表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/28

一の十七 僕は地縛霊に恋をした

 僕は地縛霊に恋をした。いや、今でも彼女に恋をしている。けれども、そういったことは心の内に閉まっておこうと思う。

 センター試験が終わり、二次試験まであと一週間を切った。あれからずっと、彼女の姿を僕は見ていない。

 彼女は近くのお寺で供養された。オバケ煙突にはお寺からお地蔵様がやってきて、彼女の代わりに入ったらしい。

 祠の隣りには供養塔が建てられた。彼女らしい小さな供養塔だ。今日はお参りする日だから。学ランの詰襟の上からぐるりマフラーを巻いて、僕は市電を降りた。

 雪が降っている。それほど酷くはない。乾いた粉雪だ。

「姫になにか伝えることがあるか」

「わっ!?」

 彼女に手を合わせていると、平蜘蛛が話しかけてきた。毎回僕に不意打ちを食らわせる平蜘蛛は、それを楽しんでいるみたいだ。陣笠で隠れているから表情は見えないけれど。絶対楽しんでいる。僕には判る。

 彼女がどこでなにをしているのかを、平蜘蛛は知っているらしい。ウソかホントかは判らないけれど。

「春になったら県外に行くかも。だから、毎月ここにくるのは無理になる」

「……姫に伝えよう」

 平蜘蛛が頷いた。

 それは別に、彼女に伝えたいことではなくて。ただ、平蜘蛛に言いたかっただけなのだけれど、まあ良いか。

「平蜘蛛は生まれ変わりたいと思わないの?」

「わしはこのまま這いずり廻るのが性に合っておる」

 あ、這いずり廻ってる自覚はあるんだ。

「県外に行ったらさ。平蜘蛛とも、あんまり会えなくなるね」

 平蜘蛛は動かない。顔も見えないし、なにを考えているのか。

 と。

「さらばじゃ」

 ぽつり、平蜘蛛は呟いた。僕が頷くと、平蜘蛛は優しく笑ったように見えた。

 平蜘蛛は欄干によじ登って僕のほうを一度振り返った。そして、橋の下に隠れ去った。

 それ以降、僕が平蜘蛛を見ることはなかった。


 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