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一の十一 河川敷に降りた
河川敷に降りた。橋の下のコンクリートの壁には、黒や青のスプレーで暗号めいたなにかが書かれている。暗号のそばにリュックを置いた。僕はホームセンターで仕入れた諸もろの品を装備して、川に入った。
目指すはオバケ煙突だ。
ゴム長靴を買ったは良いものの、川は意外に深く、腰まで水に浸かってしまう。けれど水の流れはほとんどなくて、足を取られることはない。
服が水を吸って脚が重い。ああ。着替えの服。持ってくるのを忘れたな。
ツルハシを突いて足元を探りながら、一歩ずつ近づいた。
近づいてみると、オバケ煙突は意外に大きい。彼女を閉じ込めている石と土の塊が目の前にそびえている。
僕はそのときになって初めて解った。こいつには敵わない。僕ひとりの力ではどうすることもできないのだと。
僕は引き返した。水からあがったところで、リュックを置いていた壁ぎわに平蜘蛛がいるのに気付いた。
「どうだった?」
「どうって……」
僕は答えられなかった。
「おぬしはわしが認めた男じゃ。おぬしならできる」
励ますように、平蜘蛛が言った。




