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第二十四話 厄介ごとの種

「わー! すっごーい!」

「わわっ、そんながっつかんでやっ!」


 ホテルから出ている無料シャトルバスで30分。

 急にできた休日に俺達はテーマパークに来ていた。


 昨日の天候不順が嘘のように晴れ渡り、青空の下心地の良い風が頬をくすぐる。


 そして今、俺達四人は動物に集られて(たかられて)いた。


「餌、あっという間になくなっちゃったね」

「すごい勢いだったよー」

「手がよだれまみれやし……」

「次はどこ行く?」

「カピバラ居るんだって、行ってみようよ」


 伊集院先輩はシスとリコの手を取ると次の動物の元へと歩き出した。

 それにしても、シスと伊集院先輩って本当に仲いいよなー。

 少し羨ましい。

 俺も気の置けない友達が欲しいものだ。


「ほらっ、神無月君も早く早く!」

「すぐ行きますー!」


 その後、ビーバーやフラミンゴといった動物と一通りふれあったり金魚釣りをしたりしてたっぷり楽しんだ俺達は昼食を取りにホテルに戻ることにした。



 バスの一番後ろに四人で座る。

 窓際はシスとリコに取られてしまった。

 俺も景色見たかったんだけど、まぁ仕方あるまい。


「は~、楽しんだ楽しんだっ」

「付き合ってくれてありがとうございます」

「いーのいーの、私もシスちゃん達と遊びたかったし」


 伊集院先輩はそういいながら手に持った熊の人形で気にするなと言ったジェスチャーをしてくる。


「手、器用なんですね」

「んー、これくらいなら余裕かな。ちょっと物足りないくらいかも」

「そうですか?」


 俺はシスとリコの作ったエイリアンを見ながら首を傾げる。

 同じ素材、同じやり方で作ったのにどうしてこうまで差が出るのか。

 慢心、環境の違い……。


「だって縫い物なんて初めてだったんだもん……」

「針が大きすぎるんやもん……」


 まぁ仕方ないよね。


「あはは、今度教えてあげるから一緒に練習しよ?」

「いいんですか? 縫い物できるようになりたかったんですよー!」

「当たり前じゃない、私とシスちゃんの仲でしょ?」

「ありがとうございます! 今度部屋に遊びに行きますね!」

「うん、待ってるわ」

「うちも行ってええ?」

「もちろんよ。お菓子用意してまってるわね」

「やった!」

「なんか色々すみません」

「いいのいいの、好きでやってるんだから」


 伊集院先輩、ほんといい人だよなぁ。

 美人だし、優しいし。

 惚れてしまいそうだ。


「むっ」

「えいっ」

「いてっ! 何すんだよ」

「別にー」

「何でもないでー」


 なんか急に二人につねられてしまった。

 一体何なんだよ。



「帰りのバスは三時出発なんだよな?」


 食後、ホテルの自室でお茶を飲みながらまったりと時間を過ごす。

 なんかこうやってゆっくり過ごすって久しぶりな気がする。

 たまにはこういう時間もいいよな。


「うん、荷物はもうまとめてるから大丈夫だよ」

「おー、流石だな」

「ストレージに放り込んだだけだけどね」


 ストレージ便利すぎるわ。

 人間ダメにする能力な気がするよね。


  ピロン♪


「ん? 着信か。ん、なんだろ」

「どしたん?」

「神宮寺先輩が時間あるかって」

「ただいま休憩ちゅー、時間はありませんー」

「そうは言えんだろ。俺だけで行ってくるからお前たちは待ってていいぞ」

「えー? 神宮寺先輩以外居るの?」

「ちょっと聞いてみる」


 ピロン♪


「居ないってさ」

「んじゃいいや」

「うちも寝てるー」

「はいよ」


 なんか一人で何処かに行くって久しぶりな気がするな。

 ここ一ヶ月、どこに行くにもシスとリコがついてきてたし。

 まぁ何処かに行くって言っても同じフロアの先輩の部屋なんだけどさ。



 コンコン。


「神無月です、神宮寺先輩いますか?」

「神無月か、呼び出してすまないな」


 ガチャリと鍵を開ける音が聞こえ、扉が開く。


「いえ、特にすることもなかったですし」

「そうか。電話やラインで話すには憚れる(はばかられる)内容だったから来てもらったんだ。まぁ入ってくれ」


 うげ、また面倒事かよ。

 内心そう思いながら首肯を返した。



 客間に通された俺は進められるがままに椅子についた。

 神宮寺先輩の部屋は俺達の部屋より少し豪華で、客間が併設されている。

 そりゃそうか。


「さてと、呼び出した理由だが……」


 少し言いづらそうにしながら神宮寺先輩は話しだした。


「君が撃破したモンスターだがな」

「何かわかったのですか?」

「いや、そっちはまだ調査中だ。あのモンスターからドロップアイテムが出たんだ」

「おお」


 運がいい。

 いや、あの状況になった時点で運は悪いか。


「それがこいつだ」


 そう言うと神宮寺先輩はテーブルの上に黒いテニスボール大の塊を四つ置いた。


「……、種?」

「ああ、種だ」


 えぇー……。

 なんかすっごいしょぼそう。

 桃栗三年柿八年って言うし、植えた所で俺が卒業する前に実はつかないだろうな。


「それもモンスターのな」

「は?」

「この種を解析したところ、こいつを植えるとモンスターがなるらしい」


 いや、意味がわからないんですが。

 え、モンスターってなるものなの?

 畑で取れるんですか?

 どこの国の兵士だよ。


「モンスター発生のメカニズムは未だ解明していないということはもう授業ではやったか?」

「ええ、ダンジョン学で割と最初の方に習うので」

「そうか。ならばわかると思うが、この種は研究材料として非常に稀有なものとなる」

「でしょうね」


 モンスター発生のメカニズムが解明されればダンジョン攻略の一助となる可能性が高い。

 モンスターさえ居なければダンジョンは放置していても問題ないのだから。

 いや、それどころかリスクもコストもなしに新たに能力を得られる稀有(けう)な存在となるだろう。


「モンスターの発生メカニズムだけでなく、ダンジョンコアについても新たな事実が判明するかもしれない」

「はい」

「当然、国は喉から手が出るほど欲しがっている」

「なるほど」


 当然だな。

 しかしなぜそんなことを俺に言うのだろうか。


「しかしドロップアイテムの所有権はモンスターを倒した者にある。これは絶対だ」

「冒険者達の反発を買うからですね」

「そういうことだ。僕も学生を守る生徒会長として譲るつもりもない」

「でも面倒くさいことになりませんか?」

「既になってるさ。今日も朝から協力要請という名の強請(ゆすり)がうんざりするほど来ている」


 別に俺が悪いんじゃないのになんだか申し訳ない気分になってしまう。


「そして、伊集院達はこのドロップアイテムの所有権を放棄した」

「それは俺にも放棄しろってことですか?」

「いや、誤解を招く言い方だったな。これは完全に君個人の所有物だと言いたかったんだ」


 なるほど、先輩達のことだから何もしてないのにもらう訳にはいかないとでも思ったんだろう。

 面倒ごとから逃げたとも考えれるがそれはひねくれ過ぎだな。


「どうするかは君の自由だ。国に譲渡するのであれば言ってくれ、俺から渡りをつける」

「う~ん、一つだけ手元に残して三つ渡すと言うのは?」

「それが一番いいかもしれないな」

「一つは手元で育ててみたいので」

「うむ、僕も興味がある。育てるなら学校の温室を使えるように手配しておこう」


 温室で育つかどうかはわからないがな。

 と神宮寺先輩は笑うのだった。

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