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第二十三話 マトリョーシカ

「……、知らない天井だ……」


 いや、知ってるわ。

 ホテルの天井だよね、これ。


「あ、悟、起きた?」

「シス……、なんでベッドで寝てるんだ?」

「昨日ダンジョン攻略中に悟が寝ちゃったから皆でホテルまで連れて帰ってきたんだよ?」


 いや、寝たんじゃなくて失神したんですけど?

 ってかそうじゃない。

 俺が言いたいのは何で同じベッドで寝てるのかって話で。

 まぁ今はいいや、それよりも気になることがある。


「皆は無事だったのか?」

「うん、あの後は特に何もなかったみたい」

「そうか、よかった」

「立てる? 痛いところ無い?」

「ああ。大丈夫だ」


 そう言って俺は起き上がる。

 っと、布団の中にはリコがいた。

 起こさないように俺はそっとベッドを抜け出し立ち上がる。

 うん、特に異常はないな。


「皆心配してたから顔見せてあげたほうが良いよ」

「ああ、そうする。ってか今何時だ」

「朝の五時前だね。もう少しで日の出だよ」

「十二時間くらい寝てたのか?」

「それくらいだね。お腹へってない? おにぎりあるよ」

「ああ、助かる。言われてみれば腹ペコだ」


 定番の夜食だな。

 おにぎりに卵焼きにウィンナー。


「ああ……、美味いな……」

「よかった、待ってたかいがあったよー」

「え? 寝てないのか?」


 もしかしてこいつ、いつ起きるかわからない俺のためにずっと待っていてくれたのだろうか?


「んー、私精霊だから別に寝なくてもいいのよね」

「そうなのか?」

「眠くはなるけどね」

「そっか、ありがとな」

「あ、お茶淹れてくるね」

「頼む」


 シスの淹れてくれたお茶を飲んだ後、俺は汗を流しに風呂に向かった。

 一応汚れは拭って(ぬぐって)くれていたみたいだけどやはり、ね。



「くあー……」


 生き返るわぁ……。

 早朝の露天風呂って最高だよなぁ。

 昨晩は雨が降ったおかげか、空気も澄んでおり心地が良い。

 もうずっとこのまま独り占めしていたい……。

 だがしかし、その至福の時間は長くは続かなかった。


「む、先客か」

「あ、神宮寺先輩。おはようございます」

「なんだ、神無月だったのか」


 神宮寺先輩は俺だとわかると相好を崩した。


「なんだとはひどくないですか?」

「すまんすまん、失言だったな」

「冗談ですよ」

「はは、いつぞやの意趣返し(いしゅがえし)か? それより、体は大丈夫か?」


 その瞳に真剣さを映し、俺を見据えてきた。

 あまりの眼力の強さに思わず姿勢を正してしまう。


「ええ、ご心配おかけしました」

「いや、僕こそ援軍が間に合わなくてすまない」

「あれは仕方ないでしょう」

「戦力の分散を行った俺の落ち度でもある。それに護衛に付けた者が護衛対象に守られるようでは、な」

「あはは……」


 相性やタイミングの問題もあるから一概には言えないと思うんだけど、神宮寺先輩身内に厳しいのな。

 しかしあの時、他にも守らなきゃいけないメンバーがいたら逆に危なかったかもしれないんだけど。


「とは言え、死傷者が出なくてよかった。普通なら神無月のいたパーティーどころか、うちの調査隊が大打撃を受けていてもおかしくなかった」

「そこまでですか?」

「ああ。まだ調査中ではあるが、な」

「なるほど……」


 詳しいことはまだ分かっていないが、それでもとんでもない相手だったということだけはわかっているらしい。

 何も情報がない状態で、しかも不意遭遇戦でそんな奴を相手にすれば被害が甚大となるのは推して知るべしだろう。


「機密情報だが、神無月には知る権利があると思うから教えておこう」

「え?」

「あのルームの先で、ダンジョンコアが見つかった」

「はい?」

「ダンジョンの中に新たにダンジョンが出来ていたようだ」


 ダンジョンの中にダンジョンとか、マトリョーシカですか?


「そんなこと、あるんですか?」

「あったのだからあるのだろうな。今まで僕は聞いたことが無かったがな。……、スタンピードを繰り返してレベルⅢまで成長していたよ」

「しかしここのダンジョンではスタンピードは発生していなかったのでは?」

「恐らくだが、溢れたモンスターはダンジョン内に散らばっていったのだろう。ここのダンジョンは広いからな」

「それで今までいなかったモンスターが発生していたわけですか」


 たぶんな。

 と言って神宮寺先輩はお湯で顔を拭う。


「ここのところ変なことばかり起こる。何かの兆候ではないかと上の人間はピリピリしているよ」

「何か、ですか」

「それがわかれば対策も取れるんだがな。対処療法しか無いのが現状だ」

「……」

「まぁ、今日一日は休みだ。近くに観光施設もあるから楽しんでくるといい。帰りのバスは三時に出発だから遅れないようにな」

「え? ダンジョンの探索はしないんですか?」


 休みはありがたいけど、仕事はどうなるんだ?


「事が事だからな、北東エリアは封鎖されて国が調査することになったよ。本職の冒険者様達の出番というわけだ」

「なるほど」

「ああ、心配しなくても日当は今日と明日の分もちゃんと出るぞ」

「いや、それは別に……」


 心配してたけどさ。

 だって切実なんだよ。

 バイトしに来て逆にお金使うとか笑えないし。


「そうか? さて、僕はお先に失礼するよ」

「はい、お疲れ様でした」


 神宮寺先輩は立ち上がると、一瞬視線を周囲に走らせてから俺に耳打ちをしてきた。


「神無月、気をつけろ。事態は思っていたより深刻かもしれない」

「え? それは?」

「ふっ、またな」

「……」


 神宮寺先輩はそれ以上は何も言わずに去っていくのであった。


お読みいただきありがとうございます。

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