第百三話 種も仕掛けもございます。
「とーちゃくー」
「ここか」
そいつの案内のおかげで、社までモンスターや罠に遭遇すること無く到着することができた。
尤も、マップを見ると俺達が通ってきた道にはぎっしりとモンスターが詰まっているわけだが。
「お供え物を供えればそのまま地上に戻れるけど、残念だね?」
「いや、そうでもない」
そう言うと俺はシステムウィンドウから雪だるまを取り出し、台へと置いた。
「は……?」
「俺の能力、システムウィンドウだから」
「そ、そんな。ちゃんと記憶の読み取りもしたのに、なんで?」
普段盾や剣、乗り物や果はラップ代わりに使っているが、本来の用途はこっちだからね?
最後に本来の使い方したのはいつだったか思い出せないくらいだが。
「あっ……」
「わかったか? この間抜けめ」
来る途中、全く同じような部屋を何度も通過し、その度に右に曲がったり左に曲がったりとしていた。
案内なしではここに到着できたか少し自信がない。
「こ、この!!」
「おっと、これでゴールだ。俺達は帰るぞ」
俺達の体が青い光に包まれる。
地上への転移だ。
中々スリリングな道中だったが、何とかなってよかった。
これで祝福とやらも貰えるらしいが、あまり期待しないほうが良いだろうな。
「ふざけんなあああああああああ!!!!!」
そんな声を遠くに聞きながら俺達は地上へと生還したの無事、帰還したのだった。
「僅か三時間でございますか。流石は九頭龍殿ですな」
「普通は何とか高層を抜けるのにそれくらいかかるというのに、素晴らしいですな」
戻った俺は関係者に取り囲まれると、口々に持ち上げられた。
いや、間抜けのおかげで中層は何もなかったからね?
「またまた、ご謙遜を」
「お若いのに謙虚ですなぁ」
否定するものの誰も聞く耳を持たず。
実のないものを持ち上げられるというのはあまり居心地が良くない。
シス達にヘルプを求めようと視線をめぐらしたが、彼女達は料理に夢中になっていた。
おい、精霊……。
「神無月殿、こちらに居られましたか」
「やあ。困惑した顔して、どうしたんだい?」
「あ、明神さん。それに鉄守さんも」
彼らがこちらへ向かってくるとモーゼのごとく人が左右に別れていく。
そして俺の前に来ると立ち止まり、俺の両肩を強く叩いた。
「しかし流石ですな! 今年の供物は雪だるまと聞き、驚きましたが無事にお勤めをなされたのですな」
「ええ、例年餅や酒と言ったものなのに、何故今年だけ雪だるまなのかと皆首を傾げていたんだよ」
「ああ……」
「ん? 何か知っているのですか?」
思わず打った相槌に明神さんが反応する。
俺を囲っている他の人達も興味津々と言った様子だ。
単純に神様からの嫌がらせです。
とは言え無いよなぁ。
「あー、ちょっとした戯れ、そんなところみたいですよ」
「ふぅむ、まぁ神のみぞ知るというものでしょうか」
口ごもりながらの回答に、明神さんは何かを察したように頷き、そう言った。
上手く説明できないから助かった。
さすがは年の功ってことなのかな。
「おじいちゃん、どこ?」
感心していると聞き覚えのある声が人混みの向こうから聞こえてきた。
「おお、加奈多か。こっちだ」
「うん? あれ? 神無月さん?」
「なんだ、知り合いだったのか?」
世界は狭いな。
加奈多ちゃんは明神さんのお孫さんだったのか。
「う、うん。前に林間学校でちょっと」
「おおそうか、それは手間が省けた」
紹介しよう、と明神さんが加奈多ちゃんの背中を軽く押した。
「中々の美人でしょう? うちの娘にとても似ておりましてな」
そう言って明神山は胸元からロケットを取り出し、蓋を開けた。
中には美しい女性の写真が。
加奈多ちゃんが成長すればきっとこんな美人になるのだろう、そんな姿だった。
「将来、必ず美人となるでしょう」
「それは楽しみですね」
「でしょう? それでどうですかね?」
「はい?」
どういうことかつかめないでいる俺に、明神さんは加奈多ちゃんを俺の嫁にと言い出したのだった。
「「はぁ!?」」
「何を驚いておる」
「そりゃ驚くに決まってるでしょ!?」
加奈多ちゃんが食ってかかるが明神さんは涼しい顔だ。
むしろ微笑ましいものを見ているかのような表情をしている。
「加奈多、お前は今年十二になるんだったか? 少しばかり離れているが、まぁいいだろう。既に気心もしれておる様子だしの」
「いえ、俺には既に婚約者が居ますし」
フェイクとは言え、一応、ね。
「ん? 伊集院家の娘でしたかの?」
「ええ、そうです」
「……、ふっ。儂の目はごまかせませんぞ?」
そう言って俺の目を見据えてくるが、俺も負けじと見つめ返す。
「……、まぁいいでしょう。うむ、別に本妻でなくても構いませんよ」
「は……?」
「男たるもの、一人の女に縛られるものではありませんからな」
えー。
堂々と浮気宣言ですか。
流石にそれはちょっと。
「おじいちゃん、怒るよ?」
「なんだと? 何が不満なのだ?」
「全部だよ!!」
デスヨネー。
がんばれ加奈多ちゃん。
君の将来は君自信が切り開くんだ。
「神無月さんもぼーっとしてないで!」
「あ、はい」
「ふむ、早速尻に敷かれておるのか」
「「違います!!」」
そんな俺達の姿を、遠くから眺める視線があった。
そう、伊集院先輩の視線である。
気がついた時には既に遅く。
「……」
「いきなり浮気かぁ」
「い、いえ、ですからね?」
「ううん、私との関係は仮のものだもんね。浮気ですら無いよね」
「お願い、話を聞いて!?」
俺はその夜、部屋で正座しながら伊集院先輩とOHANASHIすることになったのだった。




