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第百五話 帰り道

 多数の槍に貫かれた体は宙に浮き、口元からは紅い雫が滴る。


「……、ミキ」


 動かなくなったそれを見て、俺はミキに声をかけた。


「ごめん、逃げられた」

「そうか、仕方ないな」


 ミキの能力で捕まえてしまえば今後絡まれることもないと思っていたが、世の中そううまくいかないらしい。

 俺はため息を吐くと岩に巻きつけられているしめ縄へと一撃を入れる。

 しめ縄が切れると同時に俺達の意識はゆっくりとぼやけていく。


 これで今日のところは終わりだ。

 というか、連日続いていた夢の中の特訓も終わりとなった気がする。

 今まであったモドキの気配が完全になくなってるし。

 一撃食らって逃げ出した。

 そう考えるのは少々甘い考えなんだろうな。



 目を開けると薄暗い室内だった。

 知らない天井ということもなく、昨夜寝たホテルの部屋であることは間違いない。

 外からは雀の鳴き声が聞こえてくる。

 そして汗のベタつきを感じながら布団を剥ぎ取るとそこには狐耳の美少女が。

 これが朝チュンと言うやつだろうか?

 絶対違うな、うん。


 起こすのも面倒くさい。

 俺はそっとベッドを抜け出し、シャワールームへと向かった。


「もう最終日なんだよなぁ」


 シャワーを浴びながら一人愚痴をこぼす。

 せっかくのゲレンデ、豪華なホテルもまともに楽しめなかったのは辛い。

 平沢達は満喫したようだけど、俺は連日ぐったりしていたからね。


「ちょっと! 何で開かないのよ!」


 脱衣所の外からシスの声が聞こえた気がした。

 まぁ気のせいだろう。

 脱衣所は万が一を考えてきっちり施錠してある。

 もちろん、システムウィンドウを用いて、だ。

 開けれるものなら開けてみるが良い、ふはははは!


 あー、なんかテンションがおかしくなってるな。

 落ち着け、落ち着け。


「貴方は完全に包囲されています! 大人しく扉を開けなさい!!」


 まったく、何を言っているんだか。

 シスのテンションもなんかおかしく……、いつもどおりか?

 まぁいいや。

 背中から響くガタガタという音を無視して俺は汗を流した。



「あ、おかえりなさい」


 体を拭いて脱衣所から出るとシスが何事もなかったかのように出迎えてくれた。

 出迎えのお礼に頭を軽く撫でてやる。


「痛いっ! 愛が痛いよ!?」

「だまりゃっしゃい」


 蹲るシスを横目にベッドへと向かう。

 荷物片付けないとな。


「あ、パパ。荷物片づけておいたよ」

「……、おーう。ありがとな」


 時間稼ぎも出来ず、っと。


「それじゃ、朝ごはん行くぞー」

「うう……。頭が痛いよう……」

「自業自得だ」

「あ、パパ。リコを起こすからちょっとまってくれるかい?」

「ん、ああ、まだ寝てるのか」

「んー、ある意味一番疲れるポジションだから仕方ないんじゃないかな」

「そっか」


 俺達全員の防御担当だしな。

 どうしても疲労が溜まってしまうのかもしれない。

 俺は労おうと布団を軽くめくり、そしてそっと元に戻した。

 乙女にあるまじき惨状となっていたので。


「ミキ、すまんが頼む」

「ん? 良いのかい?」

「ああ、エレベーターのところで待ってるよ」

「わかった、すぐ行くからちょっと待っててね」



 朝食会場に到着すると、神宮寺先輩が新聞を広げ食後の珈琲を飲んでいるところだった。

 なんというか、様になるなぁ。


「ん、神無月か。今日で帰るんだったか?」

「ええ、お世話になりました」

「うむ、こちらこそ世話になった」

「いえ、俺は何もしてませんから」

「謙遜も過ぎると……、まぁいい」


 そう言って神宮寺先輩は新聞をたたみ、コーヒーを飲み干す。


「それでは俺はここで失礼するよ。時間の都合で見送れないのは許してくれ」

「いえいえ、俺達こそこんな立派なホテルに招待していただきありがとうございました」

「ご飯美味しかったで! お肉いっぱいやったしな!」

「そうだね、とても楽しめたよ」

「うんうん、いっぱい食べ物貰えたから当分食材にも困らないし」


 おい、その言い方だと普段の食生活が酷いことになっているように聞こえるだろうが。

 最初は確かに食うものにも困っていたが、最近は割と余裕あるじゃないか。

 肉だって多くはないけどそれなりに食卓に上るようになったというのに。


「いや……。うむ、まぁ、俺は先輩、だからな……」


 何やら気まずそうに目を背けられた。

 誤解は解けそうにないな、これ。



 朝食後、俺は憂鬱な気持ちで荷物をシステムウィンドウへ格納すると、ロビーへと向かった。

 後はバスに乗って帰るだけ。

 さよなら高校一年の冬休み。

 もう少しまともな冬休みを送りたかったよ。


「あ、来た来た」

「遅い……」

「十分前行動は大切だぞ!」


 綾小路達は三十分以上前からロビーで待っていたらしい。

 早すぎだろ。

 なお、伊集院先輩は当然のごとく遅刻してきた。


「帰ったら宿題やらないとな」

「あー、めんどくせぇ……」


 ああ、そうだ。

 平沢達の言葉で思い出す。

 宿題も手付かずなんだよな。

 ほんと、俺は一体何しに来たんだろうか。


「なー、なんでうちも宿題やらにゃあかんの? 精霊には関係ないやろ?」

「ボクはパパに褒めてもらえるなら何でも良いかな」

「私も、悟が喜んでくれるし」


 ミキが項垂れるリコを持ち上げるとバスへと運んでいく。


「まぁ、レベルも覚醒度も大きく上がったし、よしとするべきかな」


 彼女達の後ろ姿を見ながら、俺はそんな事を一人つぶやく。

 そして慣れ親しんだ気配を感じながらバスへと乗り込んだのだった。

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