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一の七 陣笠を被ったそいつ

 陣笠を被ったそいつ。平蜘蛛は、祠の屋根の上にへばりついていた。彼女の足元でじゃれていた野良猫が屋根に飛び乗って、平蜘蛛の手にすり寄ってゆく。

「なんと。おぬしにも見えるのか、そうか」

 そう言って、平蜘蛛もまた彼女と同じように野良猫を撫でた。僕は後ずさりして身構えていた。けれど、嬉しそうに目を細める野良猫を見ていると、平蜘蛛が悪い奴ではないように思えてきた。

「姫。この若造をお借しますぞ」

 彼女は一度、小さく頷いた。

「ついて参れ」

 平蜘蛛は生き生きしていた。幽霊だろうから変な表現だが、生き生きしていた。

 警戒心の解けた僕は平蜘蛛の後に続いた。

 平蜘蛛は歩きかたが変だ。哺乳類の歩きかたじゃない。胴体は地面スレスレ。これではまるでトカゲかゴキブリだ。いや、クモか。平蜘蛛っていうくらいだし。

 そうこうしているうちに、橋の中ほどまできた。そこで平蜘蛛はぴたりと歩を止めた。

「おぬしの言う通り、殿はおらぬ」

 先ほどの口調とは一転して、行き交う車にかき消されそうな、か細く低い声で平蜘蛛が呟いた。

「どうして彼女に嘘をついたの?」

 平蜘蛛は黙ってしまった。長い沈黙が続いた。信号が赤になり、車の音が止んで街の喧騒も消える。魚の跳ねる音がひとつ、聞こえた。

「わしは頭が悪い。そのときは、それが最も善い策だと信じた」

 平蜘蛛はゆっくりと言葉を発した。ひとつひとつの単語を慎重に選びながら喋っているようだった。

「姫を助けてやってくださらぬか」

 僕は彼女に恋をしているから。僕になにかできることがあるのなら、やってあげたい。断る理由はない。けれど、僕は彼女のことをなにも知らない。

「どうしていつも、彼女はあそこにいるの?」

 僕はそれを、知る必要がある。彼女を助けるために。

 平蜘蛛は欄干によじ登り、ゆっくりと話し始めた。川の中にぽつんと佇むオバケ煙突が、水面に長く影を伸ばしていた。

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