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第二十二話 緊急事態

「到着っと、私達が一番みたいだね」

「せやな、一番や!」


 ぴょんと跳ねてルーム内に入ったシスが振り返るとニコリと笑う。

 続けてリコもルーム内へと入っていった。


「他の連中は何やってるんだか」

「猫屋敷、そう言うな。モンスターと戦闘中かもしれないんだからな」

「神無月君、他の班は今どの辺にいるの?」


 俺はシステムウィンドウを開き、マップを表示する。

 しかし、この次のルームにエリアボスが居ると思うと少し緊張するな。

 皆早くきてくれ。


「一班が右手二つ先のルーム、二班と三班が合流してて左手三つ先のルーム、四班と五班、それに本隊の分隊が合流してて後ろ二つ先のルームに居ますね」

「随分とルームばっかりだな」

「んー? 神無月君、ちょっとマップ見せて」

「あ、はい」


 俺は伊集院先輩の方に慎重にマップを移動させる。

 目測狂って伊集院先輩が真っ二つってなったら困るしね。

 仲間に当てるとシャレにならないから展開中は結構気を使う。


「なにこれ、変なの」

「伊集院先輩もそう思います?」

「うん、だってまるで碁盤の目みたい」

「妙に整ってますよね」


 言われて気がついた。

 普通ダンジョンの形状は通路やルームが無作為に作られており、こんなきれいな形をしていない。

 これでは誰かの意思が介在しているようにしか思えないのだ。


「偶然、にしては出来すぎてるな」

「ああ、それに以前と形状が変わってるっていうのも気になる」

「警戒度を上げたほうが良いんじゃね」

「そうだな。神無月、システムウィンドウを出せるだけ出して防御を固めてくれ」

「分かりました」


 俺達は壁際によると、システムウィンドウを六枚出して周囲に配置する。

 六枚同時にコントロールするのはかなり難しいので三枚ずつ、二回に分けての操作となったが。

 シェルターもどきの中に閉じこもり、他の班がやってくるのを待つ。

 ヒヤリとしたものが首筋を伝う。

 そのまま一分、二分と時間が経過していく。


「神無月君、他の班はまだこないのかしら?」

「あ、あれ……?」

「どうした?」

「いえ、ここ見て下さい。このルームの出入り口にさっきまでなかったモンスターの反応があるんですよ」

「なに? 見落としか?」

「かもしれません。小さいんで大したことはないと思うんですけど」

「むぅ? しかしモンスターの姿はないぞ」


 霜月先輩があたりを見回し、固まった。


「……出入り口も、ない……?」


 霜月先輩の言葉で気がついた。

 俺達が入ってきた出入り口も含めて、なくなっている。

 マップ上には確かにあるのに見えないのだ。

 ついでにさっきまで隣のルームにあった反応が消えている。


「どういうことだ? 伊集院、他の連中はなにか言ってるか?」

「そ、それが急に地面がせり上がってきて道ふさいだって」

「壁? しかしマップ上には……、まさか!?」


 ゴゴゴゴゴ……。


「なに!? 地震!?」

「モンスターの反応出現! 位置はこのルームの中央です!!」


 ダンジョンの悪意が俺達に牙を向いた瞬間だった。

 飛び散る石礫(いしつぶて)とともにそいつは姿を表した。


「なにこれ……、きもっ……」

「ラフレシアにそっくりだが」

「ラフレシアがでかいって言っても、これは流石にでかすぎなんじゃね」


 砂埃(すなぼこり)が収まるとルーム中央には巨大なラフレシアが咲いていたのだった。

 普通のラフレシアと違うのはそのサイズが俺達よりも遥かにでかいのと、短い手足につぶらな瞳があることかな。

 それにステキなお口。

 ヨダレを出してなければ完璧だったよ。

 俺達のこと、捕食する気満々ですね。

 勘弁してくれ……。


「反応、巨大です」

「だろうな」

「エリアボス、って感じじゃないよねぇ」

「どちらにしろ援軍が来るまでは持ちこたえないとな。神無月、大丈夫か?」

「六枚全部を展開したままだと後三十分がせいぜいですね」

「まぁそれだけあれば他の連中も間に合うだろう」


 それまで持ちこたえれば俺達の勝ちか。

 ふとラフレシアもどきの方を見る。

 ラフレシアもどきは粘液や石礫を盛んにこちらに飛ばしてくるがシステムウィンドウにあっけなく弾き返されていた。

 しかし粘液が落ちた床がジュッと音を立てているのを見ると油断はできない。

 隙間から粘液が飛び込んできたら大ダメージは否めないだろう。


「まって、神宮寺先輩から連絡。通路に出来た壁だけど、崩しても崩しても元に戻って突破できないって」

「なんだと?」

「分断されたってことかよ」

「攻撃しようにもシェルターの外に出た瞬間に滅多打ちになりそうね……」


 ラフレシアもどきが疲れて攻撃をやめてくれれば良いのだが、たぶん無理だろうな。

 さて、どうするか。


「とりあえずルームの角に移動しましょう。そうすればシステムウィンドウを二枚攻撃に回せますから」

「わかった。ゆっくり行くぞ」


 俺達は少しずつ、シェルターに隙間を作らない様に角へと移動していった。


「それじゃ、行きますね」

「頼んだ」

「護衛のくせに何も出来ないですまないな」

「いえいえ」


 さーって、なます切りにしちゃうぞー!っと。

 俺は自由になったシステムウィンドウを操作しラフレシアもどきを切り刻む。


「GAAAAAAAAAAA!!」

「よしよし、効いてる効いて……る?」


 あれ?

 切ったはずのところに痕がない?

 いや、叫んでるし効果はあるはず。


「なんか切ったところすぐに回復してない?」

「もう一回やってみます」


 そしてもう一度斬りつけるも結果は同じだった。


「こいつ、回復能力が高いのか」

「時間をかければ削り倒せそうではありますが……」


 だがタイムリミットは刻一刻と迫ってきている。

 六枚のシステムウィンドウを同時に展開し、更に攻撃するために振り回したことで消耗が激しい。

 さっきから頭痛と目眩が強くなってきている。

 もって後十分といったところだろうか。


 切って倒せない。

 押しつぶそうとしても粘液のせいで滑ってしまう。

 なら、あれやってみるか。

 どうせダメで元々だ。


「え? 神無月君攻撃やめてどうするの?」

「ちょっと試してみたいことがありまして。どうせこのままだとジリ貧ですし」


 俺はラフレシアもどきの両足を斬りつけ一時的に移動能力を奪った後、その頭上にシステムウィンドウを移動させた。


「はい、御開帳ーっと」


 そして、シスが以前砂浜で回収しておいた砂を投下したのだった。

 戻すの忘れてて助かった。


 相手は植物だ。

 海水混じりの砂の爆撃、それも花の中に直接流し込めば流石に効くだろう。

 くっ……、一気に消耗が来た。

 あと少し、あと少しだけ持ってくれ……。


「MYAGYAAAAAAAA!!!!!!」


 今までにないほどの雄叫びを挙げたかと思うと、巨大ラフレシアは沈黙した。

 念のためマップでも確認するがルーム内のモンスターの反応は消滅していた。


「やった……」

「やったああああ!!!」

「よかった……、生きて帰れる……」

「ああ、本当に良かった……」

「失礼なやっちゃな、ますたーを信じてなかったん?」

「私は悟を信じてたからね?」


 ああ、なんとか倒せた。

 しかし、疲れた、な……。


「え? 神無月君? しっかり!?」


 俺は柔らかい感触を頬に感じながら、意識を閉じたのだった。

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