第十八話 レベルⅣダンジョンへ
時刻は六時を少し回ったくらいだ。
シスとリコにせっつかれて俺はかなり早く学校の運動場まで来ていた。
まだ二時間近くあるのに、どうしろというのだろうか。
「たのしみやなぁ!」
「だねー!」
その二人はと言うと鉄棒で遊んでいた。
鉄棒がきしむほどの勢いで勢いでぐるぐる回っている。
大車輪って技だったかな?
中見えるから他人が来たらやめようね。
花壇の縁に腰掛け、ぼけーっとすること三十分くらい経っただろうか。
寮の方から一つの影がやってきた。
「神宮寺先輩、おはようございます」
「神無月か、おはよう。随分と早いな」
「ええ、ちょっと彼女達にせっつかれて」
「ふむ?」
「シス、リコ、神宮寺先輩が来たぞ」
「「は~い!」」
二人は鉄棒から飛び降りるとこちらにかけ足で向かってくる。
「急な話で悪かったな。誘っておいて何だが実家には帰らなくて良かったのか?」
「いえ、俺、両親居ないですから。効率の良いアルバイトを紹介してもらって感謝していますよ」
「む、それは悪いことを聞いた」
「いえ、よくある話ですしね」
「そう言ってもらえると助かる。もうすぐバスが来るから適当に乗り込んでくれ。大きな荷物は先に預かってくれるぞ」
「分かりました。荷物は能力があるので大丈夫です」
「ああ、そうだったな」
「それにしても、神宮寺先輩もかなりくるの早くないですか?」
「まぁ僕は責任者だからな。一番に来ていなければ示しがつくまい」
流石だな。
生徒会長を務めるだけあって責任感が強い。
俺にはそんな理由でこんなに早く来るなんて無理だ。
「尤も」
と神宮寺先輩は続ける。
「君に一番乗りは取られてしまったがな」
「あー、すみません」
「……、冗談だぞ?」
「ぷっ、分かってますよ」
「ならいい」
最近この人の事が少しわかるようになってきた。
口下手なだけで結構気のいい人なんだよな。
雑談をしているうちにチラホラと遠征参加メンバーと思わしき生徒が運動場に集まってくる。
「ちわーっす」
「よろしく頼む」
「猫屋敷先輩、霜月先輩、おはようございます」
「お、神無月も参加すんの?」
「はい、呼ばれまして」
「うっわ、まじかよ! 先教えといてくれよなー。ライン使えるようになったんだろ?」
「すみません、話が来たのが昨日の夜だったもので」
せっかくライン使えるようになっても使わなきゃ意味ないか。
とは言え、どこまで口外してもいい話かわからなかったしなぁ。
「それじゃしゃーないか。ともかくお前俺のパーティーな!」
「おい、猫屋敷、パーティーは神宮寺先輩が決めるんだぞ」
「いや、でもほら、神無月は今までもうちらのパーティーでやって来たわけだし、今回も同じパーティーになるのが普通じゃん?」
「まぁそうかもしれないが」
「それに、ダンジョンでも温かい飯が安心して食える。これはでかくね?」
「む、むぅ。否定はしないがな」
ダンジョン内では常時緊張したまま重装備で探索することになる。
それによる消耗は通常の山歩きや洞窟探検とは比にならない。
普通は休憩するにもメンバーの半数は警戒にあたる必要があるが、システムウィンドウさえあれば全員が休憩できるのだ。
さらには重量物はストレージに格納しておけばいいので消耗も少ない。
「盾役としても動ける、背中を預けられるポーターは貴重だぜ?」
「まぁ、信用できるのは間違いないな」
「あまり信用されても困るんですけど」
あまりハードルを上げるとくぐるぞ?
まじで。
「はっ、あの状況で俺達を見捨てて逃げなかったやつを信用しないで誰を信用するっていうんだよ」
「そうだな。普通は一人で逃げ出すだろう。出口が武器で塞がれていたと言っても隙間がなかったわけじゃあるまい?」
「いやあれは……」
シスが一人でやったんです。
なんて言っても誰も信じないだろうなぁ。
どうするか。
「おっはよー!」
「あ、伊集院先輩。おはようございます」
「伊集院、遅いぞ。お前が最後だ」
「時間前なんだから良いじゃん。まだ十分もあるよ?」
「出発時刻が八時なんだぞ。荷物預けたりしてたら本当にギリギリだろうが」
「いやいや、うちには頼りになる後輩くんが居るじゃないですか」
あー、俺のストレージに格納しろってことですね。
まぁいいけど。
「ふむ、たしかにそれは便利かもしれないが」
「えーっと、個人情報だだ漏れになりますけど、いいんですか?」
「んー、別に神無月君ならいいんじゃない?」
信頼が重いです。
「信頼を裏切らないよう誠心誠意努力します……」
「あははー」
「全員揃ったか? 揃ったなら出発するぞ」
神宮寺先輩の号令でメンバーはバスに乗り一路目的地へ向かった。
「へー、また覚醒度上がったんだ?」
「まぁ一人でスタンピード殲滅したならそりゃ上がるよな」
「それにしても、もう覚醒度Bか」
「もしかしたら今回の遠征でランクアップするんじゃない?」
「それってその分ハードってことですよね。勘弁してもらいたいです」
もうあんな目に合うのは懲り懲りだ。
いくら残機があるとは言ってもいつ消えてるかわからないし。
「あはは、それだけ期待してるってことよ」
「ランクアップはともかくとして、ドロップアイテムには期待したいところだな」
「そうね、レベルⅣダンジョンなんて滅多に潜れないし」
「ドロップアイテムですか?」
今までモンスターを散々倒してきたけどそんなの一度もなかったけど。
「ああ、一年のこの時期だとまだ習ってないか。レベルⅣ以上のダンジョンのモンスターからは極稀にアイテムがドロップするのだよ」
「ほー」
「ドロップするアイテムはまちまちなんだけどね。しょぼいアイテムでも百万円以上の値段がついたりするのよ」
「百万!?」
それだけあればステーキ何枚買えるんだろう?
思わず喉を鳴らしてしまう。
「まぁ売れば、だけどね。基本売らないかな」
「基本的にどんなアイテムでも使えるからなー」
「え、でも一個しかドロップしなかったら分けれなくないですか?」
俺、お金ないから売り飛ばしてお金にしたいんだけど……。
「うん、だからドロップアイテムは基本的にパーティーの共有財産になるってわけ」
「そんな訳でパーティーメンバーは信頼できる人間じゃないと駄目なんだよ」
Oh……。
「命がかかってるからさ。あのアイテムを売ってなければって、いざっていう時になったら嫌じゃない?」
「まぁ、たしかにそうですね」
「それに、ドロップアイテム売らなくても持ってるだけでパーティーメンバーに国から手当が付くからね。長期的に見たら売らないほうがお得かな」
「なるほど」
アイテムの位置を把握したいとか、思惑があってのことなのかな。
「私は周辺の味方の傷を癒やしてくれる、オートリジェネのあるアイテムが欲しいな」
「俺は速度上昇だな。傷を受ける前に倒してしまいたい」
「んー、やっぱ力の増強っしょ。速度も上がるし傷も負いにくくなるぜ?」
バスの中は到着までドロップアイテムの話題で盛り上がるのだった。
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