第二十八話 長距離移動大会
運動場には体操服に身を包んだ学生が整然と並んでいた。
砂埃を運んで来た風が俺達の間を通り抜ける。
「えー、本日は天候にも恵まれ、絶好の大会日和となりました。各自日頃の努力の成果を存分に発揮して下さい」
壇上で校長先生がピストルを空へと向け、空砲を放つ。
それと同時に全校生徒、七百人が一斉に動き出した。
俺はスタートと同時にシステムウィンドウを展開。
直ぐにボックス状にして準備を整える。
「よし、いいぞ」
「よろしくね」
「頼むぞ」
「ミキ、こっちおいで……」
そして全員が乗り込んだことを確認し、システムウィンドウを動かした。
しかし、流石に七人も乗り込むと狭いな。
不用意に動くと手が当たってしまいそうだ。
「おー、高いな」
「わわっ」
「あまり揺らさないで欲しい……」
「すまん、操作が結構むずいんだ」
それなりに高いところを飛んでいるせいで基準となる点が遠くなり、どうしても操作が揺らいでしまう。
ボックスに隙間ができない様に意識を回しているせいでそれが余計に顕著となってしまったのだ。
決して触りたいとかではない。
本当だ。
「っと、すまん」
「あー、これだけ混み混みだと仕方ないだろう。気にするな」
「うん、別に気にしてないから」
「早く着けるならなんでも良い……」
とにかく急ごう。
俺は少し高度を落としつつ目的地へと急いだ。
「考えることは皆同じか」
「そうだな、飛行系能力を持っている者は当然だし、強化系の能力も似たようなことが出来る」
俺達の周りではうちの学生が俺よりも少し低い位置をゴール目指して飛んでいた。
「もうちょっと早く出来ないの?」
「出来るけど、揺れるよ?」
「ちょっとの辛抱……、早く行ったほうが良い……」
「わかった。ちょっと歯を食いしばっといてくれよ」
そう言うと俺は高度を上げつつ速度を大きく上げた。
最高速なら十分程度でゴールに到着できる。
「のわああああああ!?!?!」
「きゃああああ!?!?!」
「……!?!?!?」
その分揺れるわけだが。
叫び声とともにボックスは街の空を駆け抜けていった。
「ちょいごめ……私達救護室行ってくる……」
「おぅ」
あれだけ揺れたのだ。
短時間とは言え、酔ってしまうのは仕方がないだろう。
操作していた俺ですらしんどかったのだから。
「ん、来たな」
「ゴール、ですよね……?」
「ああ、神無月君、君は総合五位だ、おめでとう」
全力で飛ばして若干グロッキーな俺は神宮寺先輩のねぎらいの声を軽く流す。
というか、この人も参加していたんじゃなかったっけ?
「ありがとうございます……」
「タイムは十二分二十二秒だな。中々優秀じゃないか」
「俺の前には誰も居なかったと思いましたけど」
「そうだな、飛行できる能力者の中では一位だぞ」
ただ、空間転移系能力者が居るからな。
神宮寺先輩はそう続けた。
そんなのありかよ。
チートじゃないか。
「とはいえ、チームとしては一位だ。十分だろう?」
「優勝賞品、クエストの斡旋でしょ?」
斡旋の権利貰わなくても俺、普通に斡旋されてるし。
クエストじゃない普通のバイトならとは思うけど。
「今度はチームとしての斡旋となる。期待しているぞ」
「えっ……」
それって、綾小路さん達と合同ってこと?
綾小路さん達の能力ってなんだっけ。
「なに、神無月が居れば大丈夫だろう」
「期待しすぎじゃないですか?」
「全体の底上げも重要なんだ。これも仕事と割り切ってくれ」
最近生徒会の人達と行動することが多いが、俺、生徒会の人間じゃないんですけどね……。
「まぁ嫌なら断ってくれてもかまわないぞ?」
「出来ないのを分かってていいますか。性格悪いですよ?」
「ははは、性格が悪いと言われたのは初めてだな」
「まったく」
いい性格をしている。
でも憎めないんだよな、この人。
「ところでチームメイトの姿が見えないが」
「体調崩して救護室いってますよ」
「ふむ、君の今後の課題はそのあたりになるのかね」
「いやー、どうでしょうね」
システムウィンドウに乗って空を上手く飛ぶのが課題っていうのは如何なものかと思ってしまう。
操作を上手くなれっていうのはわかるけどね。
とはいえ、これ以上操作が上手くなっても何が出来るわけでもなし。
「タイムリミットまではここで待機となる、適当に時間を潰しておいてくれ」
そう神宮寺先輩に言われて時計を見るとまだ九時半を少し回ったところだった。
後七時間もあるのか、一度家に帰るかなぁ。
「ああ、一時帰宅は認められないからな。そのつもりで」
「いぇっさーボス……」
神宮寺先輩は会館で常設展示をやっているから見てきてはどうかと言い残し去っていった。
「綾小路達が回復したら誘ってみるかな」
「ママの御見舞行こうよ」
「もうちょっと具合が良くなるまで静かにさせてやってくれ」
「それもそうか。パパはこれからどうするつもりなんだい?」
「そうだな、せっかく山に来たんだし、山菜採りでもするか。たしかこの周辺は許可されていたはずだし」
「ならボクに任してくれ。山菜のある所に案内しよう」
ミキは植物系のモンスターなだけあって、なんの植物がどこに生えているか何となく分かるらしい。
おかげで結構な量の山菜が採れた。
乱獲にならないように配慮しながら、一時間程度でこれだけ取れれば十分だろう。
「今日の晩御飯は山菜と魚の天ぷらだな」
「それにおひたしっ! 今からヨダレが止まらんわぁ」
「重曹ないから買ってこないと」
「そろそろママも元気になったんじゃない?」
「そうだな、様子を見に行ってみるか」
山菜をストレージにしまうと、俺達は救護室へと向かった。
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