第十三話 ご注文は魚ですか?
今日も昼休みは平和である。
特に変わったこともなく、いつもと同じメンバーで、いつもと同じ教室の、いつもと同じ席で、そしていつもと同じ魚のおかずをつついていた。
青空の下を走る風が学食からカレーの香りを運んでくる。
ああ、カレー食いたいなぁ……。
「神無月って魚好きなのか?」
「え?」
綾小路さん達と一緒に弁当を食っているとそんなことを聞かれた。
「ほら、最近お弁当のおかずがずっと魚だからさ」
「寺門さん、よく見てるね」
「神無月のお弁当、いつも美味しそうだからね。手、込んでるだろ?」
「あはは……」
シスが照れくさそうに笑いながら箸を咥える。
はしたないからそういうのはやめなさい。
「嫌いではないけど、特別好きって訳でもないかな……」
「それなのに魚ばかりなの?」
綾小路さんが突っ込んでくる。
あまり突っ込まれても困るんだけど。
弁当を作ってくれているシスは、普段から俺のことを第一に考えている旨の言動をしている。
それなのに魚が続いていることに違和感を覚えたのだろう。
俺はどちらかと言えば肉の方が好きだ。
でも魚しか食えないやむを得ない事情があるんだ……。
「家計がピンチでな」
「それで魚?」
「魚はタダで取り放題やからなー」
「え?」
リコの言葉に佐倉さんが反応する。
「魚がタダって、どうしてです……?」
「あー、能力でちょいと、な」
「便利な能力って羨ましいです……」
「神無月って能力二つあるんだよな? 羨ましい」
二つ目の能力を手に入れてから、ちょくちょく羨ましいと言われるがどうなんだろね。
「そんなに良いもんじゃないけどな。確かに能力は二つあるけど手に入れる時に死にかけたし」
「先輩達も死にかけたんだっけ?」
死にかけたどころか一度死んでいます。
心肺停止して直ぐに格納したから治療が間に合ったけど、本当に綱渡りだったのだ。
「う~ん、私も欲しいけど命がけと言われるとちょっと躊躇しちゃうなぁ」
「無理はしないほうが良いよ、冒険者に何が何でもなりたいって言うなら話は別だけどさ」
「そうだよな。まぁ私達は私達なりにやっていけば良いかな」
「うん……、そうだよね……」
冒険者狙いじゃないならAクラスもFクラスも大して差はないと思うし、無理に上のクラスに上る必要もあるまい。
特に彼女達は女の子だしね。
性差別をするつもりはないが、これは区別だ。
え、伊集院先輩?
まぁ、既になってるものは仕方ないよね。
「あ、神無月君、おかず交換しない? 私、ミートボール出すから南蛮漬けが欲しいなっ」
「喜んで!!」
「ちょっ、神無月、喜びすぎだろ」
「久しぶりの肉やでぇ!!」
「そこまで喜ぶとシスちゃんが可哀想だよ?」
「え、あっ」
しまった、久しぶりの肉につい……。
「いいよーっだ。鈴香ちゃん私と交換しよっ」
「いいぞ、私はシュウマイを出そう」
よかった、地雷回避成功か。
というか、たぶんシスもうんざりしてたんだろうな。
もやし生活に比べたらマシだが、それでもたまには肉が食べたいよね。
「魚の照り焼きでいい?」
「おお、美味そうだ。実は狙っていたんだよ」
「うち、卵焼き食べたいなぁ」
「あ……、交換します……?」
「菖蒲さん、いいんかっ!?」
「甘いのでよければ……」
「うち甘い卵焼きが好きやねん!!」
今日の昼は久しぶりに充実してた気がする。
やはりお肉様は偉大だな。
「あ、次体育じゃん」
「んじゃ更衣室に移動だな」
「それじゃまた後で……」
「おぅ」
弁当を片付けると俺は体操服を用意し男子更衣室へと向かった。
「菖蒲さんの卵焼き美味しかったわぁ」
「シュウマイも美味しかったよ! あれ、冷凍のじゃなくて手作りだよ。絶対!」
「……、なんで君達もついてきてるの」
「なんでって」
「精霊やし?」
そうだった。
普通に生活しているせいでついついこいつらが精霊ってことを忘れてしまう。
授業中もどこからか椅子と机を持ってきて普通に授業受けてるし。
「あー、一応更衣室の外で待っておいてもらえるか?」
「なんでよ」
「ええやん、見られて減るもんじゃ無し」
いや、リコはともかくシスはアウトだと思うんだよ。
ってか恥ずかしいし。
「あ、シスちゃん、リコちゃん、こんな所にいた」
「綾小路さん? どうしたの?」
「二人が居なくなったからどこ行ったのかなって。女子更衣室はあっちだよ。さ、いこっ」
綾小路さん、ナイスタイミング!!
「えっ、待ってっ!」
「急がないと遅刻しちゃうよー」
「うちはこっちで……」
「だめだよ、女の子なんだから」
「綾小路さん、頼んだ」
「任せといてっ!」
二人はブツブツ文句を言っていたものの綾小路さんが上手いこと女子更衣室へ連れて行った。
「ふぅ、これで安心だな」
俺は一息ついて男子更衣室の中に入っていった。
「げっ、神無月!?」
「武田、げってなんだよ、げって」
「いや……、あれ? シスちゃんとリコちゃんは?」
「あいつらは女子更衣室だよ」
「そっかぁ。よかった……」
「なんかあったのか?」
「なんかっていうか。お前あの二人の前で着替えれるの?」
「なるほど」
見たいけど、見られたくない、お年頃。
神無月、心の句。
「流石になぁ」
「まぁ安心してくれ。綾小路さんが連れて行ってくれたから」
「……、お前、いつも女子とばっか絡んでるよな」
「そうか?」
そうかもしれない。
シスやリコを連れていると男と絡みづらいんだよな。
あいつらが会話に混ざった時、皆固まってしまうし。
雨柳は結構平気なんだが。
「まぁいいけどさー、たまには俺達とも飯くおうぜ」
「金があれば学食行くんだがな」
「あー……」
全ては金がないのが悪いんです。
「大丈夫なのか?」
「ゴールデンウィーク中バイトに精を出すさ」
「あ、そっか、お前生徒会からクエスト受けてたんだっけ」
「今は休止中だけどな」
おかげで貧乏なんだよ。
食材を自然から調達するレベルで。
「複数能力持つってのも大変なんだな」
「いや、うん、まぁそうか?」
普通の精霊なら飯も食わないし着替えも要らないからこんなことにはならないと思うんだけど……。
「頑張れよ」
「おぅ……」
俺は納得行かないものを抱えながら運動場へと向かった。
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