第十二話 釣りには餌が必要です
「よし、ここなら良いだろう」
「河口で、どうする、のっと!」
「俺がモンスターを防いでる間にシスは河口の幅を狭くしてくれ! あの橋の辺りまでだ!」
「どうやってよ!?」
「向こうの砂を格納してこっちで展開してくれ!」
「わ、わかった!」
運よく行けば、労せず敵を殲滅できるかもしれない。
そう、運だ。
「リコ」
「は、はひぃ……」
「そう怯えるなよ」
あー、責任感じちゃってるのかね。
狐耳もフサフサの尻尾も元気なく垂れ下がり、目には涙が浮かんでいる。
「そやかて、うちが余計なことしたから……」
「いやいや、スタンピードを文字通り水際で食い止めれるんだラッキーだったよ。ありがとな」
「食い止めれるゆーても、うちらジリ貧どころかドカ貧やん!!」
涙をこぼしながらそう叫ぶリコを俺は優しく抱きしめた。
その間にもモンスターの突撃は止まっておらず、かなり大変だがこれも必要なことだと割り切る。
「うちの、うちのせいで、ますたーが……」
「それは見解の相違だな。俺にはチャンスにしか見えないよ。リコさえ協力してくれるならね」
「目、悪いん?」
「……、とにかく俺を信じろ」
「ますたー……。分かったわ……。うち、全力で協力する!」
よし、泣き止んだな。
この作戦はリコが肝になる。
復活してくれてよかった。
「よし、それじゃまずこのロープを体に巻きつけるぞ」
河口に転がっていたロープをリコに見せる。
「へ? ますたー、そういう趣味が?」
「案外お前余裕だよね」
「ますたーを信じとるからね」
「そないですか」
リコの体にロープを巻き付けてっと。
「シス、それくらいで大丈夫だ。そっちに行くから俺が通過したら川に水平にシステムウィンドウを展開してくれ!」
「わかった!」
俺はロープを巻いたリコを腕に抱いて河口中心まで全力ダッシュする。
後ろを振り返るとモンスターはいい感じに俺達に付いて来てくれていた。
これなら、行ける!
「行くぞおおおおおお!!!」
「システムウィンドウオープン!!」
グシャ! グシャ! という音がする。
後ろを振り返るとシステムウィンドウの側面にモンスターが突っ込んではその勢いのまま切断されていく光景が見えた。
「トドメだ!!」
俺は川岸に登り、橋の中央に移動した。
「え? え? 何するん? まさか……」
「リコ、頼んだぞ!!」
そして俺は橋の下に向かってリコを放り投げた。
「ぎゃああああああああ!?!?!?!」
「よし! 良いぞリコ! その調子だ!!」
「うわ、悟鬼畜すぎでしょ」
「いや、絶対大丈夫だから。システムウィンドウで守ってるし。リコも俺を信じるって言ってくれたし」
「そういう問題じゃなくてさ……、まぁリコだから良いか」
シスが若干引いている。
リコが責任感じていたみたいだし、そのフォローも兼ねてる素晴らしいアイデアだと思ったんだけどな。
「こ、幸運! 幸運発動ううううううう!!!」
「おお、なんか効率よくモンスターが切断されていくな」
「幸運の効果ってあるのね」
二十分後。
あれだけウヨウヨいたモンスターはすっかり居なくなっていた。
完全に殲滅に成功したようだ。
良かったよかった。
「神無月! 大丈夫か!?」
「あ、神宮寺先輩。なんとか無事です」
ちょっと遅いが、無事に済んだし文句は言うまい。
「そうか。スタンピードと聞いて焦ったが、無事ならよかっ……た?」
「どうされました?」
「いや、そこで吊るされている精霊は……?」
神宮寺先輩が信じられない物を見るかのようにリコの方を指差す。
まぁそうだよな。
普通はあんなことしないもんな。
「ああ、モンスターの餌が必要だったんですけど、リコが協力してくれるって言ってくれて」
「そ、そうか……。しっかりと信頼関係が出来ているんだな?」
「ええ、もちろんですよ。なんといっても俺の精霊ですから」
「ふむ、ならば問題ない、のだろうか……? それはそうとして、回収しなくて良いのか?」
っと、引き上げるの忘れてた。
俺はゆっくりとロープをたぐりリコを引き上げた。
「う、うちはますたーを信じて、信じて……」
「うん、ありがとうな。助かったよ、お疲れ様」
「まずだああああああ!!!!」
リコはひどい顔で俺の胸に飛び込んできた。
グリグリと俺の胸に頭を擦り付け泣きじゃくるリコをあやしながらふとシスの方を見る。
こういう時は大体拗ねているのだが。
「アメとムチ、ね……」
シスさん、黙ってなさい。
泣きじゃくるリコをなだめながら神宮寺先輩に状況を報告、引き継ぎを終えると俺達は家路についた。
「さてと、魚もいっぱい取れたし、自転車の籠に保冷バック入るかな」
更にその上にリコが乗ると考えると結構ギリギリかもしれない。
「ん? リコ、どうした?」
俯いて歩き出そうとしないリコに声をかける。
「おんぶ……」
「ん? 疲れたか?」
「ちゃうよぉ……。靴、食べられてしもうて……」
結構ギリギリどころか、少しアウトだったらしい。
ハイになってて気が付かなかったが、冷静に考えるとかなり無茶をしたのでは?
……。
まぁ結果オーライかな。
「帰りに靴、買っていこうか」
「うん……」
「今日は譲ってあげるわ……」
いつもこれくらい大人しければいいのに。
それはそれで物足りないかね?
「ほれ」
「んっ……」
少しの重みと暖かさを背中に感じながら俺は駐輪場へと向かった。
後日神宮寺先輩から聞いた話によると、沖の小島にダンジョンが出来ていたそうだ。
レベルⅡに進化しており、俺が迎撃したのはほぼ確実にスタンピードだろうとの話だった。
今月頭に入学してからスタンピードに遭遇するのはこれで二度目か。
僅か二週間で二回も遭遇するって随分と多い気がするけど偶然なのだろうか。
気が向いたらスタンピードの発生頻度でも調べてみるかな。
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