第二話 覚醒と能力値
「あー、皆席につけー」
教師の号令に生徒たちは皆席に戻る。
「それではこれから順番に覚醒の儀式と能力値検査、最後に能力確認を行っていく。その後正規のクラスが決まるので心しておくように」
その言葉に若干のざわめきが起こるもすぐに収束した。
今いるクラスはあくまで仮のクラス。
覚醒の儀式を行い能力を覚醒させ、その能力に合わせて改めてクラスが決まるのだ。
「緊張するねぇ」
「そうだな……」
前に座っていた男子がこちらを振り向くと、笑いながら言ってきた。
男の割には長い髪に切れ長な瞳。
モテるんだろうな。
コミュニケーション能力も高そうだし。
「先ほどぶり。俺は雨柳 礼」
「俺は神無月 悟だ。よろしくな」
「こちらこそよろしく。それでさ……」
「静粛に! まったく、少しは静かにできんのか」
忌々しそうに教壇に手をつく教師はこちらを睥睨していた。
いや、騒いでいるのは俺達だけじゃないし、俺は話しかけられていただけなんだが。
「ちっ、またな」
雨柳は舌打ちすると正面を向いた。
教師はそのまま学校についての説明を行っていった。
と言っても事前に通知されているものばかりであり、特に聞く事はなかったが。
「諸君らの中から冒険者が出るかもしれない。我々教師一同期待しているよ」
冒険者、ね。
どうにかなりたいものだが。
能力次第であることが否めないからなぁ。
努力ももちろん必要だが、能力がスッカスカじゃ話にならないし。
付随して召喚される精霊の頭が良ければ多少かさ増しできるけど、微々たるものって聞くしなぁ。
教師の説明が終わるとほぼ同時に順番が来たとの知らせが入る。
「おっと、それでは順番が来たようだ。皆移動するぞ、俺についてくるように」
教師の後に並び、俺達は期待と不安を胸に式場へ向かった。
「そこの陣の中に入って、楽にして」
「はい……」
巫女服を着た教師に促され雨柳が緊張した面持ちで陣に入ると同時に陣が輝き出す。
そして光が雨柳の前に収束したと思うとそこには小さな柴犬が居た。
「バウッ!」
「おお、これが俺の精霊。相棒ですか!」
「そうなるね。さ、次が詰まってるから早くどいて」
「はいっ!!」
俺の方を見て親指を立てると彼は検査場へと向かった。
俺も頑張らないとな。
「んじゃ次、入って」
「はい」
俺の番になり、陣に入る。
あれ?
雨柳の時は直ぐに陣が輝いたと思ったんだけど。
「んー? あれ、君、もしかしてもう覚醒してる?」
顎に指を当て首を傾げる彼女。
ツインテールも一緒に揺れる。
「へ?」
「でも精霊はどこ?」
「えっと、神宮寺先生、俺まだ覚醒なんてしてませんよ?」
俺はネームプレートを見ながらそう答えた。
それにしても小さいな。
本当に教師なのだろうか。
「おや、精霊とはぐれちゃってる? まいったなぁ」
「何のことです?」
困り顔を向けられても俺も困る。
心当たりなんてないし。
「ん、居たか。おい、君、精霊を置いていっては駄目だろう」
振り向くと入り口に神宮寺会長が立っていた。
その肩からはトカゲの顔が覗いている。
随分とでかいし迫力があるな。
って、『君』って俺のこと言ってる?
トカゲの存在感が強すぎて気が付かなかったが、会長の後ろからは青い髪をした女の子が髪と同じく青い大きな瞳でこちらを睨みつけていた。
「俺、精霊いないんですが……」
「ふむ? しかしこの精霊は君の精霊だと言っているが」
「へ?」
え、この女の子、精霊なの?
普通に高校生くらいの女の子にしか見えないけど。
というか、精霊って喋るの?
