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一の十四 橋の上にクレーン車がやってきた

 橋の上にクレーン車がやってきた。片側の歩道と外側の一車線が通行止めになった。オバケ煙突の周りに足場が組まれ、半日もかからない内にすっぽりと隠れてしまった。

「すごく早いんですね」

「仕事だからな」

 白いヘルメットをかぶったおっちゃんのひとりが、日に焼けて汗の滴る笑顔を向けてくれた。

 張り出したアウトリガで車体を固定したクレーン車の姿がまるで平蜘蛛みたいで、なんだか嬉しい気持ちになる。

 僕は毎日、作業の様子を観に行った。河川敷に下りる階段に座って。ペットボトルのサイダーを飲みながら。

「おぬしには人を動かす力がある」

「わっ!?」

 いつの間にか隣りにいる平蜘蛛に、びくりと驚かされる。平蜘蛛は尻を上、頭を下にして、階段の勾配に沿ってへばりつくようにしている。僕の眼には苦しい体勢らしく映るけれど、平蜘蛛にはごく自然なのだろう。

「僕だけの力じゃないよ」

 僕の力は微かなものだ。僕は、彼女と平蜘蛛と僕の想いを、父さんに伝えただけ。そして現場のおっちゃんたちが引き受けてすべてのことをやってくれている。

 大人は凄い。力の重ね合わせは凄い。だって、僕の力ではぴくりとも動かすことの叶わなかったオバケ煙突の石垣が、今はワイヤーの先で揺れているんだ。凄いことだ。

 夕焼け空にクレーンの黒い影が鮮やかで。ペットボトルが空っぽになってもずっと、僕らはそれを眺め続けた。

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