第二十話 異変
「それでは出発する。一班から順に侵入開始」
翌日、ダンジョンへのアタックが開始された。
「我々本隊は最後の五班が行ってから一分後に行動を開始する」
「わかりました」
「何度もしつこく言うが、くれぐれもエリアボスを見つけても勝手に進まないようにな」
「はいっ!」
あー、緊張する。
「おいおい、緊張してんのか?」
「猫屋敷先輩、流石にレベルⅣって聞けば少しは緊張しますって」
「神無月はレベルⅢダンジョンのボスを単騎で撃破したじゃん。緊張する必要なんてねーって」
「そうは言ってもですね」
「慎重なのは悪いことではないが、緊張で体が固まっているといざという時に動けないぞ」
「そーそー、それに私達は本隊配置だからね。一番安全なポジションなんだから大丈夫だって」
先輩達がフォローしてくれるが、緊張するものは緊張する。
胸を張ろうとは思うのだが、つい視線が下がってしまう。
頑張らなければと思っていると、下がった視線の先ににゅっと手が現れた。
「伊集院先輩?」
「聞き分けの悪い子にはー、こうやって」
伊集院先輩は俺の手を両手でつかむと胸元に持っていき。
「こうだ!」
ふよんっ。
「わ!? な、なにを!?!?!?」
「あははー」
「あははーじゃないですよ! 何考えてるんですか!?」
「落ち着いた?」
「……」
言われてみると全身に張り巡らされていた緊張が抜けていた。
「ありがとう、ございます……」
「どういたしまして! あ、勘違いしないでよね、誰にでもするってわけじゃないんだから」
照れながら言われるとこっちまで恥ずかしくなってくる。
というか、照れるくらいならしないで下さいよ。
助かりましたけど。
「おー。羨ましい。俺にもやってくれよー」
「死ねっ!」
「ひどっ!?」
猫屋敷先輩が手をわきわきさせながら伊集院先輩に近づくも冷たく振られてしまっていた。
そりゃそうだよな。
「なぁ、神無月ぃ、せめて感触だけでも教えてくれよ……」
「猫屋敷、あんたサイテーね。神無月君、行こっ」
「あ、はい……」
ダンジョン入り口でいきなりチーム崩壊寸前となった俺達はなんとか立て直すとダンジョンへと潜っていった。
「霜月先輩、あれ、大丈夫なんですかね?」
「ん、ああ。いつものことだ。気にするな」
「あれでいつものことなんですか?」
「そうだな。シス君とリコ君の関係と同じようなものさ」
「なるほど」
喧嘩するほど仲がいいってやつなんだろうな。
その後俺達は順調にダンジョンを進んでいった。
十四階層を攻略したところで時刻は四時を回ったところだった。
そろそろ疲れてきたな。
戻りも考えるとこれくらいで引き上げたほうが良いのではないだろうか。
そんなことを思いながら一五階層へ続く階段を降りる。
十五階層に降りたところにあったホールには、これまでのホールにはなかった大きな水晶が鎮座してあった。
「よし、今日のところはここまでにしておこう」
「お疲れ様でしたー」
「宮川、まだ気が早いぞ。神無月、周辺にモンスターは?」
「次のルームに小さいのが四匹ほどいます」
「それくらいなら大丈夫か。よし、一班から順に撤収だ。撤収後はロビーに集合してミーティングをするからな」
神宮寺先輩の指示を受けて宮川先輩が水晶へと近づいていき、消えた。
「え? 宮川先輩が消えた?」
「あれはポータルと言ってな。二個が対になっていて、設置した場所とそれぞれ行き来できる。これもドロップアイテムだ。一応な」
「おお」
ゲームとかで出てくる転移陣みたいなやつってことだよな。
「モンスターに破壊されたりしないんですか?」
「不思議な事に、モンスターはドロップアイテムを壊そうとしないんだよ」
「そうなんですか」
「ついでに、ポータルは一度設置した場所からは動かせない。盗まれる心配はないが不便でもある」
なるほど、これなら態々来た道を戻らなくてもいいし明日はここから開始できるわけか。
転移陣というかセーブポイントといったほうが良いかもしれないな。
「向こうについたら早くその場を離れてくれ。次の人が転移した時にぶつかってしまうからな」
「わかりました」
五班が転移したことを確認すると少し待ってから俺は水晶の方へ向かった。
そしてふわっとした感覚があったと思うとダンジョンの外に出ていたのだった。
「ここは……」
ホテルが少し遠くに見える。
そして周りにはたくさんの水晶が林立していた。
「ほら、早く移動しないと」
「あ、ああ」
「今日の晩御飯も楽しみやなぁ」
俺はシスとリコに手を引かれその場を後にした。
ホテルのロビーに着くと先に転移した先輩達が雑談をしていた。
しかしその雰囲気はやや硬い。
何かあったのだろうか。
「柳田、どうしたん?」
「猫屋敷か。いや、モンスターの様子がおかしいって話をしててさ」
「へぇ?」
「何っていうか、戦闘に集中してないっていうの? そんな感じ」
「やっぱ柳田もそう思うよな。俺も今日はフェイントが決まりまくっててちょっと気持ち悪かった」
「宮川もか? 楽ではあるけどどうにも座りが悪いよな」
「へー。俺は今日はモンスターと遭遇してないからなんとも言えんけど、警戒したほうが良いかもな」
「ミーティングでしっかり話しておかないとだね」
ミーティングでは戦闘に参加した全員がモンスターに違和感を覚えたと訴えていた。
命がかかっているダンジョン探索では少しの違和感も馬鹿にできない。
皆真剣だ。
「ふむ、そういった動きは今までにないな」
「上に報告を上げて調査は中止にしますか?」
「いや、この程度では中止には出来ないな。報告は上げておくが」
副会長の四月一日先輩が調査の中止を提言するも神宮寺先輩は調査の続行を決定した。
「食後に他校との意見交換がある。その時に他のエリアではどうだったか聞いておくよ」
神宮寺先輩はそう言うとミーティングの終了を宣言するのだった。
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