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第百六話 障壁

 最後部座席に俺達は陣取り、のんびりと天井を眺める。


「システムウィンドウ最大展開」


 バスが出発して三十分程度経った頃だろうか。

 慣れ親しんだ気配が急接近することを感じた俺は、即座にシステムウィンドウを展開した。


「私達が時間稼ぐからミキは戦力確保お願い」

「いやはや、これは中々……」


 俺とシスが防御を固め、ミキに戦闘準備の指示を出す。

 周囲の植物経由で敵戦力を大まかに把握したミキの頬が引きつる。


「またかいな、帰りくらいゆっくりさせて欲しいんやけどなぁ」


 急に戦闘モードに入った俺達を横目に気だるげにぼやくリコ。

 うん、まぁ、直ちに問題があるわけじゃないけど切り替えてくれよ?


「え? どうしたの?」


 俺達の雰囲気が変わったのを察した綾小路が怪訝そうに声をかけてくる。

 しっかり説明をしてあげたいところだが、今は時間がない。


「悪い、バスを止めてくれ」


 運転手に遠くから声をかける。

 彼も事情はある程度知っているのだろう、何も言わずに停車し出入り口を開いてくれた。


「な、なんで……?」


 通路を歩く俺の耳が不安そうにつぶやく佐倉の声を捉える。

 なんで、ね。

 俺が聞きたいくらいだ。

 ホテルのロビーで殺気をひしひしと感じていたが、まさか本当に襲ってくるとは。

 後少しで道の駅を越えるところだったんだがな。

 ま、自分のテリトリー内で襲うのは当然といえば当然か。


「お、おい、悟、どこに行くつもりなんだよ」

「健……、悪いな、ちょっと野暮用だ。先に帰っていてくれ」


 前の方に座っていた健が心配そうに声をかけてくる。

 本当に、いい友達を俺はもったものだ。


「野暮用って何だよ」

「別に大した話じゃないさ」


 そう、本当に大したことはない。

 大したことはないのだ。


「そんな顔して大したことがないってことはねーだろうよ」

「達夫……」


 どうやら、自分で思っているよりも緊張しているようだ。

 ポーカーフェイス、結構自信あったんだけどな。


「俺達、仲間だろ? なにかあるなら言ってくれよ」

「……、そう、だな」


 だが、彼らでは生きて帰ることは難しいだろう。

 よしんば生き残っても、五体満足とは行くまい。


「俺の、壁を乗り越えるための試練がやって来た。そんなとこだ」

「壁を?」

「ああ、この壁は俺一人で乗り越えなきゃいけない。だから悪いが一人で行かせてくれないか?」


 嘘はついていない。

 だから、信じてくれ。


「……、分かった。悪かったな、引き止めて」

「いや、心配してくれてありがとう」

「何だよ、らしくねぇな」

「先に行って待ってるよ?」


 俺がバスのステップを降りると、まるで俺を拒絶するかの様にすぐさまドアは閉じられた。

 そして排気ガスを残し、バスは遠ざかっていく。


「おまたせしました」

「なに、俺も今到着したところだ」


 振り向くと、そこには神宮寺先輩が腕を組んでこちらを見据えていた。

 その目には、冷たい光が満ちている。

 俺の命を刈り取るため、そのためにやって来た。

 彼の纏う殺気が、俺にそう告げていたのだった。


「なにか言うことはあるか?」

「そうですね。彼らを逃してくれてありがとうございます」


 最後の問答をしている間に、完全に追いつかれていたのだ。

 にもかかわらず攻撃を加えてこなかった。

 もしあの瞬間、一撃を入れられていたら俺はともかく綾小路達はどうなっていたかわからない。

 もちろん、全力で守るつもりでは居たが全員は守りきれなかっただろう。

 そして姿を隠しているものの、周囲には多数の追手がいることも分かっている。

 ミキが彼らの抑えに回ったとは言え、バスは何事もなく帰路へついたのだ。

 まず間違いなく神宮寺先輩の影響によるものだろう。


「はは、彼奴等は俺の後輩だからな」

「……、俺もその一人のはずなんですけどね?」

「ふっ、まぁそうだな。だがお前は九頭龍だ」

「……」

「その称号、伊達ではないことを見せてみろ。行くぞ!」


 神宮寺先輩の周囲に炎が立ち上がり、人型を形成する。

 雪で覆われた森の中に、炎の巨人が召喚される。

 最初から全力、そういうことなのだろう。

 だが……。


「その技は既に一度見ています!」

「一度見たからと言って! がっ!?」


 巨人より発せられた爆風が神宮寺先輩を吹き飛ばす。

 彼の体は数回雪面を飛び跳ね、大木に衝突。

 轟音とともに停止した。


「な、何をした!?」


 俺はこっそりストレージに回収しておいた雪を灼熱の巨人にぶつけるように展開したのだ。

 当然、雪は一瞬にして蒸発、水蒸気となり膨張する。

 その刃は拡散すること無く、神宮寺先輩へ襲いかかった。

 その衝撃は推して知るべし、だ。


 普通の人間なら即死だろうに、だが神宮寺先輩は軽く打ち身をした程度のダメージしか負っていない様だ。

 少しふらつきながらもすぐさま立ち上がる。


「くっ!?」


 だが、その一瞬の隙きさえあれば十分。

 俺は神宮寺先輩に向け次々にシステムウィンドウを飛ばす。


「何という数だ。……だが!」


 以前と同じ様に、俺の出したシステムウィンドウを足場にしようと踏み込む。

 が、その足はシステムウィンドウに絡め取られる。


「な!?」


 神宮寺先輩なら、必ずそうしてくれると信じていた。

 だから、ラップの如く柔らかいシステムウィンドウを足場にしやすい位置にこっそりと置いておいたのだ。

 少しでも違和感を与えないよう、神経を使ったかいがあったというものだ。


 炎の巨人の拳が俺へと向かって降り注ぐ。

 が、神宮寺先輩と同じく絡め取る。

 そして薄い膜が巨人の全身を包み込み、押しつぶした。


「チェックメイト、ですね?」

「……、ああ。俺の負けだ。強くなったな、神無月」

「先輩達のお陰です」


 神宮寺先輩が居なければ、俺はここまで強くなれなかっただろう。

 いや、神宮寺先輩だけではない。

 先生たちや友人、彼らが居てこそ、俺はこれだけ強くなれたのだ。

 人では決して届かない頂きに、その手をかけることができた。

 そう思えた。

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