「うー、呼んでおいて置いていくなんて酷い!」
彼女の叫びに合わせて彼女の長い髪が揺れる。
髪以外は揺れなかった、というのはどうでもいいか。
「そんなこと言われても」
心当たりがないのだが。
本当にこんな可愛い子が精霊というのなら、俺の生活はバラ色に……、はならないな。
気疲れしそうだ。
他人事なら羨ましいで済むが、いざ自分がとなると勘弁願いたい。
「んー、とりあえずそこの陣に一緒に入ってもらえる?」
「あ、はい、分かりました」
「分かった……」
俺と彼女が陣に入ると一瞬だが陣が発光した。
あれか、この陣は精霊と人が一緒に入ると光るだけなんだろう。
決してつながりがあるから光ったというわけでは無いはずだ。
「うん、間違いないね。そこの精霊は君の精霊だ」
そんな願いも虚しく、神宮寺先生が現実を俺に告げた。
「えぇ……」
「もう良いよね。それじゃ能力検査に行って頂戴。後がつかえてるんだよ」
後ろを振り向くと長蛇の列が出来ていた。
そりゃそうか、普通一分過そこらで終わるモノが結構長いことやってるもんな。
列の後ろの方ではイライラとしている生徒も見える。
「もう置いていかないように。それでは僕は失礼するよ」
神宮寺会長を見送ると、よくわからないままに自分の精霊を手に入れた俺は彼女(?)と気まずい空気を醸し出しながら能力検査へ向かうのだった。
検査場にも神宮寺先生が居た。
双子なのだろうか、覚醒の儀式の所に居た神宮寺先生と瓜二つだ。
「おや?」
「また何か……」
「いやいや、値が珍しいもので。つい、ね」
俺は辟易しながら神宮寺先生二号に訝しげな視線を送る。
何か考えているようだが、適当にまとめられたツインテールを左右に揺らしているその姿は子供にしか見えない。
今日はモンスターに襲われ、よくわからないうちに精霊を手に入れ、もういっぱいいっぱいだ。
楽しみにしていたものの早く終わってほしいと言う思いが強くなる。
「うん、うん。君の能力値はSSS-Ⅲだね」
「それって?」
「かなりいいよ。いきなりこの数値が出るなんてちょっと普通じゃない」
「おおっ」
SSSって確か覚醒度の最大値だよな?
それにランクもⅢってかなりすごいんじゃないか、これ。
「二年生の平均値がD-Ⅲだからね。君はもうそれを超えているようだ。一体どんな修羅場をくぐり抜けてきたんだい?」
ランクⅢってことは少なくとも二回は試練を乗り越えたってなるんだけど。
と神宮寺先生が首をかしげる。
「修羅場って言ってもなぁ」
特に心あたりがないのだが。
俺が腕を組んで悩んでいるとくいっくいっと袖を引っ張られた。
そちらをみると精霊がニコニコとこちらを見てくる。
「特に無いですね」
とりあえず放置して神宮寺先生には答えておいた。
試練もそうだが、覚醒度がそこまで上がるほど能力を行使した覚えはないし。
というか、能力を手に入れていたことすら知らなかったくらいだしな。
「何やら君の精霊がムンクの叫びみたいな表情をしているけど……。まぁいいや。それにしても感情豊かな精霊だね」
笑っているような困っているような顔をしながら神宮寺先生がそんなことを言ってくる。
うん、俺もこんな感情豊かな精霊がいるなんて初めて知ったよ。
ついでに人型ってことも喋るってことも。
「珍しいんですか?」
俺が知らないだけで実はと言う可能性にかけて神宮寺先生に質問を投げかける。
普通の精霊ならともかく、人型の精霊との付き合い方なんてさっぱりわからないし。
前例があればそれを参考にしたいのだが。
「う~ん、居ないわけじゃないけど少数派だよね」
「そんなもんですか」
精霊との付き合い方は人それぞれだし、あまり気にする必要はないと神宮寺先生は言った。
「まぁその程度かな。大切にしてあげると良いよ」
う~ん、まぁ、相棒ってことだしな。
腑に落ちないところもあるが、とりあえずは仲良くはしたいものだ。
「さて、最後は能力の確認だね。行ってらっしゃい。結果を楽しみにしているよ」
「わかりました」
精霊は手に入れた、能力値も高い。
後はその能力だ。
念動力や自然操作系だと良いのだけど。
付与系だけは勘弁してもらいたい。
冒険者への道が閉ざされてしまう。
怪しく笑う神宮寺先生に会釈を返すと俺は希望と不安を胸に最後の会場へと向かった。
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