第一話 戦隊全滅!?
「みんな、ここが正念場、最終決戦だ。
カラフルレンジャー最終奥義、カラフルアタックキャノンだ」
「おう!」「わかったわ!」「まかせて!」「準備完了」
レッドのかけ声に、俺たちは気合いを込めて返事をする。
悪の組織『ジャアクドー』との最終決戦。
敵の最強戦力、アルティメットジャアクドー仮面に俺たちは照準を合わせる。
「いくぞ!」
「「「「「カラフルアタックキャノン」」」」」「発射!!!」
カラフルレッドのかけ声で、赤、青、黄、ピンク、緑の五色の光線が一つになり、眩い白色光が敵のモンスターに命中する。
いつもならこの攻撃の瞬間に大爆発が起こる。
今まで、全ての敵はこの一発で屠ってきた。
しかし今回は……
はじき返された。
俺たち五人に向かってくる究極の破壊光線は、俺たち自身の渾身のパワーが込められている。
全力を込めた一撃の後は俺たち自身もパワーダウンしており、もはやこの反射光線を躱す力は残されていない。
俺たち五人を巻きこんだ極光は瞬間ではじけ、きのこ雲がドクロの形をなし、やがて空中に霧散する。
吹き飛ばされた俺はかろうじて上半身を起こし立ち上がろうとするが、膝に力が入らず起き上がれない。
仲間の四人も地に伏しており、誰もぴくりとも動かない。
四人ともパワードスーツは焦げ、マスクにはひびが入っている。
どうやら意識を保っているのは俺だけのようだ。
俺の名は青海 渉。
またの名を全色戦隊カラフルレンジャーのNo.2、カラフルブルーだ。
といっても、たぶんこの名前は俺の本名ではない。
というのも、俺は1年前に記憶喪失の状態で戦隊本部前の海岸に倒れていたのだ。
ちょうど隊員募集中だった戦隊本部に助けられ、行く当てがなかった俺は入隊試験を受けたところ都合のいいことに合格してしまったのだ。
記憶は完全になくしたが、俺は随分鍛えていたようで、体力試験、格闘試験とも難なく突破してしまった。
試験の成績はぶっちぎりの1位だったのだが、いかんせん完全に欠落した記憶のせいで、戦隊のリーダーの役目は成績2位の紅 煉也に譲ることとなった。
もっともリーダーになりたかったわけではないので、何も問題ない。
俺は元々コミュニケーションが余り得意ではなかったらしく、他とあわせるので精一杯なのだ。
むしろ一人で戦った方がしっくりくるぐらいだ。
といっても、敵の怪人は強力で、たとえパワードスーツの助けを借りても、一対一では分が悪い。
ここはやはり、戦隊ヒーローらしく協力が不可欠だ。
ちなみに、名前すら思い出せなかった俺に青海 渉という名前をつけてくれたのは、何を隠そうリーダーの紅 煉也だった。
砂浜で気を失っていた俺は、まるで青い海を渉って来たように見えたという煉也の言葉がそのまま名前になったらしい。
俺が住む現代の日本は、なぜか次々と世界征服を狙う悪の結社が誕生する。
これに対抗するヒーローは大まかに分けて2種類存在し、一つが俺たちのような戦隊ヒーロー、もう一つが仮面ドライバーと呼ばれる一人で戦うヒーローだ。
戦隊ヒーローは5人組が多く、5人でよってたかって1人の怪人をぶちのめす。
仮面ドライバーはバリバリ(死語)の改造車を狩り、悪の戦闘員どもをはね飛ばしながら、ボスキャラを蹴り倒す。
見方を変えれば悪の組織とどちらの行いが極悪非道か、甚だ疑問なヒーロー達だ。
そしてそんな彼らの活躍で悪の組織が壊滅すると、なぜか、戦隊ヒーロー達は普通の男の子、女の子に戻りたいと引退してしまい、仮面ドライバー達は外国にはびこる悪の組織を根絶やしにするため海外へと旅立つ。
そしてヒーロー不在となった日本には新たな悪の組織が誕生し、それに対抗するため新たなヒーローが生まれる。
