背格好に似合わず、いやいや。
ん? しかしそれって戦闘能力は皆無ってことですか?
「なんともまぁ微妙な」
「そういうこと言わないの。ポーターとしてはかなり使える能力なんだぞ。これ」
「俺は冒険者になりたいんですよ。こんな能力じゃ……」
そう言いながら俺はシステムウィンドウを左右に動かした。
この能力では戦闘に一切関与できないだろう。
そりゃ運び屋としては超一流になれるかもしれないけどさ。
「それにランクが上がれば新しい力が発現するかもしれない。まだわからないよ」
「ランクアップに期待。ですね」
ランクアップして新たな力が発現するといっても、基本的にベースとなる能力の発展系の力だ。
あまり期待できないだろうな……。
「ああ、頑張ってくれたまえ」
「はい、ありがとうございました。えっと、とりあえずよろしく頼むな?」
俺は握手をしようと精霊に向かって手を伸ばした。
それを見て精霊も俺に向かって手を伸ばし。
スパンッ!!
俺の頬に紅葉を作ったのだった。
「はっはっは!!」
「何がおかしいんですか……」
いきなり精霊にひっぱたかれるって尋常じゃないと思うんですけど。
これからこの精霊と一緒にやっていかなきゃいけないけど、やっていけるのだろうか。
「いやなに、君達は仲がいいんだねぇ」
「今の光景を見てそのセリフが出てくるって、頭大丈夫ですか?」
それか眼。
もしくは両方。
「くっくっく……。君は実に興味深い。何かあったら私達を訪ねてくるが良い、力になってあげよう」
「はぁ……」
「さ、話が長くなったね。とりあえず教室に戻って頂戴な」
「はい……」
腕を組みながら俺を睨みつけてくる精霊と共に俺は教室へ戻っていった。
「おい! どうだった!?」
「どうって」
雨柳がテンション高く俺に聞いてくる。
きっと良い能力を引いたのだろう。
羨ましい。
「能力だよ! の! う! りょ! く!」
「ん、ああ、システムウィンドウとか言う能力だった」
俺は低いテンションで自分の能力を教えた。
システムウィンドウ、便利ではあるんだけどな。
「なんだそれ?」
「アイテム格納したりとか?」
「えー、なにそれ、微妙くね」
だよなぁ……。
俺もそう思う。
「俺は炎操作だったぜ! 見てくれ! 俺の相棒を! 凛々しいだろ!?」
そう言って雨柳は俺に精霊を抱き上げて見せつけてくる。
お、おぅ。
俺には豆柴にしか見えないけど。
ん?
なんか豆柴が青い顔を?
その視線の先を見ると……、俺の精霊が居た!
そしてなんかすごい勢いで睨みつけてる!?
「ちょっ、おい、やめろって!」
「ぷいっ」
他の精霊相手にガンつけないでくれよ。
これから先が思いやられてしまう。
「ん? そこの可愛い子ちゃんは?」
「あーっと、なんというか」
「あ、俺、雨柳って言います! これからお近づきになれたらうれしいです!」
しゅぱっと立ち上がって頭を下げ、手を差し出す雨柳。
こいつのコミュニケーション能力の高さはすごいと思う。
真似したくはないが。
「べー」
「えぇ……」
「どうせ私は微妙な能力ですよーっだ。ぷいっ」
そう言って彼女はそっぽを向いてしまう。
本当に人間臭いな。
「えっと、どういうこと?」
「あー、これ、俺の精霊なんだ……」
「へ? マジで?」
まぁそういう反応になるよね。
俺も信じられないし。
「すげぇ、人型の精霊とか聞いたことはあるけど実物見るのは初めてだわ。羨ましい……、いてえっ!?」
「おぅおぅ、他人の精霊褒めるのも程々にな」
雨柳の手には豆柴がぶら下がっている。
そして雨柳の手は、豆柴の可愛いお口の中にすっぽり包まれていたのだった。
「ちょっ、ガルちゃんごめんってば!!」
「ガルル……」
「許してよおおおおおお!!!」
手に豆柴をくっつけて振り回すも豆柴は離さない。
少し痛そうだ。
「仲、良いのな?」
「あたりまえよっ! いててて!」
「ガルちゃんっていうのは?」
「俺が名付けた! かっちょいい名前だろ?」
「お、おぅ」
名付け、か。
ふと横を見ると俺の精霊が雨柳たちを羨ましそうに見ていた。
「あー、お前の名前は?」
「あるわけ無いじゃん……」
そう言って彼女は頬を膨らませてジト目で俺を見つめてきた。
「あーっと、それじゃ不便だし、俺が付けていいか?」
嫌がるかな。
自分の名前だし、自分で付けたいかな。
やっぱ今の無しって。
「もちろん!!」
即答だった。
それも目を輝かせて食い気味で言ってきた。
うん、とりあえずちょっと近いから離れようか。
「そ、そうか。それじゃ、システムウィンドウの精霊だからシスっていうのはどうだ?」
「シス……」
やばっ、安直すぎたか!?
またひっぱたかれるのは嫌だぞ!?
「嫌だったか?」
「ううん……、シス、これが私の名前……」
「……、ああ、そうだ」
「さとるっ! ありがとう!!」
「ぐえっ!?」
そう言ってシスは俺に飛びついてきたのだった。
精霊の、全力で。
「全治二週間ですね」
入学早々、俺は大怪我をする羽目になったのだった。
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「あれ? しまったな、まだ一行残っていたかー。次のページに行っているとは」
私は能力を念写した紙に確認漏れがあった事に気がついた。
「不壊属性? それにマニュアル操作? なんだこれ。まぁ、大したことではないか」
一年生がダンジョンに行くのは当分先だ。
あの能力ではFクラスに配属されるだろう。
そうなれば授業で少しだけダンジョンに潜るだけだし。
急ぐ必要もないと思った私は後で処理すべく、それを書類の山へと投げるのだった。
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