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一の九 彼女を助ける

 彼女を助ける。そう決めた。

 課外授業の後、僕はホームセンターに向かった。そこで軍手と、ゴム長靴と、頭に巻くバンド付きのLEDライトと、ツルハシを買って、自宅でそれらをリュックに詰め込んだ。

 準備は整った。今夜、僕は彼女を助け出す。

 晩飯御には里芋が出た。里芋の煮っころがし。食卓を囲むのは父さんと、母さんと、僕。

「勉強は順調なの?」

「ん。ぼちぼち」

 毎晩のよう訊いてくる母さんの定型句。僕は吐く息に嘘を載せた。

「母さん心配してるのよ? お父さんもなにか言ってよ」

 母さんは、プロ野球中継を眺めている父さんに援護を求めた。液晶画面の向こうでは助っ人外国人が特大ホームランを放っていた。父さんの顔面は球の行き先を眺めるマウンド上のピッチャーと同じ。

「いざとなれば男はなんでもできるからなあ」

 父さんの半開きの口から薄っぺらな言葉が漏れた。

 父さんは一応、大学の先生だ。けれど賢いようには見えない。僕にとっては普通に足が臭いだけの一般的なオヤジだ。

「おれの大学に入るか?」

 父さんは大学の経営者ではない。民俗学の先生をやっている。けれど僕は、民俗学がどんな学問なのか知らない。せいぜい田舎を歩き回って昔話を集めている人というイメージがあるくらいだ。

「母さん。これ、持っていくよ」

 僕は里芋の載っかった小皿を指した。

「夜食ならラーメンとか作ろっか?」

「いや。里芋が良い」

「嫌いじゃなかったっけ」

 嫌いなものをわざと出してきたのか、この人。だけれど、今日ばかりは感謝しよう。

 自室に戻り、ラップを張った里芋の小皿をリュックに詰め込んだ。壁の時計を見上げる。八時半。僕はリュックを背負って部屋を出た。

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