実際、俺たちカラフルレンジャーの前には仮面ドライバーZ3(ズィースリー)というヒーローが悪の組織『ネオジャドー』と戦っており、最後は敵の首領を葬ったといわれている。
この、Z3は他のヒーローと違うところが2つある。
1つはZ3の正体が不明である点である。
他の仮面ドライバー達は変身前の姿が知られているのに対し、Z3は変身後の姿しか一般には認知されていない。
もう一つは、悪の組織の壊滅と供に行方不明になった点であろう。
海外に旅立った他の仮面ドライバー達と違い、敵の本拠の爆発を最後に、姿を確認した者がいないのだ。
このことからZ3は歴代仮面ドライバー初の殉職者だと言われている。
何にしても、Z3が身を捨てて取り戻してくれた日本の平和は、わずか3日後に立ち上げられた悪の組織『ジャアクドー』によって脆くも崩れ去ったのである。
ちなみに、この3日間の平和を日本では明智光秀の『三日天下』になぞらえて『三日平和』と呼んでいる。
そして、この『ジャアクドー』の魔の手から日本を、いや世界を守るために結成されたのが我らカラフルレンジャーなのだ。
俺たちの力は強かった。
5人の合体技であるカラフルアタックキャノンは当たれば確実に敵を粉砕した。
俺たちの戦いはカラフルアタックキャノンを撃つ前に敵を弱らせたり拘束したりし、回避不能にしておくことだったと言っても過言ではない。
今までに、カラフルアタックキャノンを返されたことなど皆無だったのだ。
しかるに、この現状。
5人の仲間は今や俺一人。
俺一人で放つブルーキャノンでは、カラフルアタックキャノンすら通用しないアルティメットジャアクドー仮面に効果があるとは思えない。
第一、カラフルアタックキャノンを返された衝撃で全身ぼろぼろである。
「ふあははははっ!
カラフルブルーよ、後はお前一人だけのようだな。
俺様直々にじっくりとなぶり殺してやろう」
アルティメットジャアクドー仮面はさも楽しそうに、ゆっくりと俺の方へ近づいてくる。
一人ではどうしようもない。
ここは一旦戦略的撤退を選択し、体勢を立て直すべきだ。
しかし、仲間を見捨てることは出来ない。
それ以前に、逃げようにも体が動かない。
アルティメットジャアクドー仮面はゆっくりと俺の前に立つと、思いっきり俺の腹を蹴り上げた。
「ぐふっ」
俺は吹き飛ばされ、地面を転げ回って倒れる。
アルティメットジャアクドー仮面はまたゆっくりと俺に近づき、うつぶせに倒れる俺の背中や腰を踏み蹴る。
どうやら敵は、本当に俺をなぶり殺しにする気のようだ。
何分、いや何時間いたぶられ続けただろうか。
もはや時間の感覚もないが、パワードスーツの防御力のおかげで、俺はまだかろうじて生きていた。
しかし、それももはや限界である。
耐久値を越えたパワードスーツが音もなく消失し、俺の変身は解かれる。
変身ブレスレットは光となって消失した。
「ふあはははっ!
いよいよ最後のときが来たようだなカラフルブルー!」
アルティメットジャアクドー仮面はさも楽しそうに笑いながら言う。
「これでとどめだ!
アルティメットキック!!!」
アルティメットジャアクドー仮面の渾身の蹴りが俺の側頭部へ迫る。
『もはやここまでか……』
俺は最後を覚悟したが、奴の蹴りが当たる瞬間、頭を蹴りの方向へとわずかに動かし、衝撃を緩和しようとした。
しかし、敵の蹴りは強烈だった。
俺は首がねじ切れるのではないかというほどの衝撃で頭を蹴られ、体ごと吹き飛ぶ。
一瞬意識が飛んだが、空中に飛ばされている間に意識が戻る。
我ながら丈夫な頭だ。
しかし、地面に激突するのは時間の問題だ。
仮に助かってもすぐにまたアルティメットジャアクドー仮面が攻撃してくるだろう。 俺の運命は、相変わらず風前の灯火なのであった。
後編をこの後すぐに投稿予定