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一の十 電停を降りて走った
電停を降りて走った。点滅する青信号の光と、それを反射して流れていく黒塗りのタクシーの群れ。僕は祠に向かった。
今夜は少し風があって、柳の葉がさらりさらりと音を鳴らして揺れている。いつものように、彼女はそこにいた。同じ場所に、同じ姿で。
「もうすぐだから」
彼女は驚いたようにしていた。初めて話したときと同じように、少し目を大きくさせて。こんなに遅い時間に僕が現れたからだろう。
「僕がきみを助ける」
彼女の両手が、僕の手を握った。彼女の手は、温かい。僕は確かにそれを感じた。彼女の涙が頬を顎を伝い雫になって、僕の手に落ちた。僕は確かにそれを感じた。間違いなく、確かに。彼女は僕に触れたんだ。
僕は里芋の小皿を供えた。
「いってくるよ。安心して待っててね」
彼女の笑顔を僕は、初めて見た。笑った顔の彼女は綺麗だった。




