表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/28

一の十五 左ポケットの携帯電話が震えた

 左ポケットの携帯電話が震えた。メールだ。

 時計の針を見ると、さっき見たときからまだ三分しか経っていない。そろそろ終わりだと思っていた課外授業は、まだ始まって九分だ。

「先生、体調不良で早退します」

 絶対、体調不良じゃないな。先生とクラスメイトの視線がそう言っている。体調不良かどうかなんて、僕にはどうでも良かった。僕は授業を放棄する。僕の言葉はその意思表示だ。机の脇に引っ掛けてあるリュックとカバンを抱え、僕は教室から走り出た。

 メールの送り主は父さんだった。「学校が終わったら来い」。内容は一文だけ。いかにも父さんらしい。

 父さんは普段、メールをしない。というか、電話もしない。父さんとのコミュニケーションは、いつも顔と顔とを向き合わせたときにしかなされない。

 僕は走った。父さんがわざわざメールをしてくるということは、ことが動いたということ。つまりはそういうことなのだろう。

「父さん!」

 僕を見た父さんは驚いた様子だったけれど、煩わしい課外授業のことなんて一切訊いてこなかった。代わりに。

「被れ」

 と言って、白いヘルメットを僕に手渡した。

 オバケ煙突から橋の一角にかけて足場が組まれていて、橋の上からオバケ煙突の根元まで歩いて行けるようになっている。僕は父さんと一緒に、現場を囲う白いシートをくぐり、組まれた足場を降りた。

 石垣が取り除かれたオバケ煙突の表面に、なにかが見えている。湿った土の壁から露出している、なめらかな黒い曲面。

 これは大甕に違いない。この中に、彼女がいるのだ。

「もうすぐだよ。もうすぐ、出してあげるからね」

 大甕はおっちゃんたちによって掘り出され、クレーンで橋の上に運ばれた。

「見なくても良いぞ」

 父さんが言ったけれど、僕は首を横に振った。

 もうすぐ、彼女を助けられるんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