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一の十二 結局なにもできなかった

 結局なにもできなかった。オバケ煙突には歯が立たない。僕は仕方なく家に戻った。なにが「きみは僕が助ける」だ。恰好悪いったらありゃしない。

「ただいま」

 玄関のドアを開けると、待ってましたと言わんばかりに水の流れる音がして、父さんがトイレから出てきた。

「……どこ行ってたんだ? そんなにズボン濡らして」

「ちょっとそこまで。ちゃんと手洗ってよ」

 父さんを軽くあしらって、僕は自分の部屋で着替えた。晩酌中だったのか、父さんの横を通り過ぎたとき、甘いアルコールの臭いがした。

 リュックをベッドに放り投げ、机に肘をついて溜息をつく。さて、どうしたものか。オバケ煙突の中に閉じ込められた彼女を救い出すのに、僕になにができるのか。

 もう何度目が判らない溜息をついたとき、背後からドアが開く音がした。ノックもせずに入ってくる人は、この家にひとりしかいない。

「なあ、ちょっと良いか?」

 最後の溜息をついてから、僕は無遠慮なその人のほうを振り向いた。酒臭いその人は既に、床にあぐらをかいていた。父さんは本当に、無遠慮な人だ。

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