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第百話 かごめかごめ

 障子を開けた先。

 そこはそれまでの部屋とは違い、板張りとなっていた。

 周囲を見渡すと暗い部屋の四隅にはろうそくが灯され、静かに揺れている。

 手をかけていたはずの障子は消え去り、いつの間にか俺は部屋の中心に立っていた。


「かーごめ、かーごめー。あ、悟、遅いじゃない」


 後ろから掛けられた聞き慣れた声。


「シス……」


 ゆっくりと振り返り、声の主を見据える。

 長い髪に揺れる光が反射する。

 艶やかな唇、透き通るような肌。


 今までずっと一緒だった分。

 少し離れていただけというのに、寂しさを覚えていたのかもしれない。

 俺は思わず手を握りしめ、彼女を見つめた。


「違うな。誰だお前は」


 姿形だけなら、間違いなく俺の精霊のシスだ。

 しかしどこか違和感を覚える。

 彼女の声のはずなのに、いつもの熱を感じないのだ。

 その事に、いらだちを感じずにはいられない。


「え? 何言ってるのよ。私がわからないの?」


 間違いない。

 こいつは、敵だ。


 彼女が一歩こちらに近づくと同時に飛び引く。


「なんで?」

「シスは、そんな目をしない」

「目?」


 ジリジリと背後へと足を運び、距離を取る。

 シスの形をしたそれは、手を口元にやると首をコテンと横に倒した。


「う~ん、全く同じはずなんだけどなぁ」

「動作もどこかぎこちないんだよ」


 ああ、なるほどね。とそれは一人納得したように頷く。


「私が受肉するの、これが初めてだし仕方ないよね」

「……」

「私は、なんていうのかな。シス、だっけ? あなたの精霊」

「……」

「まぁそれの、姉妹、みたいなものかな。そうね、カナとでも呼んで頂戴な」


 姉妹、ね。

 ミキの件も含めて、ろくでもない予感しかしない。


「ま、彼女はただの『窓』だし大したことないとは思うんだけどさ」


 アクセス権限もなければネットワークもないしね。

 とカナは続ける。


「あった所で無駄なんだけど。それでもやっぱり不快なんだよね、自分の一部が削られたままっていうのはさ」

「……」

「だから、返して?」


 その言葉と同時に俺の周囲に火柱が立ち上る。

 火柱はすぐに消え去ったが、そこには伊集院先輩達が俺を見つめ立っていた。


「返せと言われて、はいそうですかとでも言うと思っているのか?」

「まぁそうだよね、せっかく手に入れた力を手放すわけないよね」


 欲深い人間め。

 カナはそう吐き捨てると目をつぶり、軽く首を振った。


「なら、ゲームをしよう」

「ゲーム?」

「簡単なゲームだよ。かごめかごめ、知ってるでしょ?」

「そりゃまぁ」


 それじゃいいよね。

 と凄惨な笑みを浮かべるカナ。


 いやいや、俺がそのゲームに参加する理由ないんですけど。


「ああ、出口は閉じておいたから私に勝たないと帰れないからね」


 性格悪っ!

 疲れてきていることもあり、少し苛ついてしまう。


 だが落ち着かなければ。


「普通にやってもつまらないから少しルールを決めようか」

「ルール?」

「そうだよ、ルールだ。そうだね、貴方が一回間違えるごとに貴方の寿命が十年縮まるなんてどうかな?」

「……、当てた時の報酬は?」

「は? 報酬? 要求できる立場だとでも思っているの?」


 まぁ、普通に考えればそうなんだろうが。

 言うだけならタダだし、余裕を見せる事も大切だろう。

 張子の虎でも張り子とバレなければ警戒せざるを得ないだろうし。


「当然だろう? 元々テーブルに乗ってなかったチップを俺に出させるんだ。あんたも対価を提示すべきだろう」

「く、くく……、本当に、人間というのは、業が深い……」


 彼女の周囲から紫色の炎が吹き上がる。

 やばい、攻めすぎたか?


「だが、良いだろう」

「……」


 ……、言ってみるもんだな。

 俺は背中に冷たいものが流れるのを感じながらニヤリと微笑みを返す。


「そうだな……、祝福がいいか」

「祝福?」

「ああ、もしも私に勝てたなら、汝に祝福を与えよう」


 祝福、ねぇ。

 この祟り神みたいな存在からの祝福とか、まともなものではない気がしてならない。

 だが、腐っても神様。

 寿命をチップにださせた対価だ。

 それなりのものをよこすに違いない。


「わかった、いいだろう」

「それでは始めよっか。あ、そうそう、私は抜けるからね」


 そう言って一歩下がり笑う彼女。

 勝利を確信したような顔だ。


「随分と嬉しそうだな?」

「そりゃそうだよ、調子に乗った羽虫が絶望に苛まれながら堕ちていく姿が見れるんだから!」

「そないでっか」


 性格悪いなぁ、こいつ。

 シスと同じ顔で言われるとその酷さが際立って感じられる。


 俺が目をつぶると俺を囲うように気配が移動する。

 あとは俺の後ろに誰が立っているか当てればいいだけだ。

 伊集院先輩や加奈多ちゃん、綾小路達と人数は多い。

 適当に言ったのなら確率は一割以下。

 それを見越しての発言だったのだろうが……。


「さ、早く早く!」

「へいへい」


 だが、こいつはバカだな。


 俺の呆れ混じりのため息は周りから奏でられるかごめかごめの合唱に消し去られたのだった。



「後ろの正面だあれ?」


 周囲の気配が動きを止める。

 途中猛スピードで回転したため、誰がどこに居るかなんてさっぱりわからなくなっている。


「さぁ、早く答えてよ」


 カナは厭味(いやみ)ったらしい声で聞いてきた。

 俺が迷っている姿、苦しんでいる姿を見たくてたまらないと言った風だ。

 その期待には答えられないんだけどね。


「答えは、カナ。お前だ」

「……、本当にそれで良いのかな?」


 カナの声に一瞬動揺が交じったのを俺は聞き逃さなかった。

 まず間違いないだろうと思っていたが、おかげで確信が持てた。


「ああ、そうだ」

「……、私の負けだ。しかしどうしてわかったんだ?」


 悔しそうに聞いてくるカナ。

 どうしても何もなぁ。


「いや、お前の性格から考えたら当然だろう」


 態々(わざわざ)抜けて俺に有利になるようなことをこいつがするか?

 ありえない。

 そして現れた伊集院先輩達、それはカナの作り出した分身とでも言えるもの。

 ならば答えは一つというわけだ。


「本当に人間というやつは……」


 忌々しそうにカナは呟くと白い粒子となって消えていった。


「あ、おい!」


 あんにゃろう。

 祝福貰ってないぞ。

 賭けに負けたのにチップを払わずに逃げるとか。

 ま、退けただけ御の字と思っとくか。


「さて、早く戻らないと」


 カナの消えた場所に現れた扉を見つめながら俺は漸く終わったと一息つくのだった。

祝百話!

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