第十七話 ライン
神宮寺先輩を見送ると伊集院先輩が隣に移動してきた。
あ、ちょっといい香りがする。
「ちょっと近くない?」
そこでシスからの待ったがかかる。
「そうかなー? でも教えるには仕方ないでしょ?」
「むぅ」
しかし伊集院先輩はあっさりとシスのガードを貫通してきた。
シスは伊集院先輩に少し弱いから仕方がないか。
「そんじゃ携帯出してー」
「はい、これでいいですか?」
俺は携帯を出してロックを解除し、伊集院先輩に手渡した。
「ふーん、無防備だね」
「え?」
「うんにゃ、見られたくない写真とかメールとかあるんじゃないかなって」
「ああ、殆ど使っていませんから」
「そっか。んじゃ教えるよーっと」
「お願いします」
ラインを使いこなせれば結構便利になるかもだな。
少し楽しみだ。
「……」
しかし、俺の携帯を触り始めた伊集院先輩が固まる。
何か変なことでもあったのだろうか。
「どうしました?」
「いや、なんっていうか……。神無月君、男友達いないの……?」
「え?」
「その、メンバーが女の子しか居ないから……」
「ああ……」
可哀想なものを見るような目で俺を見てくる伊集院先輩に事情を説明する。
「つまり、お金がなくて毎食弁当だから女子グループと食べてると」
「ええ」
「それで、女子とよく一緒にいるせいで男子が近づいてこないと」
「そうなんです……」
「女子グループと別れている時もシスちゃんとリコちゃんがくっついてるから同じ状況なわけね」
「はい……」
「う~ん……」
「……」
「神無月君のクラスの男子、へたればっかだね!」
伊集院先輩は額に手を当ててため息をついた。
「いや、そういうわけでは」
「いやいや、だってそうでしょ? こんな可愛い子に話しかけてこないとかさー」
シスを指差して呆れる伊集院先輩。
クラスメイトをフォローするわけではないが、皆難しい年頃なんだよ。
理解してくれよ。
「まぁいいわ。でも男友達もちゃんと作ったほうが良いよ。じゃないと後で困る時があるかもしれないし」
「ライン使えるようになったら頑張ってみます」
「そうだね。ほらもうすぐ長距離移動大会もあるし、男子でチーム作ればきっと仲良く慣れると思うな」
「あ、もうチームは決まってるんですよ」
「あら、そうなの? なんだ。なら大丈夫だね」
よかった、と笑う伊集院先輩。
だが、次のセリフで更に呆れられるのだった。
「チームメイト皆女子ですけど」
「だめじゃん」
まずったかなぁ。
多少無理しても男子とチームを組めばよかったかもしれない。
「え、クラスの男子と誰とも話できないとかじゃないよね?」
「一応男女別の体育の時は男子と行動してますよ」
「男女混合の時は?」
「……、女子とですね」
「あー、うん、わかった。頑張ってね!」
「見捨てられた!?」
親指を上にあげていい笑顔をしてもその気持ちは伝わる、以心伝心だ。
「いや、だってどうしようもないし」
「えぇ……」
「とりあえず来週、ゴールデンウィーク明けにでも男子とラインID交換しなよ」
「そうします」
「うん、それじゃ私のラインID教えとくね。あ、こっち個人携帯だから他の人には教えないでね」
「分かりました」
こうして俺のラインメンバーに伊集院先輩が加わった。
……、また女子である。
「あ、シスちゃんとリコちゃんも交換しよっ」
「はいっ、よろしくお願いしますね!」
「よろしく頼むわー」
なんか情報筒抜けになりそうで怖いな。
バレて困るものなんてないけど。
……、ない、よね?
と言うか、彼女達は一体どこからスマホを手に入れてきたんだろうか。
俺は渡した覚えがないんだけど。
「あ、そうだ、他の先輩達ともID交換しとかないと」
「教えるよ、神無月君なら大丈夫だろうし」
「いいんですか? ありがとうございます」
「どういたしまして」
おお……。
初めて男が追加された。
まぁ友達じゃなくて先輩だけれども。
「よかったね?」
「はい!」
俺は足取りも軽く生徒会室を後にしたのだった。
ピロン♪
「お、早速来たか」
部屋に戻り着替えた所で携帯から音がなった。
少しウキウキしながら開く。
「お、神宮寺先輩からだ」
内容は業務連絡だった。
当たり前か。
「えーっと、うん? 明日からの遠征に付いて来て欲しい?」
ゴールデンウィーク中に生徒会のダンジョン調査委員会の遠征があるらしい。
レベルⅣダンジョンに他校と合同で潜り、モンスターの分布状況を調べ異常がないか確認するそうだ。
「わかりました。持っていくものはありますか。っと」
返信すると直ぐにまた着信を知らせる音が鳴る。
「はやいな。どれどれ」
装備や消耗品類は学校側で用意するから着替えだけあればいいのか。
むしろ荷物をあまり持ってこないように、ね。
俺の場合はシス達の分もあるから単純に三倍になってしまうんだよな。
まぁシステムウィンドウでストレージに荷物突っ込めばいいから問題ないけど。
「シス、リコ、明日からダンジョン調査委員会の遠征だって」
「おおっ! なんか青春って感じ!」
「お出かけなん? よかったわー。休み中ずっとお仕事かと思って萎えとったんよー」
「いや、クエストだけどな?」
「えっ」
一日一万六千円の日当が出るらしい。
命の危険があるとは言え、高校生のバイトとしては破格だろう。
「それだといつもと変わらんやん……」
「宿泊先はホテルで飯もついてくるってよ」
「ますたー! 早く行こっ! 急がんとご飯なくなるで!!」
華麗な手のひら返しである。
「明日の朝八時に運動場に集合らしいからそれまで待て」
「ええ~、それだと今日の晩御飯も魚やん……」
「リコって魚好きなんじゃなかったっけ?」
「毎日同じご飯だと飽きるねん……」
そりゃそうか。
「明日までの辛抱だ、我慢してくれ」
「はぁい……、でも楽しみやなぁ」
「ステーキ! ステーキはあるのかなっ!」
「ええな、ステーキ! 前広告にあって一度食べてみたいと思っとったんよ!」
二人は夜遅くまでビフテキビフテキと盛り上がっていた。
うん、まぁ俺も楽しみではあるけど、流石にステーキは出ないんじゃないかな?
そう思ったが二人の輝く瞳を見ると俺は言い出せなかったのだった。
まぁ、バイト代出たらステーキにすればいいか。
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