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一の十三 「好きな人がいるんだ」
「好きな人がいるんだ」
なにを言っているんだ、僕は。
「その人はオバケ煙突の中にいる。……その人を助け出したいんだ」
本当に、なにを言っているんだ。
けれど父さんは黙って聴いていた。クスリとも笑わずに、真剣なのかは判らないけれど、いつもの飄ひょうとした顔で聴いていた。
「古橋のオバケ煙突には、父さんがガキのころから人柱の噂があったなあ……」
父さんは顔つきを変えないまま、ぼそりと呟いた。
「どうしてもと言うなら、一肌脱いでやらんこともないぞ」
父さんはゆっくりと、握り拳を僕の前に持ってきた。
「男の約束だ」
なにを言っているんだ、この人は。僕が握り拳を差し出すと、父さんが拳を突き合わせた。拳がぱちりと音を立てたとき、父さんはにんまりと笑った。




